第19話 称賛するくらいの事はしてやろう

 そこにはまるで俺だけがいないような空間が出来上がっていた。


 むしろ初めから俺を空気のように扱ってくれれば俺もこいつ等の事を空気として扱いながら夕食を済ましていたのに、どうしても一日一回は何か言ってやらないと気が済まない性分なのだろう。


 そういう所も根性が腐っているとは思うのだが、大抵こういう奴らは噛みつかない相手であると判断してから突っかかって来るので意外とやり返せば大人しくなるものである。


 もし明日俺に噛みつかれて尚同じような態度で突っかかって来れたのならば少しばかり心の中で称賛するくらいの事はしてやろう。


 そんな事を思いながら俺は夕食を手早く食べ終えるのであった。





「あら、意外と早いのね。 家族と夕食を取りに行ってからまだ四判刻30分も経っていないのだけれども?」

「……………」


 そして俺が唯一この家で心休まる場所である自室に戻ると、俺のベッドに我が物顔で座っているシシルの姿がそこにあった。


「あら? 無視かしら。 それとも自分がいつも眠っているベッドに私のような美女が座っているのを見て興奮してしまい頭の中がエロい妄想で溢れ返ってしまっているのかしら?」

「……何でいるんだ?」


 悪びれもせずペラペラと喋るシシルに苛立ってしまい、その苛立ちを消化する為に棒立ちになってしまったのだが、なんとかその苛立ちを飲み込むことができた俺はどうしてシシルがここにいるのか聞くことにする。


 もしかしたらとても大事な情報を万が一、億が一持って来てくれている可能性もゼロではないので、その情報を俺が苛立ちに任せてシシルを追い出してしまい聞けなかったとなる可能性もあるのだ。


 俺がゲームのキャラクターとして転生できた事に比べればシシルが何かしら重要な情報を持って来てくれる方がまだ確率は大きいだろうし。


「何でって、ご主人様を誘惑しに来たに決まっているじゃない」

「それだけ?」

「? それだけだけれど?」


 そして俺の言葉に『こてん』と可愛らしく首を傾げながら『なに当たり前の事を聞いているのだろう?』という表情で返事をするシシル。 


 うん。 とりあえずこの駄奴隷はベッドから引きずり落とすとしよう。


「きゃぁっ!? まったく、いきなり何をするのかしらっ!? これでも私はそういう経験はないから初めは優しくしてほしいのだけれどもっ!? ねぇっ!? ちょっとっ!! 無視をしないでちょうだいっ!! せめて返事の一つくらいはしなさいなっ!!」


 そしてここで少しでも反応するかた付け上がるので俺はそのまま無視する事にする。



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