第27話 もう猫を被る必要も無い
「そんなわけでうちのダグラスには出来損ないの長男と一度手合わせをしていただき、どれ程長男と比べて弟であるダグラスの方が優れているか、そしてどうして長男ではなく弟のダグラスへ家督を継ぐ事に決めたのかが一目で分かって貰えると思う。 いわば今日勝利した方が我がクヴィスト家を継ぐという事である。 と言っても先程述べたように十中八九、雷が突如弟に落ちる等の奇跡が起こらない限りは我が家を継ぐ者は弟であろうがな。」
俺の父親は長々と如何に弟であるダグラスが優れ、長男である俺が不出来であるかを来客した面々に演説し終えた後、使用人へ目くばせして俺の元へと今回模擬戦で使用する武器を持ってこさせる。
「しかしながら俺も鬼ではないので武器の一つも持っていない長男へは父親として最初で最後のプレゼントとして木で出来た剣と魔杖を無償で与えようではないか」
そして父親の指示で木剣と魔杖を使用人が持って来ると、手渡さずに俺の足元へと放り投げる。
その態度から俺は使用人からすらも見下されている事が窺えるのだが、どうせ全員解雇にする事は決定している為もうどうでも良いだろう。
「ん? どうした? 受け取らぬのか? 受け取らぬのならば素手で弟と模擬戦をする羽目になるぞ?」
地面に落ちた木剣と杖を一向に拾おうとしない俺を見て父親はニヤニヤとした笑みを浮かべながらそんな事を言うではないか。
でもまぁ流石にもう猫を被る必要も無いのでそろそろ言い返しても良いだろうし、ここまで来れば俺が言い返したところでこの浮かれきっている馬鹿共には俺の違和感すら分からずに見下している相手に噛まれた事により、怒で頭の中を支配されて俺の事をどのようにしていたぶってやろうかという事しか考えられないだろう。
「は? 弟ごときに木剣も魔杖も必要ないだろう。 あと糞親父。 お前の考えが変わらない内にしっかりと契約を結ぼうではないか。 なに、契約内容は先程貴様が言った通り『この模擬戦で勝った方がクヴィスト家を継ぐ』という内容だから何も問題は無いだろう?」
そして俺がそう言い返すと、まさか俺が言い返してくるとはここにいる誰も思っていなかったらしく、周囲は一瞬静まり帰ったあとに嘲笑が聞こえ始める。
「バカだバカだとは思っていたのだがまさかここまでバカだとは思わなかったぞ。 良いだろう、お前の言う契約を結んでやっても良いぞ? ただし、魔術も碌に扱えないお前が契約するには契約魔術の必要ない魔術式が組み込まれた契約書が必要になって来るだろうが、そんな契約書など持っているようには見えないんだがな。 この場にあれば契約してやっても良かったんだがなぁ。 それも、お前が勝った瞬間にクヴィスト家を継ぐという契約をしてやったというのに。 まぁ、どの道弟が継ぐ事は最早決定事項である為そんな契約などするだけ時間の無駄であり、どうせバカなりに考えた時間稼ぎなのだろうが、無駄に終わったようだな」
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