第16話 待ちなさい

「………………」


 しかし俺がせっかく隷属された状態を解術してやったというのにシシル先生は今一度俺に向かって隷属の魔術を放って来るではないか。


 まさかもう一度放ってくるとは思っておらず俺は反射的にシシル先生が放った隷属の魔術を跳ね返してしまう。


「あっ」


 その事に気付いてしまった時には時すでに遅し。


 そして再度隷属の魔術を跳ね返されたシシル先生はというと胸元に再び浮かび上がって来た隷属されている事を表す紋様をみてニヤリと妖艶な笑みを浮かべながら俺を見つめるではないか。


 何で隷属魔術を跳ね返されたシシル先生が余裕な態度を取り、隷属魔術を跳ね返した俺の方が追い詰められたような心境にならなければいけないのか。


 普通は逆であろう。


 しかしながら現実はいつも俺の予想の斜め上を行くものであり、そもそも前世の記憶が戻ったり俺がその前世でプレイして育成していたキャラクターであったりと既に斜め上どころか何段階かすっ飛ばしているので普通ってなんだろう? と思わず考えてしまう。


 しかしながら騙されてはいけない。

 

 どう考えてもおかしいのはシシル先生であり、シシル先生がおかしい行動をしている以上俺が毅然な態度を取れば何も問題はないはずである。


 流石に、せっかく前世の記憶が戻った翌日にこれから生きて行くにおいてどう見ても地雷にしか見えない女性を側になんか置きたくもない。


「やはり跳ね返したという事は口であんな事を言ってはいたけれども心の奥底、貴方の雄としての本能が私を求めている何よりもの証拠だとは思わないかしら? それは言い換えれば私が女性としての魅力があるという事でもあるわよね?」

「なんとでも言ってろ。何度やっても無駄だし、次は跳ね返すのではなく術自体の発動を無効化してやる」


 そして勝ち誇ったような表情で微笑みながら俺に話しかけて来るシシル先生に対して俺は毅然とした態度で返事を返すと、シシル先生は苦虫を噛み潰したかのような表情で睨んでくるのだが、次の瞬間良い事思いついたような表情になるではないか。


 なんか嫌な予感がするのでシシル先生が何か言う前に隷属魔術を解術してさっさとこの場から立ち去るとしよう。


「待ちなさい」

「いいや、待たないね。 そもそも待てと言われて待つバカはここにはいない」

「あらそう。 ここで私の隷属状態を解術して立ち去るというのであれば、私はあることない事周囲に言いふらしてあげるわ。 そうね、例えば『今まで性奴隷として尽くして来たのに捨てられた』とか泣きながら言いふらすなんてのはどうかしら?」


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