事件勃発
「(アイツ結構慕われてんだな。うん、男勝りな美人もいいかも……)」
荷物を配り終えた滝澤は一人塀にもたれかかり、ルーズを待ちながら雲ひとつない空を眺めていた。相変わらず考えていることは猿並みである。
「(……そういや俺、魔王になるのはいいけど、帰れるのか?)」
そう、滝澤は魔王になることが最終目標ではない。湊の無事を確かめる為に元の世界に戻る方法を探さなければいけないのだ。
「ナスカ達にお願いしてこの街で情報収集するか。ナスカ、許してくれるかなぁ……?」
などとまた叶いそうにない願いを空に吐き出した滝澤。そこに…
「何やってんだテメェ!」
怒号と共にテンプレート通りの天使が滝澤の方に飛ばされてきた。硬い塀に激突した天使は呻き声をあげながら地面に大の字に転がる。
「うわっ!?こいつぁ明らかに暴力ですよ!」
その白い手には鋭い武器のようなものが握られている。困惑している滝澤の下に土煙を上げながらルーズが走ってくる。
「おい、オレがネイ呼んでくるまでそいつを抑えといてくれ!」
「ちょっと待て、ネイって誰?こいつも誰?」
滝澤の質問に答えることもなく、ルーズはここに来た時より速いスピードで姿を消した。
「……取り敢えず、俺の上着で縛っておくか。なんで俺はまた上半身裸になってんだろうな」
滝澤は上着を脱ぎ、気絶している天使を拘束する。持っていた武器も念の為取り上げておいた。
「貴方、ルーズさんのお知り合いですか?」
縛った天使を監視していた滝澤の元に狐のような獣人の少女が訪れた。
「まぁ…そんなところ。お嬢さんは?」
よく見れば少女の目の下は腫れ、鼻はほんのり赤く染まっていた。
「よければ、ルーズさんに御礼を伝えてもらえますか?実は、その天使が突然家に入って来て、あるだけGOを出せって言われて、泣いてた所を助けて貰ったんです」
「あー……なるほど、強盗か。それでたまたま商品を届けに来たルーズがコイツをシバいたってことか。こんな善人そうな顔してやること下衆極まりねぇな」
滝澤が少女と話している所にルーズと、それに少し遅れて
「良かった、逃げられてねぇな。ネイ、コイツだ」
「はぁ……はぁ……ルーズさん、もうちょっと追い付ける速さで案内してくださいよ」
「ネイが鍛えてねぇからだろ。そんなんじゃいつまで経っても夢、叶わねぇぞ?」
ネイと呼ばれたオニはルーズに追い付くとその場で座り込んだ。なんだか頼りない。一切疲れた様子を見せないルーズは滝澤が縛った天使をさらに上から縛る。
「このデカいのがネイって言うのか」
「そ、こいつがネイピア。この街で悪いことした奴を捕まえる役割だ。……ん、そういや、名前まだ聞いてなかったな」
確かに、滝澤はルーズに自己紹介を返していない。だが、滝澤は何も考えていなかった。
「俺は滝澤っていうんだ。これでも魔王目指してるんだぜ」
「魔王!?」
「魔王って、お前凄いもん目指してんな!最高に面白いぜお前!」
ルーズは世にも奇妙な動物でも見た時のような表情で大笑いする。信用はされていないようだった。
「(やっぱり内心諦めてんだろうな。人間には敵わないって……)」
「お、応援しています!それでは僕はこれで!」
気まずかったのだろう。ネイは天使を縛った縄を手に去っていこうとする。
「……?」
滝澤が抱いた微かな違和感。没収し、捨てたはずの鋭利な何かが再び天使の手に握られていた。ネイが縄を引っ張ったその時、縄は千切れ、天使が駆け出した。
「お前らのやり方は予習済みなんだよ、バーカ!」
「きゃっ……!?」
天使はネイとルーズを嘲笑いながら少女の腕を掴み、滝澤の方に駆け出した。だが、この天使には誤算が一つあった。進行方向にいる滝澤は外野ではなく、常識が通用しないタイプの人間であったことだ。
「そこは俺にしとけよ!」
滝澤は素早く天使が少女を掴んでいた方の手を蹴り上げる。滝澤は悪い奴相手には何故か強いのだ。本人も善人とは言えないが。
「君、こっちだ!」
天使から引き離された少女をネイが素早く保護する。
「クソッ、退けよヴァンパイア!」
天使は持っていた武器をぶんぶん振り回し、滝澤を威嚇する。ヒュン……!と、滝澤の鼻先を鋭い刃先が掠めた。
「ごめんなさいごめんなさい!暴力反対!刃物使うとか貴方それでも天使ですかー!?」
「な、なんだコイツ……!?」
悪党もドン引きの小物感溢れる両手を合わせての
「っしゃ!捕まえたぞオラァ!」
ルーズが天使に巻き付き、無力化する。だが、あまりにも強く締めすぎたのか、天使は口から泡を吹いている。
「……さて。俺の予想通りの展開。我ながら完璧な作戦だった。ハッハッハ……!」
あれだけ恰好悪い様子を見せておきながら、天使が完全に沈黙したのを確認したとなると途端に滝澤は高笑いし始めた。
「その割には動きが素早かったような。ま、協力に感謝するぜ」
「僕からも御礼を言わせてください、滝澤さん!」
二人に感謝の言葉を告げられ、滝澤は照れくさそうに頭を掻く。
それで、ポロリと角の片方が落ちた。
なにしろ街を通り抜ける間だけ誤魔化せるようにとナスカが木材を加工してカチューシャのような形に取り繕ったものだ、あまり丈夫ではない。
「これ何?」
落ちた角を少女が拾い上げる。
「げ……」
滝澤、顔面蒼白、筋肉硬直。
「おいネイ!」
「了解!」
角の落ちた滝澤の姿を見て目の色を変えたネイはまるで先の手際が嘘のようなスピードで滝澤に抵抗する隙も与えず押さえ付けた。
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