第64話 それだけである


 どうせ昨日の一件で自分たちは俺に見捨てられたら生きては行けないという事に気付いてしまったのであろう。


 貴族としての贅沢な暮らし、公爵家としてのプライド、それら煌びやかで周囲からチヤホヤされた生活と、それらを全て捨てて平民で暮らしていくという選択で、平民として暮らしていく事を選ぶことが出来なかったのであろう。


 それこそ、俺に媚びを売ってでも捨てることが出来なかった、それだけである。


 そのためこいつらは今までの行いに悔いて俺に媚びを売り始めたのではなく、貴族として生活していく為に媚びを売っているだけである為何故そんな欲望にまみれて自分の事しか考えていないよな奴らの為にこちら側から歩み寄らなければならないのだろうか?


 それこそ、貴族であることを捨てて平民で生きていく事を決意した上で俺に対して謝罪をしたのであれば全てを許すことはできないのだが少しばかりは、そうほんの少しだけはその謝罪の気持ちは認めてあげても良いとは思うのだが、俺の家族には一生かかっても無理であろう。


「か、カイザル? 朝飯ができたわよ?」

「だって、ご主人様」


 そして昨日の今日である為俺に媚びを売り始めたと言えどもまだ慣れていないのかぎこちない猫撫で声で俺に朝食が出来たことを俺の部屋の扉をノックしたあとに、扉の向こうか朝食が出来た事を母親が告げ、その旨をエルフで俺の奴隷がわざわざ教えてくれる。


「聞こえているからいちいち教えてくれる必要はないんだが?」

「あら? ご主人様の為に甲斐甲斐しく世話を焼いているだけじゃないの。 そろそろご主人様との間に子供を作っても良いのよ? 本当はエルフの美少女にここまで甲斐甲斐しくされて今にも私と子作りしたくてたまらなくなっているのではなくて?」

「いや、自分でそれを言うとさらにそういう気分にならなくなるんだが?」

「まぁ、そういう事にしといてあげましょう。 しかしながらいつまでそうやってやせ我慢ができるのか見ものですね」

「言ってろ」


 そして、当然のように俺の部屋にシシルが居ることに突っ込まなくなったあたり『この部屋にシシルがいる事が当たり前の事になった』という事でもあり、少しばかり危機感は感じるもののだからと言ってデメリットがあるわけでもないので今はまだそのままでも良いだろう。


 最悪子供が出来たところでどうにでもなるだろうし、なんだかんだでエルフの中でも魔術に長けるシシルをそれで隷属関係だけではなく子供という鎖を繋げられるのであればそれはそれでメリットであると考えて良いだろう……多分。


 しかしながら子供を作るにしても今ではないのは確かであるので俺は適当にシシルをあしらい朝食を食べに行く準備(着替えなど)をする。

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