第二章 皇帝編

第42話 より一層私を腹立たせる


 畜生っ! 畜生畜生畜生っ!!


 そう心の中で叫ぶもあの日から私の心は少しも晴れやしない。


 それどころか私ではどうする事もできないという現状、そしてアイツにデカい態度を取られる日々というのがより一層私の中のドロドロとした感情を蓄積していく。


 特に、アイツからデカい態度を取られたくない故に、アイツに出会わないようにとこそこそと、アイツを避ける日々が更に私を腹立たせる。


 アイツにデカい態度を取られたくないからと取った行動を取る私に腹が立つという、正に八方塞がりではないか。


「どうしました? リリアナ様。 ここ最近、特にダグラス様と婚約してから様子が優れないようですが……」


 そんな最近の私を見て側仕え兼護衛を兼ねて女性騎士であるオリヴィア・グラン・ホーエンツォレルンが心配そうに私へ話しかけて来る。


 その度に私はあの日起きた出来事を話そうとするのだが、アイツの行使した契約魔術によってそれができないという事を再確認してしまう。


 それは、あの日の出来事が夢ではなく、本当に起きた出来事であり、そしてアイツに皇族である私が一方的に契約魔術を行使されたという事を再確認してしまう。


 あの日の出来事さえ言える事ができたのならば不敬罪であいつを死罪にできたであろうに……。


 その、アイツを裁けそうで裁くことができないという絶妙な立場がより一層私を腹立たせる。


「……私は大丈夫だから心配しなくても大丈夫よ。 でもありがとう。 貴女のその優しさは受け取っておくわね」


 そう私が答えるのだがオリヴィアは私の言葉を信じる事が出来ないのか訝しがるような表情をする。


 やはり私の事となるとオリヴィアには隠し切れないようだ。


 それもそのはずでオリヴィアの家系は代々皇族に仕える家系であり、その関係で私とオリヴィアとは幼少期の頃からずっと一緒なのだから私の些細な変化にも敏感に感じ取ることができる。


 それは物凄いありがたいし助かっているのだが、この間の一件が絡む事となると話は別である。


 できるだけ、一秒でも早く忘れたいし、一秒でも思い出したくないあの日の屈辱を思い出してしまう為こればかりは放っといて欲しいと思ってしまう。


「分かりました。 深くは聞きませんが言えない事情がきっとおありなのでしょう。 しかし、もし私に言いたくなりました時は遠慮なくおっしゃって下さいね?」

 

 そしてそんな私に心配げにそう話してくるオリヴィアを見て、あの日オリヴィアを同席させなくて本当に良かったと思うのであった。


 

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