第77話 私は悟ってしまった


 そうすれば帝国はカイザルの他に隣国の相手までしなくてはならなくなるため、四方八方から攻められては防御に兵を割く事は兵士の人数的に出来ない、それこそ帝国全国民を総動員しても人数が足りず四方八方から攻めて来る敵に対処することは無理であり、ここまでくれば寝返る仲間も出て来てしまい帝国は呆気なく地図から消えてしまうであろう。


 そこに皇帝陛下であるガイウスならばどうにかなるという奇跡などはない。 所詮は血筋こそ歴史があり高貴存在とされているのだが皇帝陛下も人の子には変わりないのである。


 だからこそ私は今から誰に仕えるべきかを考えなければならない分岐点に今立っているのであろう。


 そして私はそんな事を考えながらリリアナ様がいる別荘へと戻ってきた。


 緊張から足は震え、喉は渇き、手のひらには汗が滲む。


「どこに行っていたのかしら?」


 そんな私を、まるで私が帰ってくるのを待っていたかのようにリリアナ様が声をかけて来る。


 今までそんな事など一度もなく、少しだけビックリしたものの、予測はできていたため、表情に出さずに済んだ。


 恐らくリリアナ様は今までストレスの捌け口にしていたのだが、そのストレスの捌け口が無くなるだけではなく、ストレスの捌け口であったカイザルに見下され立場が逆転してしまった現在のリリアナ様の抱えるストレスは、とんでもない大きさへと膨れ上がっている事は容易に想像することができる。


 その捌け口を新たに見つけようとしているだろうし、見つけなければリリアナ様の精神が持たないだろう。


 そして、そのストレスの捌け口は、私になるであろう事はあらかじめ想像できていた。


 だからこそリリアナ様が私の帰りを待っていた事には驚きはしたものの予想はしていたためそこまで驚きはしなかった。


 これが私を心配していたが故に待っていたのであればどんなに良かったことか。


 それこそ、ただそれだけで私は沈みゆく船である分かっていてもリリアナ様に生涯忠誠を誓っていたであろう。


 しかしながらそうではないことはリリアナ様の表情を見れば分かる。


 その表情はまるで、カイザルに反抗的な態度を取られた時に見せるような怒りの表情であった。


 その瞬間私は悟ってしまった。


 リリアナ様のストレスの捌け口がカイザルから私に代わってしまった事を。


「すみません、リリアナ様の側仕えでありながらちょっと用事で出かけておりました」

「そんな言い訳が通用するとでも思っているのかしら? まさかあなたがここまでバカだとは思わなかったわ、オリヴィア」

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