旅立ちwith剣戟吸血鬼&羽幼女
「えー?ワイヴァーン付いてこないの?」
一歩踏み出せばそこはもう、森の外。そんな森と平野の境界線までワイヴァーンは滝澤達を見送りに来ていた。
「我が離れたら誰がこの森を守るのだ。それに、この姿も慣れれば悪くない。身軽な事に加え、力も今までより強くなった」
そう綺麗な白い歯を見せながら言ってワイヴァーンは滝澤と戦った時より遥かに多くの空気の球を作り出した。
「それ見たらもっと一緒に来て欲しくなるけど、森の為なら仕方ないよな。いつ悪い奴が来るかわかんないし」
「悪いな滝澤よ、ルナを頼むぞ。この子はまだニンゲンの悪を知らん。守ってやってくれ」
ワイヴァーンはせっせと落ちている木の実を集めるルナの頭を撫でる。幼女が同身長の幼女の頭を撫でている様子はなかなかお目にかかれない珍妙な光景だった。
「任しとけって。さっさと魔王になってモンスターも幸せに生きられるようにするからよ。ワイヴァーンもありがとな」
この森に来た時の事を思い出した滝澤は、ちょっとした反撃と片膝をつき、優しくワイヴァーンの頭を撫でた。
「わ、我を何だと思っている!貴様に使役された憶えはないぞ!」
「ごめん、ちょっと意地悪したかっただけだから!」
滝澤は顔を真っ赤にして怒るワイヴァーンの頭から慌てて手を退ける。
「……滝澤、アンタもしかして出会う女の子皆にそんなような事してるの?」
「いや、違うんだよ、皆可愛いから……」
言い訳する滝澤、刺さる土拳。少しの間離れたとて、この2人のやり取りは全然変わらなかった。
「そろそろ行くとしよう。決めた時に行かないと別れ辛くなるからな。全部終わったらまた来るぞ」
ヴィルはのびてしまった滝澤を背負い、歩き出した。
「そうね。ワイヴァーン……さんで良いかしら?滝澤が迷惑かけたわね。行きましょう、ルナ」
「ルナ、もうちょっとおじいちゃんとお話ししたいから、先に行ってて」
ルナはワイヴァーンの体をキュッと抱きしめた。
「ルナ……」
「……分かったわ。よっぽど何か無い限りここの平野の何処かにいるだろうから。満足したころに合流しましょ」
そう言うとナスカは脇目も振らずヴィルを追って走っていってしまった。ルナとワイヴァーンだけで話したい事もあるだろうという配慮である。多分滝澤には出来ない。
「他の想いが解るアルラウネだ。滝澤にも見習って欲しいところだな。我の憶測だが、ルナ、お前は飼い主を見つけに行くのだろう?」
ワイヴァーンが遠ざかっていく滝澤の背中を見ながら尋ねる。
「……うん、王国なら見つけられると思うの」
「例えそれで傷付くとしてもか?」
「それでももう一度会いたいの。今なら、ありがとうって言えるから」
「そうか。そう言い切れるならば我は止めんさ。あの男と一緒なら必ず会えるだろう。我もここから応援しているぞ」
ワイヴァーンはルナの背中を押した。
「行ってこい、ルナ。我はいつでもここで待っているからな」
「うん!行ってきます、おじいちゃん!」
ルナは出来たばかりの
「……あの中に微かに懐かしい匂いを感じたのだが、何の匂いだ?少し、調べる必要がありそうだな」
ワイヴァーンは自らが残した記録を見に、森の中へと戻って行く。もう「おかえり」を言ってくれる子は居ないが、悔いは無かった。
二人の仲間を加え、滝澤達は王国目指して進んでいく。
王国依然にこの世界のことですらまだよく分かっていない滝澤だが、あまり心配はしていなかった。仲間達が居る限り、俺は止まるつもりはないと、胸の内でカッコつけている。
その時、ビューっと一切障害物のない平野を強風が吹き抜けた。
「寒っ!」
少し厚い布一枚の上半身に当たる冷たい風に滝澤の身体が震える。
「なんでそんな軽装備なのよ。」
「したくてしてる訳じゃねえのよ。ワイヴァーンの風の攻撃避けてたらビリビリになっちゃって。そうだ、ナスカがくっつけば暖かいかもな」
思いもよらない滝澤の
「ふ、ふざけたこと言ってる暇あったらさっさと歩きなさいよ!」
「痛っ!暴力反対、暴力反対!」
「ならば私が身を寄せよう!妻だからな!」
「ルナも乗る」
よろめいた滝澤にヴィルが抱き着き、ルナが肩車の形で滝澤に乗る。
「あの……動けないんですけど……」
仲間が増えても、滝澤は滝澤。それを見抜いていたからこそ、ナスカは滝澤を選んだのだった。
「……ナスかももうちょっと慎ましければいいんだけどね。あ、待って殴らないで!ごめんなさい!」
Now Lording……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます