ZA☆RI☆GA☆NI☆
森の中を木に手を付けてフラフラと歩く滝澤。
「そういや俺、木刀無いじゃん……泉の時みたいに自動でこっち来てくんないかな」
なんとか街の方に帰りたい滝澤。ビスマルクに拘束された時のように、滝澤に向けて木刀が飛んで来れば街の方向が解るという考えだ。
「ん?なんか見えるな」
滝澤は開けた川の側の平野にポツリと置かれた大岩を発見し、呑気に近づいて行く。
「おー、でっけえ岩だな。俺の家くらいあるじゃん。目印にはなるか?」
よくよく滝澤が近づいて見れば、岩は肌のように小刻みに動いていた。
「あ、なんか嫌な予感がする〜……」
滝澤は慌てて岩からバックステップで離れ、 木刀を構えようとするが。
「木刀無いじゃん!」
そう、今の滝澤は丸腰である。岩はゆっくりと動き出し、地面からその全貌を露わにし始めた。
「蛇か?蛙か?いいや、 ザリガニだぁぁ!」
遠げようとした滝澤の行く手を小さなザリガニの群れが阻む。小さな、とは言っても滝澤の胸くらいまではあるのだが。
「あ、うん……俺丸腰だからさ、どっか行ってくれないですかね?あーあーお前らホントそういうとこだよ……!」
前は量、後ろは質。滝澤はジリジリと行動範囲を狭められて行く。
「(ほんと俺って木刀無いと駄目なんだな……って違う違う!今はこの状態をなんとかしないと、 餌になりたかないぞ!)」
滝澤の背後からカチャカチャと金属がぶつかるような音が聞こえてくる。丁度大ザリガニがハサミを滝澤に近づけてきたところだった。
「(む、無理、喰われる!)」
滝澤が死を覚悟した次の瞬間、大剣が滝澤に迫るハサミを弾いていた。
「滝澤、無事か!?」
剣を構えたヴィルに大ザリガニは後退する。
「ヴィル!助かったぜ!」
「た一きーざーわー!!」
さらに見知った叫び声と共に飛んで来たルナが木刀を滝澤に渡す。
「サンキュー、ルナ!」
ルナを捕まえようとした小ザリガニ達を土の拳が蹴散らして行く。拳で蹴散らすとは如何なものか。
「ああもう!さっさと退きなさいよ!」
そして土の拳が開いた道をナスカが走ってくる。
「あ、乱暴なナスカ。」
「乱暴なって何よ!あと私だけ反応が薄いのはなんでよ!?」
あからさまな対応の違いに憤慨して滝澤を叩くナスカ。あながち乱暴というのも間違っていない。
「ごめん、流石に三回目は表情筋がキツいわ」
熱い展開のせいで逆に少し冷めてしまった滝澤は苦笑いで言った。やっぱりこの男は木刀があっても性格が駄目な奴である。
「滝澤、手伝え!元はと言えばお前が遭遇した敵だろう!」
交戦中のヴィルから檄が飛ぶ。
「ああ、やろうぜナスカ!」
滝澤は木刀を携えて大ザリガニへと走っていく。ナスカはその背中を見つめて密かに抱えていた思いを呟いた。
「もしかして私って、要らないのかな」
「ふむ、やはりあの剣は……いや、それよりも彼は……」
「店長、せっかく来たのに行かねぇのか?あんなにウキウキしながら来てたのに」
店主、ルーズ、ネイは少し離れた森の中から滝澤達とザリガニの戦いを見ていた。
「戦闘となればまた別だ。貧弱な私は巻き込まれたくはないのでね」
「本気で言ってます?」
ネイとルーズにとっては聞けば聞くほど店主の行動には謎が多かった。
「彼は私の知り合いの知り合い。つまりは我々モンスターの味方だよ。それも、心強い……ね」
店主の発言に二人は耳を疑う。ニンゲンはモンスターの敵、モンスターはニンゲンの敵という認識をしている2人にとってニンゲンの味方というのは不可思議なものだった。
「アイツが!?」
「ニンゲンなのにですか?」
店主は二人の驚きの声に溜め息を吐く。
「そう思うのも仕方がないだろう。だがな、彼はニンゲンではなく人間なのだ」
「ヴィル!振り下ろし来るぞ!」
「了解した!合わせろ滝澤!」
振り下ろされたハサミの付け根にヴィルと滝澤が十字に斬り込む。剣は節目の皮を破り、木刀が肉を裂いた。巨大なハサミは歩脚から切り離され、滝澤達の目の前に突き刺さる。
「ヴィル、雑魚が来るぞ!」
離れた二人に小ザリガニが襲いかかる。近接戦闘が得意な二人だが、距離を詰められ、且つ大量で来られると厄介だった。
「ルナが倒すね!」
そこにサイズは幾分か小さいが、ワイヴァーンが使っていたものと同じ空気の球が割り込み、囲っていた小ザリガニから二人を守る。
「ルナ、それって!?」
「おじいちゃんがくれたの!」
ヴィルは小ザリガニの一匹を切り、包囲網を抜け出した。ワイヴァーンは森を出るルナに密かに自分の力を多少託していたらしい。旅の御守りといったところだろうか。
「流石ワイヴァーン様だぜ!俺には何にも無かったのにな!」
出発直前にからかったのだから何もして貰えなくても文句は言えまい。
「あぁもう!近づけないじゃない!」
ナスカは一人後方に取り残され、小ザリガニの相手をしていた。ヴィルのように、剣の腕が立つわけでもなく、ルナのように空が飛べるというわけでもない。ナスカはただただ土の拳を操り、次から次へと湧いてくる小ザリガニを蹂躙するしかなかった。
「(私が弱いのは分かってる、分かってるけど…)」
焦るナスカは背後からお零れを狙いに来ていた小ガニに気づかなかった。
「あっ……」
背後の気配に振り返ったナスカは小ガニに押し倒される。どっしりと体重を掛けられ、逃れようにも甲羅のトゲに服が引っかかってしまっていた。
「離して!離しなさいよ!」
ナスカは杖で甲羅をボコスカ殴るが、どうにも効き目は無さそうだった。そして、ナスカが捕らえられた事で土の拳も形を失ったため、他の小ザリガニもナスカに寄って来る。幸い、小ガニは小ザリガニを威嚇するのに夢中でナスカを捕食しようとする素振りは見せていないが、鋭いハサミで分解されるのも時間の問題だった。
「た……助けて、滝澤……!」
ナスカが滝澤のいる方へ手を伸ばしたその時、小ガニが何かに体当たりされ、吹っ飛ばされた。そして、小ザリガニたちも地面に押し付けられている。
「悪いね、滝澤君ではなくて」
店主はナスカに手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます……」
ナスカは気恥しそうに差し伸べられた手を取って立ち上がる。
店主が左手を思い切り下げると地面に押し付けられていた小ザリガニたちはグシャッと体液を撒き散らしながら潰れた。
「先程は勘違いしてすみませんでした。これからは僕も皆さんに協力させていただきます」
ネイはナスカに頭を下げるが、何がなんだか分からないナスカは目を白黒させている。
「それはいいんだけど、一体どうして……」
「滝澤、俺らの味方なんだろ?疑って悪かった、仲良くやろうぜ」
あれほど敵対していたルーズもナスカに握手を求めた。困惑しながらもナスカはルーズの手を握る。
「さて、加勢と行こうか。早く彼と話したいのでね」
「ちょっと、店長さん!?他の人たちまで潰さないでくださいね!?」
店主は意気揚々と滝澤達が戦っている下に向かっていく。ネイも慌ててそれを追いかける。
「戦闘に巻き込まれたくないって言ってたの誰だよ…ま、それも店長らしいか」
ルーズは腰に手を当ててニヤリと笑った。
「ねぇ、あんた達は何者なの?」
「俺ら?俺らは……うーん……」
ルーズは左手を額に当てて悩んでいたが、しばらくしてこう言った。
「お前らの味方だ。詳しくは戦いが終わってから店長に聞いてくれ。さ、行こうぜ」
思ったより適当な返答をしたルーズはナスカの手を掴む。
「え、待って。あそこに行くの?」
「おう、滝澤のとこ行くんだよ。行きたいんだろ?」
ナスカは小さく頷いた。
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