5. 空気の読めない男ども
「今、なんと……?」
ショックで体を震わせ、
ヴェノワールはそんな花魚さんの姿を見て、地獄の底のように低い哄笑を漏らした。
「黒の駅を作ったのも吾輩ならば、滅ぼしたのも吾輩だ。吾輩は黒の駅の王であり、法でもある。自分の世界をどうしようとも許されるのだからな」
それを聞いた花魚さんは一歩、後ろに後じさってふらついた。
「そんな、そんなの……」
目を見開き、言葉を失う花魚さん。
俺はいたたまれなくなって、一歩前へ出てその言葉を引き継いだ。
「そんなの、勝手すぎるだろ! ちょっとはその世界で暮らしてる人の気持ちも考えろ!」
知らずのうちに俺の内から怒りが湧き上がっていた。これは花魚さんの怒りでもある。
飽きるのは自由だ。だけど、だからって駅を、世界を一つ丸ごと巻き込むなんてのはやりすぎだ!
「花魚さんの気持ちを、母親から引き離された女の子の気持ちを考えたことあんのか! お前は親子を、家族を踏みにじったんだぞ!」
俺の口は勝手に動いていた。目の前の黒の魔王が無性に許せなくて、何か言ってやらなければ気が済まない。
こいつのせいで花魚さんは母親と別れ、その過去が花魚さんを歪め、その延長線上で
「怖がらずによく言った。もっと言ってやれ、
後ろからじーちゃんの声がした。それは何よりも大きな手のひらとなって、俺の背中をぐっと押してくれる。
そこでようやく、ヴェノワールはじーちゃんの存在に気づいたようだった。じーちゃんを見たヴェノワールは不快な笑いを止め、錆びついた動きでよろめいた。
「き、貴様は!」
眼球こそないものの、ヴェノワールが驚きに目を丸くしているのが見て取れる。
「茶の
「えっ!?」
今度は俺が驚く番だった。じーちゃんが、この茶の駅の看板者? 花魚さんじゃなくて?
……いや、ちょっと待てよ。
茶色は、土色でもあるのだ。ちゃんと茶の駅の色が名前に入っているじゃないか。
「よう、黒の駅の崩壊ぶりだな、ヴェノ
じーちゃんは眼鏡をくいと顔に押し当てる。
「そのねじくれた性根、ちっとも変わっちゃいねえな。死んでも治らないってか」
「殺した張本人が、ぬかすなあ!」
急に怒り狂ったヴェノワールが太い骨の腕を振り回し、じーちゃんを横から薙ぎ払う。って、この位置だとじーちゃんの前に立ってる俺も危ないな!?
だがそこはじーちゃん。心配無用。漆黒の骨の腕を、手甲をはめた腕でいともたやすく止めてみせた。
「ぬががががが……!」
「どうした、黒の魔王の力はこんなもんか?」
力むヴェノワールに、余裕綽々のじーちゃん。体格差をものともしていない。
「じーちゃん、あいつと知り合いなのか!?」
「あのばかが自分の治めるべき世界をおもちゃみてえに壊していやがったから、むかついて全力でぶん殴った。そんだけだ」
「そ、そんだけて!」
要は、黒の駅を滅ぼしたのはヴェノワールだけど、そのヴェノワールにとどめを刺したのはじーちゃんだったのか。
うちのじーちゃん、規格外すぎる。
「こちらが死力を尽くしているのに、仲よく会話などするなあ!」
「うるせえ!」
俺とじーちゃんの声は重なってヴェノワールを打った。
じーちゃんは右手を振るい、ヴェノワールの腕を弾き飛ばす。
巨大な骨の体が後ろによろめくのを見ながら、じーちゃんは背中越しに声を投げてくる。
「三歩、お前は滅びかけていた黒の駅に取り残されていた迷子だ」
「それ、今言わなきゃだめかな!?」
不意打ちなじーちゃんのカミングアウトに俺の声が上ずった。
「親とはぐれ、崩壊する世界の中でお前は死にかけていた。だから俺はヴェノワールを倒したあと、あいつから奪った生命力の絞り
「そう、だったのか……」
そこで思い当たる。俺が十年以上前を思い出そうとすると、それを邪魔するように脳内を侵食する黒の闇を。
あの黒い景色は塗り潰されたものではなく、黒の駅の思い出そのものの色だったんだ。
じーちゃんはほんの一瞬顔をしかめ、それから俺の頭を雑に撫でた。
「すまんかったな。黒の世界の滅亡のごたごたでお前の親は見つけられなかった。だから俺が代わりになろうかと思ったんだが、やっぱり無理があったみてえだ」
今朝の、俺の吐き捨てた文句のことを気にしているんだろう。謝らなきゃいけないのは俺の方なのに。
じーちゃんは一見おおざっぱでぶっきらぼうに見えるが、その実、内心は繊細で、複雑な思いを抱え込んでいたのかもしれない。
つまるところ、一言で表せば、不器用なのだ。この人は。
でも、不器用なのは俺も同じだ。じーちゃん譲りだ。
不器用なら不器用なりに、伝えなきゃいけないこともある。
「じーちゃん。今朝はごめん。俺、ほんとは寂しかったんだ。親はいないし、自分の生まれた世界もわからないし、自分のことも何も知らなかったから」
俺はじーちゃんと、まだ放心している花魚さんの顔を交互に見て、拙い言葉を紡ぐ。
「だけど、じーちゃんがいて、花魚さんがいた。とんでもなくぶっ飛んだ不思議な人たちが身近にいてくれたおかげで、俺の寂しさもちっぽけに思えて、俺くらいでもこの世界にいていいんだなって、許されたような気がしたんだ」
だから。
「だから、ありがとう。二人とも」
俺は倒れている明次にも目をやり、笑いかける。
「さっさと起きろ、寝坊助。お前にも言いたいことあるんだからな」
相変わらず明次の目は閉じられたままで、起きる気配はない。でも俺は知っている。こいつの悪運の強さを。俺は信じている。
だから、いつもみたいにばかな話しようぜ。
「土熊さんが、ヴェノワールを倒した……?」
ぽつりと、そんなつぶやきが耳に届く。
「暴走したヴェノワールを、土熊さんが倒してくれたっていうんですか?」
まだ足元がおぼつかないものの、目に生気を取り戻した花魚さんがすがるようにじーちゃんを見る。じーちゃんは俺の頭から手を離し、その手で花魚さんの肩を軽く叩いた。
「まあ、そうなるな。だが俺がやつを倒せたのも、お前さんのお母さんのおかげだ。俺は、あんたの母親の開けた
「お母さんが……」
その言葉を抱き締めるかのごとく、花魚さんは自身の体をぎゅっと抱き、うずくまる。
そのとき。突如、黒い突風が吹き荒れた。
ヴェノワールが口から真っ黒な息を吐き、俺たち目がけて吹きかけている。
「! いかん!」
じーちゃんはとっさに俺たちをかばうように両腕を広げて前に立ち、黒い風を全てその一身に引き受ける。すると、じーちゃんの体ががくんとよろめいた。
「じーちゃん!? どうしたんだよ!?」
「吾輩の毒息、今度こそとくと味わえ茶の魔帝よ」
ヴェノワールは憎らしげに、にぃと目を細める。それと同時にじーちゃんが両膝をついた。
まるで悪夢だ。あれほど強いじーちゃんが、無敵のじーちゃんが、俺たちを守ったせいで倒れるなんて。
じーちゃんの全身は火で焙られたかのように黒く煤け、節々からは焦げ臭い煙が立ち上っていた。
「童をかばって毒息を食らうか! あのときとはあべこべだな茶の魔帝!」
「あのとき?」
俺の口ずさむ疑問に、しゃがれた返事が返ってくる。
「こいつは以前吾輩と戦ったとき、窮地を子どもに救われたのだよ。吾輩の毒息があと一歩で茶の魔帝の命を奪うというとき、命知らずの餓鬼が立ちはだかってこやつをかばった。そのせいで形勢は逆転し、吾輩は負けたのだがな」
ふん、とヴェノワールは鼻を鳴らした。
「今思い出しても忌々しい。もっとも、もうあの餓鬼は生きておらぬだろうがな」
「……いいや、そいつはお前さんの目の前にいるぞ。ぴんぴんしてらあ」
「なに?」
ぼそりとつぶやかれたじーちゃんの言葉にヴェノワールはぴくりと食いついた。
弱弱しい声音で、じーちゃんは懐かしそうに語り出す。
「余所者の俺を、俺より何十回りも年下の小僧が、あろうことかかばってくれた。だが俺はそいつを絶対に死なせたくなかったから、黒の看板者からぶん捕った力を与えたのさ」
ちょっと待て。その話、ついさっき聞いた気がするぞ?
「まさか、まさかそいつって……」
「お前だ、三歩。見ず知らずの他人のために我が身を犠牲にできるお前を、俺はずっと尊敬してたんだぜ」
ごぽりとじーちゃんは血の泡と笑いを吐き出した。
「なんのこたあねえ。俺は償いのためにお前を育ててきたんだ。自分からはとても言えなかったが、くそったれな魔王が口を漏らしたせいでようやっと言うことができた。礼を言ってやるよ、ヴェノ悪」
強がって口角を捻じ曲げるじーちゃんを見ながら、俺の声が震える。
「じーちゃんが、尊敬? 俺を……?」
そんなことを急に明かされても、にわかには信じがたかった。じーちゃんが、俺を、尊敬だって? その三つの単語が、どうしても上手く結びつかない。
もしそれが本当なら、今までの俺へのじーちゃんの態度の意味ががらっと変わってくるじゃないか。変に意地を張っていた自分がばからしい。そんな俺に、じーちゃんは笑いかける。
「三歩。あのときから、俺ぁお前みてえになりたかったんだぜ」
ずたぼろに笑うじーちゃんのその言葉が何よりも誇らしい。こんなに嬉しいことはない。だって、俺も……
「俺だって、じーちゃんみたいになりたかったんだぜ」
自分の声が震えているのがわかる。俺たちは互いに憧れていたんだ。こんなこと、奇跡以外の何物でもない。
「じゃあ、おあいこだな」
かか、とじーちゃんは虫の息を漏らす。口から黒い煙がゆらめいた。
「昔話はそれで終わりか? 茶の魔帝」
受け止めきれない感動で頭がぐちゃぐちゃなところに、しゃがれた声が割り込んでくる。
「さて、
「……私の名を、お母さんがくれた私の名前を、呼ぶな……!」
不躾に名前を呼び捨てにするヴェノワールに、花魚さんはありったけの敵意を込めた眼差しを向けた。
「黒の駅の崩壊からうまく逃げおおせたと思っているようだが、それは少し違うな」
「……なんのこと?」
漆黒の髑髏は骨をがらりと鳴らしながら笑った。
「あのとき吾輩は、もし自分が倒されたときの保険のために、お前を逃がしておいたのだ。黒の駅の住人は全て吾輩が命を与えた吾輩の子機のようなもの。一部さえ生き残っていればいつか必ず吾輩を復活させてくれると踏んでいたぞ」
「……あ……あなたが、お前がァァァ…………!」
花魚さんがかつてないほどに怒りを表情に刻み付ける。普段は柔らかく弧を描いていく眉は上がり、その目は見開かれ、紅茶色の瞳の周りに紅の線が血走っている。
黒い風よりも更にどす黒い感情が、彼女を支配していた。
「お前が待ち望んでいたのではない。今このときを待っていたのは吾輩の方なのだ」
全部が全部、こいつの思惑通り、手のひらの上だと思うと吐き気が込み上げてきた。今まで花魚さんを支えて突き動かしてきた思いさえも、ヴェノワールはかっさらおうとしている。何もかも奪う気かよ。
「それ以上ふざけたことを言うなばか骨野郎! 花魚さんがお母さんに会いたい気持ちは本物だ! それは花魚さんだけのものだ! 人のもんに勝手に手を出すな!」
「人のものではない。吾輩のものだ」
がらがらと耳障りな笑い声を上げるヴェノワールを見て、決めた。絶対にその顔面ぶん殴ってやる。
そこへ、今にも消え入りそうな別の笑い声が混ざる。
見ると、じーちゃんがくくくっと笑っていた。
「何がおかしい、茶の魔帝。いや、おかしいのは貴様自信の頭か?」
「ばーか、おかしいのはてめえだよヴェノ悪。何が自分のもんだ。てめえは何もしちゃいねえ。種を蒔いたはいいものの満足のいく花が咲かなかったからって、自分で自分の畑を燃やしてる大間抜けじゃねえか。花のきれいさにも気づけねえでよ。ひねくれてんのはてめえ自身だ」
「じーちゃん……」
じーちゃんは俺が言いたいことを全部言ってくれた。じーちゃんの言葉は、気持ちよいところに届いてくれる。孫の手みたいだ。孫は俺だけど。
ヴェノワールは死にかけのじーちゃんに言い負かされたことが悔しかったのだろう。何も反論できず、その代わりに花魚さんへ矛先を向ける。
「やかましい! これは間違いなく吾輩のものだ! さあ、全てを知って満足したろう。愛すべき我が黒の駅の民よ。吾輩の血となり肉となれ!」
巨大な骨の手が伸びてきて、花魚さんを鷲掴みにした。もがく花魚さんだったが、骨の腕に込められた力は強く、なすがままに持ち上げられる。
「ヴェノワール! ヴェノワールゥゥウ!」
花魚さんが憎悪の眼差しをヴェノワールに向ける。今までの崇拝がすべて憎しみへと裏返り、仇敵となった黒の魔王を噛み殺さんばかりにその名を叫ぶ。
「おい、花魚さんを放せよばか髑髏! 食うなら俺にしろ! 俺の中にはお前の力が入ってるぞ!」
「ああ、知っておるよ。生命を奪う力と与える力。どちらも吾輩のものだ。そして生命を与える力の方だけが貴様の体の中に宿っているのだろう」
黒の骸骨はしゃがれた声で笑う。耳障りで、不快な笑い声だった。
「だがな、与える力などつまらん。その力で黒の駅を作ったが、実にくだらない世界だった。平和ボケした、つまらん世界だ。退屈のあまり壊したくなるほどのな。だからまずは貴様よりも、魔力の高そうなこの女を頂くとしよう」
そう言って、ヴェノワールは花魚さんをひょいと口に放り込み、飲み込んだ。暗黒の中に花魚さんが沈む。
「花魚さあああん!」
俺の呼び声はドーム内に意味もなく響き、虹色の竜巻の中でちぎれていく。
そして、ヴェノワールの体に異変が起こった。
骨だけだった体に植物が根を張るように筋肉の繊維が伸び、漆黒の肉体が全身を覆う。
頭には二本の角を頂き、筋骨隆々な体のところどころからは鋭い棘が突き出ている。手足の先には触れるだけで切り刻まれそうな刃の爪が生え揃い、後ろでは長い尻尾が大蛇のごとくうねっていた。
「ふむ、悪くない」
手を開閉して自分の体を確認していたヴェノワールの額には、花魚さんの上半身だけが埋め込まれていた。花魚さんは安らかに目を閉じている。
「この女、よほど魔術に長けていたのだな。上出来だ」
自分の額から生えている花魚さんを見て、完全な肉体を手に入れた黒の魔王は満足げに笑みを浮かべた。二つの目が怪しく真っ赤に光る。
「て、めえ、花魚さんに、うちのお隣さんに何してんだよ!」
たまらず俺は走り出し、全力でヴェノワールの足を、ぶん殴る!
だが、返ってきたのは俺のパンチなど蚊の一刺しにも等しく思えるほどの、桁違いな威力のデコピンだった。
胸の辺りが焼けるように痛く、熱い。俺は吹っ飛ばされ、背後の黒い竜巻の壁に激突した。咳が止まらず、少し血が混じっている。咳のしすぎで肺に激痛が走った。
これが、黒の駅の看板者の力。今まで会った他のお隣さんとはわけが違う。圧倒的な暴力の塊だった。
「いいパンチだ。おかげで力がみなぎってしかたない」
ヴェノワールはぐるぐると腕を回し、肩をほぐしている。ちくしょう。こんなやつ、どうやって倒せばいいんだよ。
「ばか野郎、三歩。てめえの力を忘れたか」
真っ黒焦げになり、膝の震えを押し殺しながら立ち上がろうとするじーちゃんがかすれた声を出す。
「お前はノックしたもんに元気を吹き込むんだぞ。一発殴ったところで、相手は強くなるだけだ」
「そういや、そうだけど、でも、どうしても一発、かましてやりたかったんだよ」
「ま、そりゃそうだ。その気持ちは大事にしな」
額に脂汗を浮かべながら無理して笑うじーちゃんの口から、つつ、と赤い線が一筋垂れた。
「だが、今は殴る相手はあいつじゃねえ。見失うなよ? 拳の行方を」
「じーちゃん、毒が」
「うろたえんな」
「でもじーちゃん、血が、血が」
じーちゃんの口から流れる線は太くなり、やがて滝になった。
もう、じーちゃんの体は限界だ。
普段どんなに強くとも。いざというとき、どんなにかっこよくとも。
じーちゃんだって生身の人間なのだ。
それに、無理が通る年齢をとっくに過ぎてしまっている。
俺をかばったせいで黒の毒気をたっぷり吸い込んだじーちゃんは、いつもよりなお小さく見えた。それは、目を逸らしたくなる有様だった。
けれども、俺はまっすぐじーちゃんを見据え、痛む体に鞭打って近づく。じーちゃんの手を握ると、じゅう、と俺の手が焼ける悲鳴を上げた。なんて熱だ。
「三歩。手ぇ離せ。毒がうつっても知らんぞ」
「いやだ。かっこつけさせろよ。最後くらい」
黒こげの顔の中ではっきりと白く輝きを放つ目を細め、こふ、とじーちゃんは息を漏らす。
「ばかな孫だ。だが、俺にはもったいねえや」
じーちゃんは俺の手を握り返した。
打開策は、実は一つだけ思い当たっている。だけどそれを実行する時間がない。
それでも俺は、泣き言を零さないように必死で口を噛み締めると、血と苦渋の味が広がった。
あと少し。せめてもう少しだけ、時間さえあれば……!
「では、せっかくだからやはり残りの力も返してもらおうか。茶の魔帝はそのあとのデザートにしてやろう」
ヴェノワールの手が伸びる。けれども俺の視界に映るのは漆黒の手ではなく、黒い魔王の額に囚われている愛しい隣人だった。
意識はなく、きっと俺の声も届かない。だけど、言わずにはいられなかった。
「花魚さん。あなたのことが……好きでした」
黒い手のひらが眼前に迫り、死を覚悟した瞬間。
「その告白、ちょぉっと待ったあ!」
俺の視界の隅で何かが風のように駆け抜けた。
その誰かは手にしていた刀でヴェノワールの額を切り裂き、花魚さんを解放する。
宙に放り投げられた花魚さんの体をキャッチし、ずざっと俺とじーちゃんの前に着地したそいつの顔は、よく見知ったものだった。見間違えるわけがない。
「ちょっと人が死んでる間に抜け駆けしようったってそうはいかねえぜ。なあ、三歩」
ゆっくりと丁寧に花魚さんの体を地に横たわらせ、刀身が紫色の日本刀を肩に担いだそいつは、にやりと意地悪く歯を見せた。
なんだよ。今日の主役は俺じゃなかったのかよ。
まったく、散々遅れてやってきやがって……!
「遅刻だぞ、明次!」
「大目に見ろよ、親友だろ!?」
俺の憎まれ口に、後藤明次はばかみたいに明るい声で答えた。
ほんと、空気の読めないやつだよ、お前は。
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