you're kidding

正直、気恥ずかしいし、なんだかむずがゆくなってしまう自分がいてどうしていいのかわからなかった。

自販機は公園の端にあり、買いに行くには大変だが、自販機の数、飲み物の種類も色々あるからいいとは思っている。

僕は小銭を取り出し、自販機に近づく。

自販機は四台ならび僕は一番端のところで買うことに決めた。

飲料をどれにしようかと考えていると一つとばしの自販機に本を持った小学生くらいの女の子が近寄るのがわかった。

気にせず、飲み物を買おうとしたときだった。

「いや、青春だったね。 ただはぐらかす癖はやっぱり”幸四郎君”の性質なんだろうね」

一つ隣分のところに立つ小学生が口を開いてそう言った。

僕は言いしれぬ、寒気と不快感が身体のそこから脇が上がるのを感じながら横をむく。

小学生の女の子は自販機に顔をむけ、飲み物を選択している。

違和感を感じた時に小学生の女の子はこちらをむき、曇りのない笑顔を見せる。

「やぁ、久しぶりだね。 ”ミナト”君」

僕に向かい横に並ぶ、見知らぬ少女はそう言った。

唾を飲み込み、僕は独り言をつぶやくように言った。

「まさか……」

「そう。そのまさかだよ」

女の子はもう一度、自販機に向き直る。

「もう完了していたんですね。 Dr.シロタ」

「不完全ではあるけどね」

もう一度、この名前を呼ぶとは思ってもみなかった。

「死んだのではないんですか?」

「ああ。 死んださ。 シロタと名前がついた元の肉体はね」

シロタは言って笑う。

「そうですか。 記憶移植装置とクローン体を使ったんですか?」

「うーん、一つはあっているけどもう一つは間違っているね。記憶移植装置は使ったがクローンは使っていないさ。一応、記憶と精神は私のものだが。 なんだかとっても不思議な気分さ」

「よかったですね。 クローン体と記憶移植装置はどうしたんです?」

「ああ、私を手助けしてくれる人が居てね。技術を提供する代わりにこの身体を保証してくれたんだ。 だからクローンを使っていない。けれど記憶と精神は私のものだ」

「どういうことですか?」

「簡単に言えば、この身体の、精神の持ち主がいるということさ」

僕は胃から何かわき出るんじゃないかと思うくらい気持ち悪さに捕らわれる。

「ようは人の身体を乗っ取ったわけですよね」

「そういうことになるね。 まぁ、なんとでも言ってくれ」

「提供してくれたのは天来ですか?」

「まさかね。 海外にそういうことを専門にしている集団がいてね。 彼らに渡したよ。 だから簡単には足が着かないようになっているよ」

シロタはクツクツと笑う。

彼女を保護し、黒百合に教えれば状況はかわるだろうかと僕は頭の中で一つの案をだす。

「一応、見張りもいるから君がこの場所で私を捕まえても君が不利な状況に陥るだけだ」

僕の考えを見透かすように彼女は言った。

「そうですか。それは残念ですよ」

「まぁ、それに私は君に危害を加えるつもりもないし、正直、君を襲うことにメリットはそこまでない。私としては最後の別れをつげに、君に会えればと思って、ここに来た」

シロタは本当に残念だよと呟いた。

「Dr.シロタ?」

「なんだい?」

「僕はなんで生み出されたんでしょう?」

ふと自分の中でのわだかまりのようなものを問いかけたくなった。

僕が彼女を見ずに質問すると彼女は困ったように笑いながら言った。

「正直、私にもわからないが、きっと御三家は幸四郎君を警戒していたけれど彼の能力の高さを認めていたのだろう。 彼が死んだときにでもそのスペアを作るために君が造られ、いずれは幸四郎君の肉体として記憶を植え付けるつもりだったのだろうが幸四郎君はそれを拒み、御三家の手の届かない場所で育てることを決めたのだと思うよ」

シロタはそういうと君はきっと恵まれているんだよと言った。

「君は曳舟の一人だからね」

「わかりませんよ」

「今はわからなくてもいずれ自覚するときがくると思う」

シロタは淡々と言った。

「それに焦る必要はないと思うよ。いずれ、答えは出るものだと思うし」

少女の姿をしたシロタは遠い目をしていう。

「今回を機に君からは手を引くけれど、君を狙う組織、集団は多いと思う。 気をつけるといい」

そう言ってシロタは飲み物を自販機で買う。

踵をかえし小学生の姿で彼女は言った。

「ではさよならだ。また会うことがあれば」

「僕は絶対、嫌です」

彼女に嫌悪感を隠さずに言った。

シロタはフッと笑うと公園の外へとかけていった。

僕はただその姿が視界から消えるのを呆然とながめるだけ。

どれくらい時間がたったのかわからいが彼女の姿が消えたのを確認し、飲み物を改めて買う。

アヤメのところに戻ると彼女は首をかしげた。

「遅かったが何かあったのか?」

「いや、トイレに寄っていたんだ。 ごめん」

「そうか」

僕は彼女に飲み物を渡し、自分の買った分を開ける。

正直、自分の立ち位置などわからない。

けれどこれから先、シロタの言うように何かが現れる可能性がある。

そのとき自分がどう動けるかはわからない。

僕はできるだけ平穏が続けばいいと思う。

そう思い、飲み物に口をつけた。

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