第57話 別に?

 そして俺は切り落とされた腕を呆然と眺めているゴーエンに近づきしゃがむと、顔を近づけ睨みつける。


「それで、確か『土下座で謝罪して大人しく連行されるのであれば四肢は切り落とさずに連行してやろう』だっけか? 当然俺の四肢を切り落とそうとしたんだから、俺はお前の四肢を切り落としても良いよな?」

「え……? いや、その……」

「もごもご言っていて何を喋っているのか分からねぇよ。 テメーが俺にやろうとした事を、俺がテメーにやっても問題ないだろうって言ってんの。 まさか他人の四肢を切り落とそうとしていたにも関わらず『自分は四肢を切り落とされたくない』だなんて言わないよなぁ?」

「も、申し訳ございませんでしたっ!! もうあなた様に危害を加えようとは微塵も思っておりませんのでどうか腕の一本だけでお許しいただけないでしょうかっ!?」


 そう怒気を隠す事もせずに聞くと、自称冒険者ランクS級のゴーエンとか言う奴は俺が話し終えた瞬間に土下座をして頭を地面に擦り付けながら謝罪をしてくるではないか。


 先ほどまでの威勢は何処へいったのかと思いたくなるのだが、未だに俺の方が上であるという事を理解しようとしないバカな弟であるダグラスよりかは頭だけは良いようである。


 むしろこういう奴だからこそ今まで冒険者として生きながらえて来られたのかも知れない。


 冒険者とは技術や戦闘力を上げる事よりも、少しでも無理だ、やばいと思ったら引き返す判断を持つ奴だけが生き残る稼業とは良く言ったものである。


「あっそ。 噛みついて来ないならばもうそれで良いよ。 切り落とされた腕は今すぐ回復術師の所に持って行けばくっつくかもな。 とりあえず邪魔だからどっか行けよ」

「あ、ありがとうございますっ!! ありがとうございますっ!!」


 そして、既に戦意喪失しており噛みつく気配がない時点で俺はゴーエンに興味が無くなったので、ここに土下座したまま居座られても邪魔なだけなので何処か邪魔にならない場所に行けというと、ゴーエンは物凄い速さで切り落とされた腕を拾って俺の前から逃げだして行く。


「で、他に俺に噛みついて来る奴はいないのか? 当然いるのであれば先程のゴーエンのように手足を切り落とされる覚悟はあるものとして対応してやるんだけど?」

「偉そうな事を言いやがってっ!! お前の家族がどうなっても良いのかっ!?」

「別に? 殺したければ殺せばいいよ、あんな奴ら。 でも、殺したからには殺される覚悟があると俺は判断してやるがな」

 

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