第30話 卑怯だと言わないよな
そして弟であるダグラスがそう声高々に、来客にも聞こえる声で説明をすると、父親であるエドワードは苦虫を嚙み潰したような表情から一転、全てが解決したような晴れやかな表情へと変化する。
その父親の変化に周囲にいる貴族たちはより一層怪訝そうな表情へと変わっていく事も知らずに。
どう考えても今の父親は詐欺師に騙されるカモにしか見えないのであろう。
特に騙し合い化かし合いが日常化している貴族達からは尚更である。
例えるならば自分の意見が間違っていると思いたくないからこそ目の前の、他人から見れば明らかに罠であると分かる甘い言葉に飛びつく哀れな存在と言ったところであろうか。
しかしながら長男である俺の不出来具合、そして弟のダグラスの優秀さは貴族たちの間でも有名であり父親を見下しつつもまだ切るかどうかはこの模擬戦の結果を見届けてからと思っているのが手に取るように分かる。
「おぉ、それもそうだなっ!! お前は長男と違って本当に頼りになる息子だなっ!! それにアイツが魔術を扱えようとも確かにダグラスが勝てば良いのだから関係ないなっ!!」
そんな周囲の変化にすら気付けない程こいつらは周りが見えていないのだろう。
特に弟は父親と違い自分を優秀であると勘違いをしている故に自分の考え方が間違っている筈がないという傲慢さから気付いていないだけなのでより一層質が悪いと言えよう。
あんな傲慢な奴が継げばどの道クヴィスト家は詐欺師にみるみる資金を騙し取られ続け衰退していただろう。
前世の言葉でも強い敵よりも行動力のある無能な身方を真っ先に殺せという言葉があるように、弟がクヴィスト家を継いだ場合に甘い汁を吸いつくそうとしている貴族たちはかなり多いだろうし、それこそ自分の娘を今日来させてあわよくばダグラスに気に入られるようにと仕向けている貴族たちは甘い汁に群がる虫であると思って間違いないだろう。
俺がその貴族たちの顔を覚える為の一つの指標にしているとも知らずに。
こういう時に無能というレッテルを貼られていると警戒されにくくかなり有難いので、無能と思われている今のうちに貴族たちの立ち振る舞いを観察する事によって後々かなり楽に経営できるだろう。
「おいクズ。 お前が自分から木剣も魔杖も要らないと言ったのだからもうこれらは捨てても良いよな? 折角お父様からの最後の優しさであったのに無下にするとは。 そしてお前が使わないと判断したんだから俺が魔杖剣を使用したとしても、まさか丸腰相手に卑怯だと言わないよな?」
そして俺が信用できそうな貴族と要注意な貴族とを振り分けていると、父親との会話を終えたのかダグラスが話しかけて来る。
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