決闘

 その一方、置いていかれた側の2人は滝澤達が闘っている岩場を目指していた。


「じいさん頑固だからな。滝澤が死んでいないといいが」

「でもおじいちゃん優しいよ。タキザワとも仲良くなれるよ」

「そうは言っても、あのじいさんがニンゲン相手に心を開くか……?」


 二人は滝澤が容赦なく殺されていないように祈りながらひたすら岩場を目指して進んでいく。

 ワイヴァーンの飛行能力は高く、徒歩で向かうにはあまりにも遠すぎる岩場。


「ルナ、私を置いて先に行け。飛べば私よりかは早く向こうに着けるだろう」


 あくまでヴィルと一緒に行きたいルナはふるふると首を振る。ヴィルは滝澤が飛び去るワイヴァーンの手の中で叫んだ言葉を思い出した。

と。


「分かった。なら、出来るだけ早く着けるように尽力しよう」


 そうヴィルが言った直後、近くから誰かの悲鳴が聞こえてきた。今までのヴィルなら無視して進んでいただろうが、今は1人では無かった。


「ルナ、行くぞ」

「うん」


 二人は最短ルートを逸れて、悲鳴の源へと向かう。




「何でこのツタ放れないの!?私も植物、植物族!栄養にはならないわよ!?」


 食虫植物に捕らえられてあられもない姿にされていたのはすっかり存在感が希薄になっていたアルラウネのナスカだった。


「待っていろ、今助ける」

「助けてくれるのはありがたいけど、私に当てないでよ!?」


 ヴィルがナスカに絡むツタを素早く断ち切り、ナスカはようやく拘束から解放される。


「感謝するわ。それじゃ」


 服に着いた汚れを払ったナスカは岩場の方を目指して歩き出した。


「待て、何処に向かっているかは知らんが、私らもそっちに用があるんだ」

「そう、ならお供するわ。私はあの岩場まで迷子のを迎えに行かなきゃなんないから」

「あの岩場?お姉さんもあそこに行くの?」


 その時、ヴィルとルナの頭に1つの仮説が生まれた。


「「その連れって……タキザワ?」」

「え、知り合いなの?」




「そろそろ諦めたらどうだ、ニンゲンよ」

「滝澤だ!いい加減覚えろや!」


 ボロボロになった滝澤は向かってくる空気の球を避けながら落ちていた小石をワイヴァーンの真横から背中に投げた。


「そんな石如きで我にダメージを与える事が出来るとでも思っているのか?」


 カツン……と、石は堅い鱗に弾かれてワイヴァーンの足下に転がった。


「これ以外に方法が思いつかないんだよ!」


 滝澤はワイヴァーンに何と言われようが石を投げるのを止めなかった。正確に言えば、彼にはそれしか出来なかった。


「出来ればルナとヴィルが来る前に終わらせたいのだ。貴様はこの森に居てはならない存在、ここで死んでもらうぞ」


 幾度目の球による攻撃を終え、裸同然の滝澤に向け、ワイヴァーンは連続攻撃を仕掛ける。その巨体から放たれる攻撃は重く、同時に速かった。


「……ふっ!」


しかし、石を投げ続けていた滝澤の狙いはその瞬間にあった。

 滝澤が憧れたあの世界ライトノベルのように伸ばされた腕の上を駆け、背中を目指す。


「ちょっと痛いだろうが、そこは我慢しろよな!」


 何度も横から石を当て、歪んでいた鱗を滝澤は引き剥がし、思いっきり木刀を刺した。


「グオオォォ……!貴様、最初からそのつもりで……」

「そうだよ。ここなら手も届かねぇ、落ち着いて話が出来るって事だ!攻撃当てたきゃでも持ってくるんだな!フハハハハ!」


 やっている事はカッコイイのに笑い声で台無しである。これぞ滝澤。


「(我の空気弾を避け続ける機動力、1枚の鱗に当て続ける精密性、このニンゲンはもしや……いやしかし、我は負けるわけにはいかん!)」


 ワイヴァーンは背中の滝澤を振り落とそうと暴れ回る。だが、さらにそこには滝澤の策略が用意されていた。


「うぬっ……!?」


 転がっていた多数の石に足を取られ、横転するワイヴァーン。ここで滝澤がさらに攻撃を仕掛ければ、ワイヴァーンの命は無くなっていた。


「悪いなワイヴァーン。お前は殺せって言うと思うけど、俺は断るからな。殺しても何にもなんないしさ」

「さては貴様、この世界のニンゲンではないな?」


 無駄なエネルギーを使わないため、ワイヴァーンは横転したまま滝澤に尋ねる。


「初めて理解された……!俺、ちょっと嬉しい!そうそう、だからモンスターとか関係ないのよ」


 初めて他のニンゲンとは違う理由を解って貰えた嬉しさで滝澤はニコニコしながら答える。


「なるほどな。ならば警戒する必要もない……か」

「最初からそう言ってるんだけどなー。そうだ、背中は致命傷じゃないか?」


 滝澤はワイヴァーンの隣に腰を下ろし、背中の傷に手を当てる。


「寝ていれば自然に治る。ドラゴンの身体とはそんなものだ」


 それを聞いた滝澤は安堵し、ワイヴァーンにもたれ掛かる。


「そこまで気を許した覚えはないが」

「誰かさんの攻撃を避けてた所為で俺も疲れたんですー」


 嫌味ったらしく言ったものの、滝澤は笑顔だった。ワイヴァーンを殆ど傷付けず、和解できた。万々歳の結果である。


「ふぅ……後はルナとヴィルが来るのを待つだけだな。いやー丸く収まって良かった」


 だが、そう上手くはいかないのが人生である。


「見つけたぜワイヴァーン!」


 突然の叫び声に滝澤は相手の位置を捉えられない。そして、声の主の狙いはワイヴァーンだった。


「がぁっ……!」


 滝澤の目の前に着地した獣人、ラムゼの手の中には大きな目玉があった。その翠はワイヴァーンのもの。


「お前、ワイヴァーンを……!」

「逃げろタキザワ!奴らの狙いは我らしい。お前まで戦う必要はない」


 人の姿へと変わったワイヴァーンは無くなった右目を押さえる。


「いやいや、はいそうですか……って退れる男でもないぜ俺は!」


 並んで戦闘態勢を取る満身創痍の二人を見てラムゼはニヤリと笑った。


「ガラス!この男も一緒に殺していいよな!?」

「良いけど、男の武器には気を付けて。貴方が死んでしまったら、誰が私を守るの?」

「解ってる、メインはワイヴァーンだ。いつも通りサポートを頼む」


 人間と竜人、対してニンゲンと獣人。異種族コンビ同士の決戦が始まった。

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