casual conversation

目を覚ますとすでに大粒の雨が窓を打ち付けていた。

カーテンを開け、外を眺めると朝だというのにどこか陰鬱な雰囲気を感じてしまうほど薄暗い感じだった。

自分の部屋から出て朝ご飯の支度をする。

少ししてからアヤメが起きてくる。

すこし朝食をとり、今日はちゃんと高校にむかうようにした。

前日のことがあったため僕は一応、アヤメについてきて貰うことにした。

なんなく高校までは無事にたどり着き、アヤメにどこかで待っていて貰うように伝え、校内へと入る。

特に変わったことはなく、”ヴァイパー”に襲撃される前の日常に近くなっていた。

昼休み、ボンヤリしていると横から声が振ってきた。

「今日はミナト君ちゃんといるんだねー」

僕が振り返るとそこに笠原カスミと長島タクトが立っていた。

彼らの存在を忘れており、僕は思わずぎょっとしてしまった。

「何、驚いてるのー?」

僕の言動に疑問を持ったのかカスミは首をかしげながらこちらを見る。

「い、いや何でも無いよ」

僕は愛想笑いを浮かべ、取り繕った。

殺されたけれども彼らは黒百合の所有するクローン技術により生み出されたクローンという事を思い出した。

あれ?ちょっと待てよ?

僕はふと不思議に思った。

二人はクローンで殺される前の二人とは同一人物だけど違うんだよな。

じゃあ、記憶とかは違っていてもおかしくはないよな。

僕はふと考えた。

「何、ボンヤリしてるのかなー? まだ体調、悪いの?」

カスミは僕の顔を覗きこんだ。

「何か悪い物でも食べたのか?」

タクトがそう聞くとカスミがそれに反応する。「何、冗談言ってんのー、タクト」

カスミは笑いながらタクトの腕をバシバシと叩く。

「いや、冗談ではないんだが……」

タクトは抗議するようにポツリと言ったがいつものカスミの雰囲気に流されてしまう。

「ミナト君、二日も学校休んでたからびっくりしたよー」

カスミは指を頬に当てながら言った。

「すこし調子が悪くてね。 ははは」

本人達を目の前にしてさすがにクローンなんですかとは大々的には聞くことはできない。ただ確かめたいことがあった為、自分は意を決して確かめることにした。

「そういえば、僕が休んでたからあの場所に行くって件、どうなった?」

僕はさりげなく問いかけた。

二人は新しいクローンだと依乃里さんは言った。

もしそれなら過去の記憶は憶えていないのではないだろうか?

そしたら”ヴァイパー”に襲撃される前の記憶は全て消えているはずだ。

三人で話した隣街のショッピングモールに行くという話。

「あの場所?」

カスミは指を頬に当てながら、首をかしげた。考える仕草をしながら、上に目線をやっていた。

「んーと、もしかしてミナト君が言いたいのは隣街のモールのこと?」

カスミはそれじゃないかという感じで質問してきた。

僕は少しだけドキリとしたがここで変に表情を買えるのはまずいと思い、返答した。

「そうそう。 三人で遊びに行くって言ったけどなかなか時間合わなくて」

僕がそういうとカスミはいつもの感じで言った。

「気にすることないよー。 ねぇ、タクト?」

「そうだ。 体調が治ってからまた遊びにいけばいい」

カスミがそう問いかけるとタクトは淡々とした口調で言った。

「そうだね。ありがとう」

僕はなんとか笑顔を取り繕いながら言った。

クローンって言ってたけどちゃんと記憶がある。 二人であることには間違いはないけれどよくわからない。

僕は混乱しそうになっていたが平然と取り繕うことでいっぱいいっぱいだった。

午後の授業も終え、とりあえず真っ直ぐに帰宅しようとした。

アヤメに終わる時刻を伝えていて、終わったら集合場所で落ち合うことになっていた。

落ち合う場所は高校のすぐ近くの公園で生徒も比較的、利用することもないためすぐにむかう。

変なところでDr.シロタの改造人間が襲ってくるかも分からないからできるだけ早足で

むかった。

公園が見え、そこにはアヤメが既に立っていたが、もう一人彼女の隣に立つ人物がいた。

僕は二人に近づき、声をかけた。

「アヤメ、お待たせ」

その声にアヤメだけでなくもう一人の人物がこちらをむく。

「なぜここにいるんですか、依乃里さん?」

僕はアヤメの隣にたつ黒百合依乃里に問いかけた。

「なぜって用があるからに決まってるでしょう?」

依乃里さんは扇子を口元に当てながら言った「いや、そうですけど。用ってなんですか?」

「まぁ、詳しいことはここでの立ち話もなんだから場所を移動しない?」

依乃里さんは学生服の襟元を動かし、熱いのだろうか眉元をひそめる。

「どうする、ミナト」

アヤメがこちらを見る。

「分かりました」

とりあえず場所を移動するということだけに同意する。

「じゃあ、行きましょう」

すると依乃里さんはスタスタと歩き始めた。

僕とアヤメは顔を見合わせて彼女の後をついていくことにした。

ふと疑問に思い、依乃里さんに問いかけた。

「車ではないんですか?」

「ええ。 そうよ。 たまには運動しなくちゃと思ってね」

「そうですか」

僕の質問に返答しつつ前をみながら、依乃里さんはスタスタと先を行く。

ふと彼女の後ろ姿を見るとやはり令嬢だからなのか歩き方も様になるしスタイルがいいのか細い感じもするが様になるというか、改めて気が付いたが、かなり顔立ちもはっきりしていて綺麗な方だと思った。

またあの金髪でかわいらしい感じの邦子さんとは違う印象だなと思った。

そんなことを考えていると僕の心を読んだかの如く質問が飛んできた。

「そういえばミナト君、大宮に連れて行かれたんでしょう?」

依乃里さんは顔色一つかえずにスタスタと前を歩きながら問いかけてきた。

すこしドキリとしたが別に悪いことをしたわけではないから焦ることなく返答した。

「確かに行きました。 ほとんど拉致されたような感じでしたよ」

「そう。 邦子にはあった?」

「お会いしましたよ。依乃里さんは元気かと聞かれました」

僕はできるだけ事実を述べることにした。

「彼女、強引だったしょう?」

「まあ、多少……」

僕が苦笑いをしがら言うと、依乃里さんもおかしからなのか微笑した。

「まぁ、邦子はああいう性格だから。 他には何か聞かれた?」

「特にはないですよ」

「そう。 それだけならいんだけど」

依乃里さんは興味なさそうに口にしているがどこか見えない何かを気にしている節もあった。

そのまま、お互い無言で歩き続ける。

府と僕は気になることがあり、周りを見て問いかけた。

「そういえば、依乃里さんにお聞きしたいことがありました」

「私で答えられることなら答えるわよ」

「そうですね。カスミとタクトのことについてなんですけど」

「TYPE1、2についてね」

依乃里さんはこちらを向くことなく返答した。どうやらまだ答えてくれそうだ。

「二人はクローンだといいましたよね」

「ええ。そうよ」

「彼らの記憶はどういう風になっているんですか?」

僕が質問すると依乃里さんは少しだけ黙ると口を開いた。

「目的の場所に着いてからでもいいかしら?」

依乃里さんは淡々と答えるとそのまま歩き続ける。

「分かりました」

僕はそう言うとそのまま黙った。

三人は特に会話もなく歩き続けた。

どこへむかっているのか気になり、行く先を気にしながら歩いていると学校を離れ、繁華街の方へと流れていく。

なんでここにと思うと急に、依乃里さんは立ち止まる。

「着いたわ」

「えっ?」

ふと依乃里さんが立ち止まった場所を見るとそこはファーストフード店だった。

よく全国で見かけるチェーン店で人がそれなりに入る店だった。

「ここですか?」

僕あ思わず問いかけた。

「そう。ここよ」

依乃里さんはまたスタスタと入っていく。

慌てて僕は後を追い、アヤメと共に入っていく。

依乃里さんは何も言わずにレジに並び、注文を決めようとしている。

一応、入ったからには何か決めなくては。

そう思っていると依乃里さんが問いかけてきた。

「何がいいかしら?」

「えっ、コーヒーにしようと思っているんですけどアヤメはどうする?」

僕はアヤメにも聞いてみた。

「私はシュワシュワするやつがいい」

アヤメのリクエストも聞きつつ、僕は依乃里さんへと向き直る。

「ミナト君はコーヒーでアヤメさんはコーラでいいわね」

「はい」

「そしたら先に上の階で少し周りに人がいない席を探しておいてそこで座って待ってくれるかしら」

「わかりました」

依乃里さんは短く言うと、レジの店員に向き直り、注文をはじめた。

僕とアヤメは依乃里さんの指示どおり、上の階へ行き、人が周りにいなさそうな席を探した。

とりあえず席にすわり、アヤメに問いかけた。「いつから公園で待っていたんだ?」

「三十分前くらいだ。 私が到着するとあの女はあそこに来ていた」

「てっことは二人で三十分近く、二人でいたのか」

「ああ。 別にお互いに話すことがないから黙ってはいたが」

なんだその気まずい雰囲気。

僕だったら五分で嫌になって逃げ出すかもしれない。

そんなシチュエーション嫌だな。

「お待たせ」

そんな事を考えていると依乃里さんは三人分の飲み物を乗せたトレーをもち、こちらに来た。

「依乃里さん、料金を……」

「いらないわ」

依乃里さんはトレーを席に置きながら、ぴしゃりと言った。

「いいんですか?」

「別にいいのよ。 これぐらい。 学生のお小遣い程度の物だから」

彼女はそう言いながら髪の毛を直し席に座る。思っているよりもお嬢さまという感じはしないように思えた。

僕の視線に気が付いたのか、依乃里さんは答える。

「ああ。 確かに御三家で資金はあるけれど社会見学の為に街に繰り出して庶民の人がどんな物を食べて見ているいるのかを勉強

しているのよ」

庶民という言葉にやはり彼女は別の世界の人だと感じてしまった。

「だからこれはその勉強の一環よ。 それにお金も私自身がアルバイトしたりして稼いだ物だから別に気にしなくていいわよ」

だが僕の考えを崩すように彼女は言った。

どこか彼女の考えは近いような気がした。

「ありがとうございます」

僕は言った。

アヤメは何も言わずにペコリと頭を下げた。「とりあえず喉の乾きをいやしましょうか?」

そう言い、三人は飲み物を手に取り、それぞれ口にした。

「やっぱりここのシェイクって飲み物は美味しいわね」

依乃里さんはストローから口を話すと言った。「身体にはあまりよくないとは分かっているけれど時々、口にしたくなるのよね」

「時々、来るんですか?」

「ええ。 まぁ、勉強と私的な目的をかねてね」

そう言うと依乃里さんはストローを口にし、

飲み始めた。

「それよりも依乃里さんはなんで今日一人でここに来たんです? 僕らになんのようですか?」

僕が質問すると彼女はストローから口を離し、紙ナプキンで口元を拭く。

「そうね。 あなたたちに会いたくなったっていうのが一つ」

依乃里さんは真っ直ぐにこちらを見て言う。

僕はよくわからず彼女を見る。

会いたくなった?

「言っている意味がわからないんですけど?ある意味、僕は御三家にとって忌避すべき対象ですよね。 殺すとまで言われてましたけど」

僕は純粋に問いかけた。

「そうね。確かに当家や大宮、天来にしたら貴方は厄介な存在でしょう。 ただ私個人、個人的にって言ったら納得してくれるかし

ら?」

僕は思わず黙ってしまった。

「簡単な話、私はミナト君やアヤメさんには悪い印象を持っていないのよ。 だって私個人に何か嫌なことをしたわけでもないし、ただ貴方が革命家、忌避すべき存在の息子っていうだけ。 それ以外はただ私と歳が近いっていうことだけ」

依乃里さんはまっすぐに僕ら二人を見て笑った。

確かにやアヤメは正直に言えば、依乃里さんとなんの接点もないのだ。

だから彼女は変なフィルターを通して見ることが少ないのかも知れない。

「知らないからこそミナトくんやアヤメさんと関わりたいと思うのよ」

「そう言ってくれると助かります」

僕はただ心からそう言った。

するとそこにアヤメが口を開いた。

「でもそれだけじゃないだろう」

アヤメはどこか何かを見据えるように言った。「それはお前自身の事。それはわかった。家のほうからのお前の話が本題なんじゃないか?」

僕はアヤメをみて何を言っているんだと思った。

「厳しい意見ね」

依乃里さんはそう言うと携帯端末を出した。

「私個人ではミナト君、アヤメさんと仲良くなりたいのは事実。 ただ今回はそれだけじゃない。 お願いがあってきた」

依乃里さんは携帯端末を僕らの前に出した。

そこに映っていたのはなんだが不思議な形をした機械だった。

「これは?」

僕は顔をあげて依乃里さんに問いかけた。

「これは記憶移植装置よ」

「記憶移植装置?」

僕はもう一度、写真をみた。

そこにうっていた機械をよく見ると大きなベッドがありその頭の方だろうかそこに半円形の金属が両端からのび、真ん中と両端、そして頭のてっぺんに当たる部分には箱のような物の先に三角形の金属がそれぞれついていた。「MRIって知ってる?」

依乃里さんが問いかける。

「耳にしたことはあります。 よく医療関係の内容がテレビやネットでやっていると流れますよね」

依乃里さんは頷く。

「MRIっていうのは巨大な装置で磁気を使って人間の身体の中を覗くんだけど、そういうのを元にしているの」

「これがどうしたんだ?」

アヤメがよくわからないと言った風に問いかけた。

「恥ずかしいけどこれがDr.シロタの手によって盗まれたの」

「どうしてこれが?盗まれるんです」

「…………」

依乃里さんはすこしだけ口を閉じ、周りを一瞥すると言った。

「さっきの質問、憶えてる?」

「ああ。カスミとタクトの記憶の話ですよね」

「ミナト君が言ったようにTYPE1、2の記憶に関してだけど、これを使っているの」

僕はその記憶移植装置が映っている写真をもう一度見る。

「”ヴァイパー”に襲われて死んだTYPE1、2の遺体は監視している我々が回収し、そして遺体の頭部から記憶移植装置を使って新しいクローン体に写されたの」

依乃里さんは口が乾いたのかシェイクの入った容器を手にとり飲んだ。

「ということはこの記憶移植装置は殺されたとのカスミとタクトの記憶を新しい身体に移動させたってことですか?」

依乃里さんは頷いた。

「そんなことは可能なんですか」

「実際にあるから目の前にTYPE1、2が現れたでしょう」

依乃里さんはもう証明済みと言った。

「人間の記憶ってよく海馬ってとこに蓄積されるってきいたことある?」

「…………?」

「まぁ、記憶は海馬に写されるんだけどその記憶はある程度の期間しか保たれない。 脳は忘れる為にできているから。 でもね、確かに海馬に保存されるけれどそれだったら自転車を久しぶりに乗ろうとすると身体が憶えて居るでしょう」

僕は頷く。

「もし仮に海馬だけの記憶だと自転車の乗り方を習得したらすぐに忘れてしまう。 けど脳は海馬だけじゃなくて脳全体で記憶を保持しているの」

「ということは記憶移植装置は人間の頭、全体を通して記憶を抽出するってことですか?」

「そうね。人間の脳の中ではシナプスという神経のなかで電気が走っている。 その電気信号を上手く読み取り、画像や動画のデータに変換する技術なの」

「すごい技術ですね」

「でもこれは禁断の技術なのよ」

「なんでです?」

「クローン技術といい、この記憶移植装置は人間の倫理に反する技術なのよ」

さらりと依乃里さんは言った。

「ようは簡単に公にはできない技術。 これを悪用されれば、いろいろと厄介なことが起こるから。Dr.シロタは昨日、この記憶移植装置とTYPE1、2と異なる別の被検体のクローンを乗せた輸送機を襲撃して奪取されたの」

依乃里さんは悔しそうに言った。

「でもなんでDr.シロタはこれを狙ったんでしょう?」

関係性がみえず僕はおもわず質問した。

「そこは私達も分からないの。 だからお願いと言うのは、もしDr.シロタからの接触が合ったりして情報を得た場合、その情報を教えて欲しいの」

依乃里さんは悔しそうな表情をしながら下唇を噛む。

「それが家にとっての話というわけだな」

アヤメは言った。

「そういうことになるわね」

依乃里さんはアヤメを見ながら言った。

「分かりました。 そのときはちゃんとお伝えします」

「ありがとう」

依乃里さんは頭を下げた。

僕とアヤメは顔を見合わせてから依乃里さんを見た。

「協力関係ですから、一応はそれぐらいで。僕も自分の命は守りたいですから」

僕がおどけてそういうと依乃里さんは苦笑いのような表情を浮かべた。

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