Dangerous!Freeze!Violence!
「っ……!」
「ビスマルク様!?」
只者ならぬ気配を感じ取ったビスマルクは襖を開け放った。レーニンとの相談事の最中ではあったが、強烈な殺意に本能が反応したのだ。
「おーっと、バレたか……。出来れば気取られぬうちに仕留めたかったのだがな」
男はビスマルクの方に向かって歩いてくる。一切躊躇する様子はない。
「そこを動かないでください。貴方も、レーニンも。他の者を逃がさねば……」
「無用。既に処理したよ。威勢の良さは種族特有のもののようだな」
「……!」
ビスマルクは右手を男に向ける。いつでも攻撃が出来る体制だ。滝澤とは違った形でビスマルクの視線をものともしない男は彼女に取って脅威であった。
「まぁ待て、貴方がビスマルクだな?捜すのに随分手間取った。なるべく抵抗しないでくれると助かるんだが」
敵意を意に介せず、男は付けていた黒い革の手袋を外してビスマルクに近づいていく。口ぶりから察するに彼は彼女達のことをよく知っているようだった。
「こちらの台詞です![グロウズ]!」
屋敷の床を突き破って木の根が男を拘束する。それでも男は余裕の表情を崩さない。
「あの男、ハザマは危険です……ビスマルク様、油断しないでください」
弓を構えたレーニンがビスマルクの横に立つ。その視線と矢は真っ直ぐと男に向けられている。
「ええ……[グロウズ]」
だが、ビスマルクは左手をレーニンに向けた。
「え?」
木の根はレーニンを締め上げる。レーニンの手から弓がこぼれ落ちた。
「どうして……?ビスマルク様……」
木の根は滝澤を締め上げた時よりずっと強い力で侵入者のハザマとレーニンを締め上げる。ビスマルクの眉は上がったままだった。
「普段、外には出ず、他者との交流も少なかった貴方が何故このニンゲンの名前を知っているのです……?」
「そ、それは……」
ビスマルクに問い詰められたレーニンの目から光は消え、絶望の表情が浮かんでいる。ビスマルクはそれ以上の質問はせず、失望した表情でレーニンを見た。
「ご紹介に賜った我がお答えしよう。レーニンは我をここまで導いた協力者なのだよ。つまり、君にとっては裏切り者だね」
「ええ……そうなるのでしょうね。このまま、二人とも処罰させていただきます」
少し悲しげな表情のビスマルクは両手を締め始め、レーニンの顔が苦痛に歪む。
一方のハザマは……笑っていた。
「何が面白いのですか……!」
「いや、実に滑稽な様であるな。アルラウネ族の長ともなる者が我の言葉を簡単に信じるなどと……。その娘を裏切り者に仕立てあげた我が力、とくとご覧じろ」
手袋を外したハザマの手が木の根を撫でた。刹那、木の根が結晶化を始め、脆い結晶と化した木の根を容易く折ったハザマは拘束を抜け出す。
「あれは魔法じゃない、スキル……!」
ビスマルクの足は自然と一歩下がっていた。スキル持ちの相手となれば対策を取らねばならない。
「そうとも。我が世界から与えられたスキルは〈
簡単な説明を挟もう。スキルとは魔法ではない。個人が産まれた時から身につける身体能力の一種である。もちろん、モンスターも得うる。
「……(私一人、しかも片手ではこの男を無力化するのは難しい。幸か不幸か、今は滝澤様とナスカが居る。しかし……)」
逃げ腰のビスマルクの肩にレーニンの手がそっと触れた。
「ビスマルク様……奴を導いた私がお願いできる立場では無いのは分かっています。でも、一緒に戦わせてください!貴女と共にあれば、負ける気がしません!」
「……!」
拘束されたレーニンの目には闘志が宿っている。それを認めたビスマルクはレーニンの拘束を解いた。
「私は許します。倒しましょう、あの男を。これ以上私たちの里で好き勝手はさせません!」
「……はい!」
二人は危険な侵入者と対峙する。アルラウネ族の誇りを持って。
「……その覚悟は美しい!永久に保存すべきだとは思わないかな!?」
ー︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ー ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ー
一方。滝澤は浴場で一人、思索に耽っていた。
「(ビスマルクは人間と同じ姿のモンスターが十三種居るって言ってたな。なら……それぞれの族長に協力してもらうことが魔王になる条件なんじゃねぇの?だとしたら俺とナスカの二人じゃどうにも説得力がないよなぁ……ビスマルクが協力してくれるならまだしも……それにしても、このお湯気持ちいいなぁ……)」
ブクブクブク……と、滝澤は湯船の中に沈んでいく。
「死ぬわぁっ!ダメだ、部屋戻って考えよ」
命を懸けたノリツッコミを終えた一息吐いて滝澤は浴場を出て行った。向かう先はビスマルクの部屋。泊まる部屋を教えてもらう為だ。
︎︎ ー︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ー ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ー
「……お前、何者だ?」
滝澤は結晶の彫刻のようなものの前に佇むハザマに背後から声をかけた。右手には木刀、心には警戒。
「君こそ、何方かな?」
「お前みたいな不審者じゃなく、正当に招かれた人間だ」
見た目はモンスターではない、ならばモンスターに怖れられているニンゲンだ。屋敷の廊下にも関わらず、土足。廊下の床には大きな穴が空き、中から結晶が飛び出している。すなわち、招かれざる客であることは間違いなかった。
「ならば、早々に立ち去る事を奨める。既にここは私のアトリエとなるのだから」
ハザマが振り返る瞬間、その隙間から見えた彫刻の姿に滝澤は絶句する。
それは……ビスマルクとレーニンだった。向かい合わせで手を繋いでいる特殊なポージングだが、遠目から見てもそうとしか見えない。
「おい、それは……何だ」
「見たいか?良かろう」
恐る恐るハザマに近づく滝澤。その青白い顔を見たハザマはニヤニヤと嘲笑いながら脇へと退いた。
「これは本当に彫刻なのか……?」
「彫刻?そんな訳がないだろう。私の『作品』だよ」
結晶の表面は灯りを反射し、その美しさを増している。その中に囚われた二人は瞬き一つしない。
「おいお前、何をした!」
「何をしたも何も、『作品』を作っただけだ」
「ッ……!」
滝澤はバックステップでハザマから離れる。ハザマはニマニマと不気味な笑顔で滝澤を見据えていた。
「滝澤、何やったの!?」
滝澤の背後からナスカが顔を出し、『作品』を見て凍りつく。
「ナスカ、下がってた方がいい。こいつはかなり頭のネジが飛んでるらしい。どんな考え方してたら……モンスターを結晶の作品に変えられるんだよ!」
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