第61話 怒り狂いそうになる

 我が聞くと、公爵家であるクヴィスト家であり、貴族間でも使えないと有名である息子のカイザル一人を生きたまま連れてこいという我の命令を無視して逃げようとし、飼い主である我に唾を吐きかけたゴミムシを逃げないように縛っている縄を後ろで握っている兵士の一人が玉座の間に響き渡るような声で返事をする。


「ふむ、そしてこやつはクヴィスト家へと帝国冒険者ランクS級である【竜殺しのゴーエン】に、憲兵や帝国軍もかなりの数を招集して向かっただけではなく自分の息子を出世の為に連れて行き、とある貴族へ自らの地位を確保するために我に内緒で同行させていたと?」

「はいっ! そうでありますっ!!」

「さらに、これだけの兵力を集めた上で自らの私利私欲にも使おうとして見事に惨敗の上敗走するだけではなく、その旨を我に報告するのが怖くて国外へ逃亡を謀ったところを捕縛したと?」

「はいっ! それで間違いありませんっ!!」


 そして我が兵士に何が起きて我がカイザルを連れてこいと命令したにも関わらずカイザルを捕まえられなかっただけではなく自分が捕縛されて戻って来たのか、その原因を聞いていく度に、捕縛された貴族の顔がみるみる変わっていき、はじめは恐らく平民である兵士が貴族である自分に対して不利な情報を隠しもせずに答えている事で怒っていたのであろう、真っ赤な顔でその兵士をにらみつけていたのだが、その赤色の顔が白、青、緑、土気色へと目まぐるしく変化していき、それにつれて呼吸も荒くなり、脂汗も凄い事になっている。


 その変化を見るのは、それはそれで楽しく、普段であればわざと小さなミスをした家臣や貴族に対して怒ったふりをしてその変化を楽しんでいる(常に緊張感を持たせる為に稀に本当に実行もする)のだが、今はこいつの表情の変化を楽しむなどという余裕は我には無かった。


 今の我の頭の中には強烈な怒りしかなく、今すぐにでも怒鳴り散らし、帝国軍を全軍招集してカイザルを殺しに行きたい衝動を抑えるので精いっぱいである。


 しかしながらそれをしてしまうとこんなクズに煽られて慌てふためきキレ散らかし良いようにそのクズに踊らされている、器の小さな皇帝というイメージが貴族だけではなく庶民にまでついてしまう為に我はその怒りを必死に抑える。


 それこそ庶民の笑いものとして語り継がれてしまいかねない。


 そして俺の思うがままに好きなように行動できないという現状が、また俺中に怒りを注ぎ込んでいき、その負の連鎖が俺を苦しめ、この苦しみがあのクズによって引き起こされていると思うとまた怒り狂いそうになる。

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