第29話 雑魚に負けるはずが無い

「は? 何を──」


 そして俺は父親が何か言おうとしているのもお構いなしに契約魔術を発動する。


 その内容は我が父親が吐いた言葉を元に発動しており


●本日これより長男であるカイザルと弟であるダグラスが模擬戦を行う


●この模擬戦で勝った方がクヴィスト家を継ぐ


●長男であるカイザルが勝った場合は、勝利が確定した時点でクヴィスト家を継がせる


 主にこの二点を契約の内容となっている。


「何か言おうとしていたようですが? お父様」

「貴様、魔術を行使出来ないのではないのか? しかも契約魔術という難易度の高い魔術を、それも無詠唱でっ!?」


 そしてようやっと今自分がおかれている立場を理解し始めた父親はみるみる顔を青ざめて行くのが見て分かる。


 それもそうだろう。


 この世界では難易度の高い分類にされている(それでもゲーム内では序盤に覚える魔術(基本的には魔獣をテイムする時に使用する。 契約魔術のより上位の位置づけに隷属の魔術がある。 その為この世界では隷属魔術を扱える者は少なく、基本的に奴隷は首輪などに隷属の術式を組み込まれた魔術具を使用している)契約魔術を、しかも無詠唱で発動したのを見て、万が一弟であるダグラスが負けてしまうのではないかという不安が脳裏によぎってしまったのであろう。


 契約魔術を無詠唱で扱えるだけの実力がある者が扱える魔術が、契約魔術だけの筈がないという事に流石の父親も気付いたのであろうし、それ故の俺の傲慢な態度にも納得がいったのであろう。

 

 そして既に契約魔術は発動しており、その契約を破ると問答無用で俺の奴隷に堕とされてしまう為模擬戦を中止にする事もできない事に気付いたが故に青ざめているのが手に取るように分かる。


 それに先程自分で契約魔術を行使できるのならば契約してやるとも自ら吐いているので契約をしないという事も出来ないという事がより一層父親を焦らせているのだろう。


「何をそんなに怯えているのですか? お父様。 何も怯える事は無いでしょう」

「ダ、ダグラス……」

「勝てばいいのですよ、勝てば。 どうせこの使えない兄貴は契約魔術しか行使できないのでしょう。 ハッタリですよ、ハッタリ。 こんなバカのハッタリにまんまと騙されてやる必要はありませんよ。 それに万が一ハッタリでは無かったとしても勝てばいいのですから、勝てば。 この俺がこんな魔術も碌に行使できないような雑魚に負けるはずが無いでしょう。 他に魔術を行使できたのだとしても実戦経験が違いますからね」

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