Are you young?

「ミナト君、心配したんだよー」

「そうだ、心配したぞ」

カスミとタクトがいつものように休み時間にやってくる。

二人がクローンで、無意識に黒百合の監視役を担っているが僕にとっては二人はいつもと変わらない日常を感じさてくれる。

確かに二人が無意識でそういう役目を負い、知らずの内にそうなっていることは悲しいけれどそれはまた別の問題で気にならなくなった。

それは多分、自身の素性もまた彼らと同じだからだ。

自身をクローンと知ってからどこか彼らに後ろめたい気持ちがあったが、日々を過ごすうちに薄れてきた気がする。

それは自分の気持ちであり、それをいちいち彼らに言う必要もない。

それが僕の気持ちだった。

「どうしたのー、ボーッとして」

カスミがひょこっとこちらを覗く。

いきなり顔を近づけてくるから驚いてしまう。「いや、別になんでもないよ」

「本当にー? そういえばミナト君、彼女いるの?」

「へ……?」

「だってミナト君が入院する前、学校の前で知らない女の子と歩いていたから」

「ああ。 そういうわけじゃないよ。 説明が難しいというか」

「へー、何か言えない秘密でもあるのー?」

カスミがニヤリとしながら言った。

「別にそんなんじゃないよ」

僕は笑って誤魔化す。

「あっ、ミナト君が誤魔化したよ。タクト」

「珍しいな、ミナトがそんなことをするなんて」

「そうかな? 少しだけ変化しただけだよ」

僕が微笑してそう言うと二人は首をかしげた。二人は無意識で黒百合の監視役で僕の日常を見ている。

けれども僕の内面までは知ることはできない。不思議だなと僕は考えながら二人に向かい笑った。


 放課後、校門を抜け、近くのコンビニで待機していたアヤメと合流する。

「お待たせ」

「大丈夫だ」

「行こうか」

僕とアヤメは帰路につこうとした。

すると道路から一台の黒塗りのセダンタイプの車が僕らに近づいてくる。

歩いている僕らに合わせるように停車する。

一瞬、僕は身体に緊張が走り、隣のアヤメは臨戦態勢をとるように腰に手をかけようとした。

停車した車の窓が開くとそこから顔を覗かせたのは依乃里さんだった。

「お久しぶりね、二人とも」

彼女は僕らを見ていうと扇子で口元を隠す。

「お久しぶりです」

「…………」

僕は挨拶し、アヤメは軽く頭を下げる位だった。

「なんだか歓迎されてないわね」

依乃里さんはそう言うと、苦笑したように言った。

「そうですかね?」

おどけたように僕は返答する。

「まぁ、別に手荒なまねをしたり、貴方を脅しにきた訳じゃないのよ」

「じゃあ、なぜここに?」

「直接、連絡は取れるけれど、一応、報告をしておこうと思ってね」

依乃里さんは扇子をぱちりと閉じる。

「…………?」

「昨日、Dr.シロタの遺体が別の街で発見された」

「…………!」

驚きと言い表しようのない感情が襲う。

「警察が発見し、身元確認と司法解剖の結果、彼女だとわかったみたい」

依乃里さんはどこか遠いところを見ながら言った。

「そうですか……。僕としては自分に関する危機が去ってくれてよかったですよ」

僕は依乃里さんに向かい言った。

「ミナト君ならそう言うと思ったわ。それに我々、黒百合としてもよかったと思っているわ」

そう言い依乃里さんは微笑した。

「ただ記憶移植装置とクローン体の一部が見つかっていないだけが不穏なんだけど」

「…………」

確かにそれの居所がわからなければ依乃里さんにとってはマズイということには間違いない。

けれどそれは僕にとって正直どうでもいいこと。

「今回はそれだけを伝えに来ただけだから」

依乃里さんは扇子を開き、口元に開ける。

「それと……」

依乃里さんは僕らをしっかりと見つめる。

「完全に御三家からの監視は変わらないことだけは覚えておいてね。 たとえミナト君がクローンであっても”曳舟”の血筋ということには変わりはないから」

依乃里さんはこれから先も警戒するようにと釘を刺すように言った。

「わかっていますよ」

僕は苦笑いを浮かべて返答した。

「黒百合家としては監視対象だけど、私としては……」

依乃里さんは一度、下を向きもう一度視線を上げると彼女は言った。

「友達としての関係性は続けたいものだわ」

そう依乃里さんは言うと車の窓を締める。

そしてそのまま車は発進し、僕らを残し走り去っていった。

車の姿が消えて、僕らはただ呆然としていた。「恥ずかしかったのかな?」

僕は一人ポツリ呟く。

「かもしれないな」

それに答えるようにアヤメもポツリと呟いた。

 依乃里さんが姿を消し、僕らはまた帰路を歩く。

ふとアヤメが帰路の途中の大きな公園の方をみて、僕に言った。

「少しだけよらないか?」

僕も公園の方をみる。

「いいよ」

そこは広さもあり、色々な人が運動したり、自然にふれにきたりと利用者は多く、ベンチもいくつかあるからふらりと寄るには良いところだった。

僕とアヤメは黙り、ただ公園の中を歩く。

夏に近づき、木々が緑色に葉をつけ、落ち着くような雰囲気がそこにはあった。

一つのベンチを適当に座り、僕とアヤメは座る。

「どうしたの、急に公園に寄ろうなんて」

僕はアヤメに問いかけた。

「いや、特に用はないんだけれどなんだか家じゃないところでミナトと話がしたくて」

「…………」

突然そう言われ、僕は少しだけ反応に困ってしまう。

アヤメはどこか照れくさそうにしていてこちらまでなんだか照れくさくなってしまうというか。

反応できずに困っているとアヤメが口を開いた。

「こんなに落ち着いて生活をしたことがないからなんとも不思議で、どこかそわそわしている自分もいるんだ」

アヤメはそういうと頬をかく。

「確かにそうだもんね」

彼女は戦災孤児として育ち、そのまま兵士のようになった。 『父』がアヤメの生まれ故郷の紛争を集結させてそれ以降はずっと戦いの連続だった。

この国に来る時も僕を守る為に、戦っていた。そんな彼女にとっては久しぶりの長い平穏というところなんだろう。

「ここに来てからは戦いが続いていたけど、今は何もない。 ここに来て本当によかったと思ってる。 それに……」

「それに……」

アヤメは上目遣いでこちらをチラリとみると口を開く。

「ミナトが家族で居てくれるから寂しくないんだ。 それが嬉しくて」

そう言うと彼女は頬を朱色に赤めながらニコリと笑った。

その笑顔がなんだか素敵で、真っ直ぐにみれなかった。

「そ、そっか……、よかったよ」

僕は照れ隠しで鼻の先を指先でかく。

なんだか言葉が浮かばないな……。

そんなことを思いながら、お互いに沈黙が流れる。

どこか気恥ずかしさが漂い、喋るに喋れなくなってしまった。

「そ、そうだ。 すこし距離はあるけど自販機があるから僕が買いに行こうと思うんだけど何か飲みたいのあるかな?」

僕は気恥ずかしさを消すように早口でアヤメに問いかけた。

「あっ……、そ、それなら前に飲んだシュワシュワするやつがいいかな」

アヤメも恥ずかしかったのかどこか声がうわずっていた。

「じゃあ、それを買ってくるよ。 ちょっと待ってて」

「わかった」

彼女がそう返答し、僕は駆け出した。

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