第76話 正しくもあり間違ってもいる

 馬鹿だ間抜けだと思って見下していたカイザルの手のひらの上で私たちは見事に転がされていたという事なのだろう。


 実に滑稽な話ではないか。


 カイザルの言う通り、私の首を切り落とされなかったのはタダの慈悲であり、気まぐれだったのであろう。


 あれほどの事をしておいて片腕だけで済んだだけではなく、回復魔術を行使して止血までしてくれているのである。


 その事からもカイザルの器の大きさが垣間見えてくる。


 それとともに私は一つ疑問に思う。


 私が仕える者は本当にリリアナ様なのであろうか? という事である。


 仮に私が仕える者が本当にリリアナ様であった場合、このような事にはならなかった筈である。


 それこそ、カイザルの事を自分の伴侶として向かい入れ、帝国もカイザルへ牙を向けたりはしなかった筈である。


 今まで盲目的にそれが正しいと、そしてリリアナ様や皇帝陛下であるガイウス様こそが正しいと思っていた結果がこれではないか。


 我ら一族は代々皇族に仕えて来たし、そう思われてきたのだが、それは正しくもあり間違ってもいる。

 

 正しくは、自分が仕えると心の底から思った者に仕える一族であり、それがたまたま皇族であったというだけである。


 特にここ数百年は他国との小競り合いはあったものの帝国を脅かすような窮地に陥った事もなく帝国一強の時代が続いているが故に皇族しかいなかったというだけである。


 そして私もまた、他の者同様に盲目的にそうあるべきと思っていたことに気付かされる。


 恐らくカイザルが自分の自身の力を隠していた理由に、皇帝陛下であるガイウスに目を付けられないようにする為であろう。


 もしその才能をガイウスに見つかってしまった場合はどんな手段を使ってでも手駒にしようとしていただろう。 それこそ奴隷にすることも厭わなかったであろうことは容易に想像がつく。


 そして、そのカイザルが自身の力を隠さなくなったという事は、隠す必要が無くなったという事であり、言い換えればカイザルは自分一人で帝国を相手にする事ができる力を手に入れたという事でもある。


 もちろん一人で帝国を相手にすることは無理があるだろうから、この場合は帝国に対して確実に打撃を与えられるだけの力を手に入れたと考えるべきであろう。


 しかしながらこの場合は勝てないまでもまともにやり合った場合は隣国がハイエナのごとく帝国を食い荒らしに来るはずなのでカイザルはその時まで耐えしのぎ、そして隣国が動き始めたところでまた反撃へ転じればいいだけである。

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