decide

「ミナト君、また学校休んでたねー」

久しぶりに学校に顔をだすとタクト、カスミが心配そうな顔で話かけてくれた。

「大丈夫だよ。 家の事の野暮用で休んでたから」

僕は嘘をつく。

「そっかー。 まぁ、よかったよ。 ミナト君が学校来てー。 心配してたんだよねー」

そう言いながらタクトの腕をカスミがバシバシと叩く。

「そうだ。ミナトがいないから二人でどうするか話していたんだ」

タクトが無表情で言う。

「そうだったんだ。 心配かけたね」

僕は笑みを浮かべる。

彼らの心配は脳にプログラムされた黒百合家の指示で、彼らはクローンとして自分たちが心配しているように仕向けられている。

二人はそれを自分の考えだときっと考えている。

その考えが自分の物ではないと気が付くのにはきっと何かのきっかけが必要だが、彼らが自分を複製された人間だとはきっと思わないだろう。

まるで今まで何も知らなかった僕のように。

きっと二人はこれからも何も知らないままで生きていく。

そう考えると二人にはなんだか悪い気がした。

けれど真実を明かしたところで何か変化が起きるわけではないと思う。

逆に関係だけでなく事態も悪化させてしまう。

そう考えるとそのままでいい気がした。

シロタに真実を告げられてから僕はどこか二重思考というのだろうか、自分だが自分とは言いがたい考えをするようになった。

冷めているとでも言ったらいいのか僕はそんな人間だったのだなと自嘲してしまうが。

「ミナト君も治ったこと出しさ。 ちゃんと三人で出かけようねー」

カスミがそう言い、僕らは笑った。

楽しいと感じていた自分の感覚がどこか遠くに居るように思えた。

 きっとこれは元々持っていた物が具現化されただけの話なのだろう。

僕はそう考えて、思考をするのを止めた。


「待っていたわ」

放課後、校門を出た僕に待っていたのは黒百合家の車、依乃里さんだった。

校門の目の前に止まり、しかも他校の生徒がいると余計に目がつく。

通る生徒が珍しそうに依乃里さんを横目にっしながら通っていく。

しかも彼女の制服はここに居るべき人の制服ではないから目立ってしょうがない。

アヤメも彼女に捕まっていたのか同じように立っていた。

「なんのようですか?」

「話があるからきたのよ。 それ以外に目的でも?」

依乃里さんは口元に扇子を当てながら言った。「いいですよ。 話ですよね」

「そう。 ここじゃなんだから車に乗りなさいな」

依乃里さんにそう促され、僕はアヤメと一緒に車に乗り込む。

車に乗り込み、アヤメに問いかけた。

「いつきてたの?」

「今、さっきというところか。 来たら目の前に彼女がいた」

アヤメはそう言い、首をかしげる仕草をする。全員が座り、席に着くと、依乃里さんは口を開いた。

「急に押しかけて悪いわね」

「びっくりしました。 どうしたんですか?」

僕が彼女に質問すると依乃里さんは佇まいを直し、言った。

「単刀直入にいうわ。 シロタが潜伏しているところが見つかった」

「また与太話ですか?」

「いえ、今度は彼女が動く前に情報をキャッチしたわ」

依乃里さんはそう言うと立体映像を起動し、目の前に映像を浮かび上がらせる。

「昨日、天来から直々に通達があって、シロタが隠れている場所をリークしてくれたの」

「…………」

「場所は南に位置する大型タンカーが止まる港よ。 そこに国籍不明の大型タンカーが一隻止まっているの。 それは天来が用意した船のようで、そこに彼女は潜伏している」

依乃里さんはそう言い、立体映像で地図を表示するとそこは街から少し離れた港の画像だった。

「で、それを僕らに知らせてどうするんです? あれからシロタは僕を襲いに来てはいないです」

僕は率直に言った。

「こちらでも貴方の動向をつかんでいるからわかるわ」

「覗きが趣味みたいな人が言いそうですね」

「人聞きの悪いことを言わないで。 ミナト君の為にやっているのよ。 それに貴方は基本、革命家の血族なのよ。 たとえ、それが……クローンであったとしても」

依乃里さんは一度、言い淀むと最後まで続けた。

「…………」

僕が黙っていると彼女は何かを思ったの口を開いた。

「ごめんなさい。 気にいると思ったから。貴方の気持ちを無視してたわ」

依乃里さんは申し訳ないという顔をしながら言った。

「別に気にしていませんから大丈夫ですよ。しかし、依乃里さんは意外と、優しいですね」

僕がそう言うと依乃里さんは少しだけ頬を赤めて扇子で口元を隠した。

「そ、そんなことないわ」

依乃里さんは視線を横にして照れ隠しをする。意外と純な方なんだなと僕は勝手に思った。

「とにかくシロタが潜伏している場所を教えたのは貴方たちに協力して欲しいからよ」

依乃里さんは真っ直ぐに見ながら言った。

「協力というのは?」

「ミナト君、アヤメさんの力がほしいの。 シロタの元には改造人間が二人。それに対抗できる人間がいるとすればアヤメさん。そして直接、シロタに対して働きかけることができるとしたら貴方しかいないからよ。 だから私に力を貸してくれないかしら?」

依乃里さんは佇まいを直し、一礼した。

僕は彼女のその願いにわからないことがあり、口を開く。

「協力してほしいというのはわかりました。ただシロタ、彼女をどうするんです?」

「彼女についてはできれば捕獲、最悪の場合は……」

「生死は問わずということですか?」

「そういうことになるわね。 彼女の研究者としての力はもったいないと思っているの。でも今回はしょうがない。 こちらも容赦するほど余裕がない」

依乃里さんは苦虫をつぶしたような顔で言った。

「そうですか…………」

「だからこの際、ミナト君にはデッドライン的な存在で力を貸して欲しい。もし彼女と交渉し、彼女がそれを拒めば、黒百合の責任で処理させて貰うわ」

依乃里さんは表情を変えて、厳しい顔をすると言った。

「じゃあ、僕は彼女と話しをつけるそれだけでいいわけですね?」

「そうね。 ミナト君にはそれをお願いして、アヤメさんには我々、黒百合の私設傭兵と一緒に、改造人間の処理をお願いしたいと思っているわ」

依乃里さんはそれぞれこちらを見る。

僕はアヤメの方を向き、彼女を見る。

「アヤメ、いいか?」

「私は構わない。 ミナトがそれを決めるなら側に居るだけだ」

彼女が強く言うと、僕とアヤメは目と目を合わせて、頷いた。

そして依乃里さんに向き直る。

「わかりました。 ご一緒します」

僕がそう言うと依乃里さんは強ばっていた顔をゆるめ、微笑する。

「ありがとう」

彼女はそう言って、頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る