第52話 美しさに欠ける

「は、はいっ!! 直ちにっ、どんな手を使ってもっ、例え手足を切り落としてでも生きた状態で必ずや皇帝陛下の前にカイザルとかいうふざけた奴を連れてきますっ!!」


 そして我の前で青白くなっていた男性は生気を取り戻したのか先ほどまで死んだようだったのだが、急に張り切りだすと汗をダラダラと流しながら走り去っていくではないか。


「……アイツの汗で汚れた床を掃除しておけ」

「は、はいっ!! 直ちにっ!!」


 どのように俺の顔へ唾をかけた事の罰を与えてやろうか、それを想像するだけでカイザルがここへ来るのか楽しみで仕方ない。


 そして我はいつもの日常へと戻って行くのであった。





 あんな一方的な手紙を送ってくるところを見るに今代の皇帝陛下であるガイウス・ドゥ・ゴールドが俺の手紙の返信(手紙で返した時点で間違いなくガイウスの怒りは買っただろうが)を見て何も行動に起こさない訳がない、まさか手紙が届いたであろうその日の深夜から大人数の刺客がクヴィスト家に送られて来るとは思わなかった。


 それだけガイウスの怒りを買ったという事なのだろうが、暴君としてその名前が市民にまで轟いているガイウスの考える事はある程度考察しやすいとも思ってしまう。


 ここまで大勢の刺客を送って来ているあたりバレても良いと思っているだろうし、その事から『どんな手段を使ってでも生きた状態で俺を連れてこい』とでも言ったのであろう。


 この場合、指示された方が考える最悪のシナリオは俺に逃げられる事であり、万が一少数精鋭で俺を捉えに来て逃げられでもしたら目も当てられない。


 その為逃げ場を無くすために大勢でクヴィスト家の屋敷を囲み、どうせ俺を生け捕りにした者には大金を支払うとでも言って人を集めたのであろう。


 そして俺を『殺してでも連れてこい』ではなく『生け捕りで連れてこい』というのであろう理由が俺の家族を殺さずに捕まえ、人質として俺を誘き寄せる餌にされている事でる。


 もし俺を殺しても良いのならば邪魔になるであろう家族もろとも皆殺しにしていた筈であり、その家族を殺さないで人質として使っているという事ならばそういう事なのであろう。


 さてどうしたものか。


 いまこの屋敷を囲っている者達含めて全員を皆殺しにしても良いがそれでは少しばかり美しさに欠けるし、ガイウスと大差ない低能な方法であるので一旦保留にする。


 殴るのならばやはり命令を下して俺の邪魔をしているガイウスをぶん殴るべきであり、命令されて動いているような奴を殴るのは少し違うだろう。

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