From prologue onwards
「ミナト!」
そう叫ぶ声に僕は目を覚ます。
目の前には少しだけ、涙目になったアヤメがいた。
「ミナト!」
彼女は目を開けた僕にもう一度、呼んだ。
「あれ……? なんで?」
たしか、僕はシロタに撃たれ、腹部に痛みを感じ、そのまま意識がなくなった。
気が付くと壁にもたれかかるように座っていた。
そして目の前にアヤメの姿。
僕は確認の為に自分の腹に手を当てる。
やはりぬるりとした感触、手をみると血が付着していた。
けれど先ほどみたいな寒気と痛みが薄いような気がした。
「気が付いたか、ミナト」
周りの轟音の中、アヤメが言った。
まだ戦闘は続いているのか、船はかすかに揺れていた。
「アヤメ……、僕は?」
「Dr.シロタに撃たれたが私のナノマシンの力で、一時的に出血と痛みを止めた」
アヤメはそう言うと僕の腹部を触る。
「すごいね。 回復もできるのかい」
「回復までは行かない。 応急処置にしかすぎないから無理はできないよ」
アヤメはそう言うと先ほどの戦闘で負った怪我した自分の二の腕を触り、立ち上がる。
僕もとりあえず立ち上がろうとしたが、腹の内側から何か鋭利な物で刺されているような鋭い痛みに襲われる。痛みで顔に力が入る。
「まだ無茶しない方が良い」
「ありがとう、アヤメ」
支えてくれた彼女に礼を言う。
「礼は早いよ。 早くここをでよう」
彼女はそう言うと外を見る。
まだ僕とアヤメは操舵室にいた。
見える窓からはまた爆発する瞬間の閃光が見える。
「敵は?」
「改造人間だ。 ”ヴァイパー”と”バッド”とは違う奴だ。 もう一体が隠れていた」
彼女がそういい、僕は操舵室の内側を見る。
そこには無残にも身体を切り刻まれ、肉片となった黒百合の部隊の人間の残骸が散らばり、血の池を作っていた。
「依乃里さんたちは?」
「黒百合と烏間は生きている。 黒百合依乃里はここから離脱。烏間は生き残った部隊と共に下で、改造人間と戦闘中だ」
「そうか……」
僕はシロタがいた場所を見る。
聞こうとしていたことが聞けなかった。
とりあえず今はここから離れることが先決だと僕は思った。
「いこう」
短くアヤメに言うと彼女は短く頷く。
すぐさま僕はアヤメに肩を担がれながら船の内部から甲板方面に向かった。
内部はすでに戦闘はおわり、階段で降りていると各階に撃たれた傭兵達の死体がところどころに寝転がっていた。
甲板へと出る出入り口にまでたどり着くと銃声が響き、爆発と閃光が起こり、煙も立ち上る激しい戦闘が黒百合の部隊と改造人間の間で繰り広げられていた。
改造人間は蜘蛛のようなマスクをつけ、身体には鎧のような物を身に纏っていた。そしてかぎ爪のような手の先からは白く光る髪の毛のように細い糸が揺らめいている。
「あれは?」
「多分、ワイヤーをナノマシンか何かの力で、強度を高めてる。 あれに軽く触れれば、普通の人間なら切断できる」
アヤメは冷静に言った。
僕はアヤメから身体を離す。
「ミナト?」
「アヤメ、あれを倒してくれ」
僕は目の前で繰り広げられる戦闘の原因である改造人間をみながら言った。
「とても僕や、依乃里さんたちだけでは太刀打ちできない。 君ならできるはずだ」
僕は再度、アヤメの方に向き直り目を見る。
「…………」
「やってくれるか?」
「ミナトの頼みなら」
アヤメは強く言うと頷いた。
「ミナトはどうする?」
「僕はここで待ってる」
「そうか……。無理するな」
僕は彼女に頷いて返事をする。
「待っていてくれ」
アヤメはそう言い改造人間にむけて走って行く。
彼女は走りながらナノマシンの力を解放し、髪の色がエメラルド色に徐々に変化していく。アヤメは腰につけたホルスターからナイフを取り出すとナノマシンの力で形状を変化させる。
刀のように長くなり薄く刀身が発光する。
そして片方の手で
小さいナイフを手に取り、それを改造人間にむけて投擲した。
違和感に気が付いた改造人間はすぐさま、その場を離れながら、髪の毛のようなワイヤーを一振りする。
そこにナイフが辺り、ナイフは砕けるように飛散した。
そこへすかさずアヤメが変形した刀を振り上げ、改造人間と間合い詰める。
改造人間はかぎ爪を盾のように自分のほうにむける。
アヤメが振り下ろした刀の刀身は改造人間の手にしたワイヤーの部分で止まる。
改造人間の脇腹にむけてアヤメは蹴りを入れる。
改造人間はダメージが大きかったのか、よろけるがすぐに体勢を立て直すがアヤメはそこで追撃の手を緩めない。
彼女は蹴った足を地面につくと同時に別の足を上げ、改造人間の頭にたたき込んだ。
アヤメの蹴りの威力がすさまじいのか改造人間はそのまま頭から半回転し、地面に頭を勢いよく打つ。
もの凄いはやさでアヤメは身体を捻り、後ろ回し蹴りを放ち、思いっきり改造人間の身体を吹き飛ばす。
改造人間は離れた場所へ吹き飛び、地面を変な体勢で転がる。
アヤメはそのまま改造人間を追いかけ、刀を振り上げ、切っ先を心臓へとむける。
しかし、改造人間はダメージが少ないのかそのまま地面に倒れたまま、すぐさまアヤメの
攻撃を硬質化したワイヤーで受け止める。
アヤメは力で押し込もうとするが、改造人間は両手を開くようにし、アヤメを吹き飛ばす。
改造人間はワイヤーを鞭のようにしならせ、アヤメに向けてワイヤーの先をとばす。
硬質化されたワイヤーは槍の先のように鋭くなり、アヤメの心臓へ向かう。
危険を察知したアヤメは曲芸するようにバク転を後ろにし攻撃をかわす。
空中で一回転しながら別の手でつかんだナイフを投擲する。
飛んできたナイフを改造人間は払い落とす。
その合間にアヤメは地面に着地しすぐに改造人間と間合いを詰め、変形した刀を横に一振りする。
その前に改造人間は空中に高く跳躍する。
そのままアヤメに向かい、ワイヤーを振る。
ワイヤーはアヤメの身体の周りにまとわりつこうとする。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
突然、声をアヤメは上げ、それと同時に持っていた刀を目にもとまらないスピードでまとわりつこうとしたワイヤーを切断した。
それを見ていた改造人間は地面に着地すると
恐れをなしたのか逃げようとしもう一度、跳躍する。
アヤメはそれを見逃さず、同じように勢いよく跳躍する。
彼女は改造人間よりも高く跳躍する。
そのまま落下のスピードに合わせ、刀を振り上げた。
改造人間が気が付き空中に浮かびながら上空に顔を向ける。
「おおおおおおおおおっ!」
アヤメは叫び声と共に落下し、空中で改造人間の頭から真下に向けて刀を一気に振り下ろした。
そのままアヤメは落下し、地面に着地する。
それと同時に改造人間も落下しながら身体
が頭からまっっすぐに空中で半分に割れ、地面に左右の身体がドンという音と共に叩きつけられた。
完全に改造人間は絶命し、屍となった。
アヤメは斬られた改造人間の片方を見る。
肩で息をしながら一度、目を閉じる。
これで戦闘は終わったのだと僕は光景を眼にしながら思った。
轟音は止み、死屍累々の場の中、暗闇に光るアヤメのエメラルド色の髪の毛が揺れているのだけがなぜか僕の心の中で印象的に映っていた。
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