第2話 数秒後に訪れるのは虚しさだけ

 彼女リリアナなのだが、俺にここまで強く当たるのには理由がある。


 その最大の理由は俺とリリアナは婚約者であるという事だろう。


 それこそ俺とリリアナは幼馴染であり幼少期から家族ぐるみで遊んでいたような関係である。


 そもそもこの婚約自体もリリアナから要望されたものであり、その事が尚更彼女にとって許し難い所なのだろう。


 そして何よりも今のリリアナは俺の一つ下の弟に御執心であり、今にでも俺との婚約を解消して弟と婚約を契約し直したいと思っているというのが、彼女が俺に対してキツく当たる理由なのだろう。


 それに関しては俺だってそうだ。


 昔のリリアナならばいざ知らず今のリリアナとは結婚なんかできる事ならばしたくない。


 結婚してしまった場合の生活を想像するだけで頭が禿げそうだ。


 間違いなく俺は毎日馬車馬のように働かされ、家に帰れば家事をさせられ、そしてリリアナは当然のように浮気をして俺の稼いできたお金や公爵家の財産を散財する事だろう。


 しかしながら彼女は皇帝の長女である以上は俺が公爵家であろうとも権力でどうにかする事もできない。


 それに権力で自分がやりたいように好き勝手するのはリリアナと同レベルに落ちてしまうようでやりたくもない。


 そもそも婚約をしたばかりの当初は、リリアナは俺に対してしっかりと愛情を向けてくれていたはずであるし、だからこそ俺と婚約を結んだのだろうが、俺に魔術の才能がない事、そして弟に魔力の才能がある事を知ってからは今のように俺に対してキツくあたるようになった。


 それは即ちリリアナは俺を見ていたのではなく、家柄、容姿、魔術の才能を見ていたのであって、だからこそ俺である必要性は無く、上が現れればそっちへと簡単に鞍替えしようとするのである。


 流石の俺もここまでバカにされたらリリアナに抱いていた感情は綺麗さっぱり無くなり、その代わりに負の感情を抱くようになるのも致し方ない事だと俺は思う。


 しかしながら俺に魔術の才能は無いのは覆しようのない事実である為、いくら俺がリリアナや、リリアナと一緒に突っかかってくる弟に対して今までされてきた分くらいはやり返したいと思った所で何もできないどころか返り討ちにされる事は火を見るよりも明らかである。


 なんと情けない事であろうか。


 悔しい。 絶対に許さない。 地獄を味わわせてやりたい。


 そう思った所で、数秒後に訪れるのは虚しさだけである。


「ったく、リリアナが勝手に俺へ【水球】を行使して当てたんだからリリアナが掃除しろよ」

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