大脱走?
「やあネイ、ここにニンゲンを捕らえていると聞いて来たんだが、会わせてもらえるかな?」
ネイが入り口にたどり着くと、眼鏡を拭いている店主の周りでネイの同僚達が床に固定されていた。
「店長さん、来るたびにみんなを拘束するのそろそろやめてもらっていいですか?」
「理由もなく取り押さえられそうになったのだから、当然の自己防衛だとは思うのだがね。毎度の事になっているのは大変遺憾だが」
店主は不服そうな顔で拭き終わった眼鏡を懐に仕舞い、ネイの隣を通って奥へと向かって行った。
「彼はいつものところです」
「彼だな。分かった」
店主が離れるとネイの同僚達の拘束は解かれた。同僚達を取り囲んでいた重さが周りの空間に消えて行く。
「あの悪魔、今回も捕まえられなかった……」
ため息を漏らしながらネイの同僚達はそれぞれ立ち上がるものの、飛び込んできたルーズに纏めて轢かれた。
「ネイ、店長何処だ!?」
「お、奥ですけど……」
「分かった!」
ルーズはネイの目の前を通って奥へ と進んで行く 。
「ぐ、ぐああ……」
立ち上がった直後に押し潰された同僚はその場でばたんと力尽きた。まさしく踏んだり蹴ったりである。
「そこのオニ、眼鏡を掛けた怪しげな雰囲気の老人と粗雑そうなナーガの女を見なかったか?」
「見ましたが、ルーズさん達にはどのような御用で?」
入口から飛び込んで来たヴィルにネイは滝澤と初めて会った時のような態度で接するが、 何か感じるものがあるのか、その目は少し疑いの色を含んでいた。そこに少し遅れてナスカとルナも追いついた。
「どうやらお知り合いのようね。その人達に知り合いの元まで案内してもらうことになってるの。どっちに行ったか教えてもらえないかしら?」
「そうですか。貴方達は?」
「滝澤の仲間だよ」
何気なく言ったルナの言葉で三人が凍りつく。
「ちょっとルナ、何言ってんの!?」
ルーズを知っているということは、彼が滝澤を捕らえた者である可能性は高い。 そう思ったヴィルとナスカは滝澤という単語を伏せていたのだが……。
「お、お前らがこの街に入り込んだニンゲンの一味か!」
ネイが取り出した警棒を即座にヴィルが剣で弾き飛ばす。
「いかにも、その通りだ。」
「こうなったら力づくね。早めに退かないと痛い目を見るわよ。」
「ごめんね」
性別が違うとはいえ、三対一では明らかにネイの方が不利だ。
「しかし、そう言われて退く俺ではない!」
「良い度胸だ。そんで、この前オレは通気口の蓋緩んでるぞって教えたよな?」
背後から聞こえたドスの効いた声。ネイのゴワゴワした肌の上にさらに鳥肌が立つ。
「る、ルーズさん……」
「あいつ通気口の蓋開けて逃げてんだよ。どうするつもりだオイ!」
ルーズはネイの胸倉を掴む。ルーズの長い体の前にはネイの巨体も関係ないようだ。
「また滝澤のやつ一人でどっか行ったの…!?」
ナスカは呆れ交じりの溜め息を吐く。
「ひ、ひぇぇ……すみません……」
先程の覚悟から一転、ネイはルーズにヘコヘコ謝り始めた。男の威厳、何処へ。
「ルーズ、説教は後だ。今は彼を追うとしよう。ネイ、彼が何処に行ったのかわかるか?」
「えっと、通気口からですからあっちの方面です!」
ネイは南西の方角を指差す。
「あっちね。よし、滝澤を迎えに行くわよ!」
「「おー!!」」
ナスカ達は一致団結し、ルーズ達を置いて南西へ向かって走り出す。
「……さて、我々も行くとするか」
店主はコートをひらつかせ、ナスカ達を追っていった。
「行くぞネイ」
「は、はい!」
街から出ていく六つの影。目的は違えど、滝澤を追う。
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