第28話 声を出して笑ってしまう
そして俺の父親は無精ひげを触りながらニヤニヤとしたいつもの笑みでそんな事を言うではないか。
しかしながら俺は父親が言った内容を聞き逃すわけもなく、バカな父親に思わずクツクツと笑ってしまう。
父親からすれば『俺の唯一の時間稼ぎ』を阻止した事によって俺の絶望する様を見られると思っていたのに、予想と反して俺がクツクツと笑い始めたので今さっきまで俺に対して圧倒的優位な立場からマウントを取るという快感に酔いしれていた表情が一転、怒りの表情へと染まっていくのが見て分かる。
その様がより一層面白く、俺はついに声を出して笑ってしまう。
「…………何がおかしい?」
そんな俺を父親は怒りを抑えて何がおかしいのかを聞いて来る。
来客がいる前で怒鳴り散らすような事をするのは恥ずかしいという知能は持っていたようである。
「いえいえお父様。 言霊という言葉を知っておりますか?」
「バカにしているのか? そもそも魔術詠唱の起源はその言霊から来ているのは周知の事実であろう。 馬鹿にするのも大概にせよ」
「あ、そのセリフは俺のセリフなんで。 でもまぁ、今日この日以降は絶対に俺の事をバカにさせないので今だけは思う存分バカにしてもらって良いぞ? それはそうと先程お父様は『お前が勝った瞬間にクヴィスト家を継ぐという契約をしてやったというのに』と言ったよな? 本来であればお父様が隠居してから家督を継ぐはずだったんだが、そんな面倒な事をせずとも今日この日より家督を継げるというのだから笑わずにはいられないだろう?」
「そ、それがどうした? どうせこの模擬戦は弟のダグラスが勝つに決まっておろう。 その言葉を口にした所で我々になんの不利益があるというのか。 まさかお前ごときがダグラスに勝つとでも言うのではなかろうな? それこそ片腹痛いわ。 それに俺が言ったからといって契約をしなければ言わなかったのと同じではないか」
そして未だに何で俺がここまで強気にでているのか理解できていないどころか疑問にすら思っていないであろう父親は尚も高圧的に俺へ話しかけて来る。
周囲の貴族たちの中には俺が今まで本来の力を隠して来たのではと疑いの眼差しを向け始める者も出始めたというのに。
むしろ第三者だから気付けたのであって当事者である父親たちには客観的に現状を見る事ができずに気付けないのかもしれない。
「それもそうだな。 では契約を早速しようか。 あ、ちゃんと先ほどの言葉もしっかりと契約内容に組み込んでいるからな」
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