第26話 頭の弱い考え

「まぁ落ち着け。 お前がぶっ飛ばしたら俺が腹を殴られたにも関わらず我慢した意味がないだろう」

「ご、御免なさい。 つい我を忘れてしまったわ。 使用人に私の姿を見られる前に消えるわね」


 そんな荒ぶる奴隷様を俺は何とか落ち着かせると、奴隷様はまたもや転移魔術を使ってこの場から離れたようである。


 さぁ、あともう少しで楽しいパーティーの始まりだ。





 クヴィスト家の敷地内には闘技場があり、そこには今日俺の父親が呼んだ数多くの貴族が集まっていた。


 来客たちは各々着飾っており、特に女性陣は華やかである。


 その力の入れように弟との婚約をもくろんでいるのだろうという事が透けて見えてくるのだが、その弟の横には皇帝の第一皇女であり俺の婚約者でもある筈のリリアナ・ドゥ・ゴールドが幸せの絶頂かのような表情で佇んでいる姿が見える。


「ようやく来たか、このバカ息子が。 最後の最後まで家族に面倒をかけやがって」

「本当に使えないクズだな。 まさかあの後今までちんたら朝食を取っていたのか? クズは何をやってもクズだな」

「まぁ良い。 逃げずにこの場所に来ただけでも良しとしよう。 まぁ、絶対に逃がさないようにと使用人達には強く言っているから逃げようとも逃げられないのだがな。 しかしながらこれで役者は揃ったのだ。 わざわざ我が家まで来てくださった皆様をこれ以上待たせるわけにはいかない」

「それもそうね、義父様。 ですがこれでようやっと私はあのクズとは婚約解消をして、代わりにダグラス様と婚約ができるのだと思うと少しばかり遅れたとしても今日だけは許してあげれそうな程幸せで満ち足りているわ」


 そして俺の姿を見た父と弟、そしてリリアナはまるで躾のなっていない犬を見るような目で俺を見ながら各々好き勝手に俺を罵倒し始める。


 予想はしていたのだが他の者達が見ている前でまで罵倒できるとは本当に頭が弱い人たちなのだろう。


 これで自分達の評価が少しでも下がる可能性があるとは思えないのだろうか。


 そんな事を思っていると俺の父親が何故長男である俺ではなく弟であるダグラスに家督を継がせるのかという事を演説し始める。


 そして家督を継ぐにあたってダグラスの魔術技術が家督を継ぐのにふさわしい程の才能の持ち主である事を証明するために俺とダグラスが今から模擬戦を行うと説明し終えると、周囲からは祝福と共に歓声が上がる。


 良くも悪くも見世物が少ないこの世界では良い娯楽になってしまっているのだろうし、父親はこれを見越していたのであろう。


 より盛り上がった方が気分よくダグラスへ家督を継がせる事ができるという、頭の弱い考えをしていそうなのが手を取るように分かる。

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