way home
僕とアヤメはヘリで自宅近くまで送り届けて貰うことになった。
すでに正午を越えていて、昼を越えていて、日がかなり昇り暑さが増していた。
自宅まで歩かなければならないが僕とアヤメは何も言わずに歩くことに決めた。
無言で歩き続け、ふと喉が乾き僕は通り道の自販機で飲み物を買う事に決めた。
アヤメは不思議そうな顔をし自販機をみていた。
「これは……?」
「自販機だよ」
「ジハンキ?」
「飲み物とかを冷やしておいて無人で買えるものだよ」
「ほー」
アヤメはしげしげと自販機を見ていた。
考えて見ると彼女は紛争地域出身だといていたのを思い出した。
「こういった類いの物は初めて?」
僕はアヤメに問いかけた。
「いや、この国に来る途中で何度か見かけたけど、ここまで立派なものではなかったな」
アヤメは自動販売機を見ながら返答した。。
「そうか。 何か飲みたいものはある?」
「いいのか?」
彼女は目を輝かせながらこちらをみた。
思わずその仕草が可愛く僕はクスリとしてしまった。
「いいよ」
そういうと彼女は自動販売機の陳列をじっくりと見て餞別すると決まったのか、指を指した。「これがいい」
彼女が指を指したのは黄色いラベルの炭酸飲料だった。
「わかった」
僕は小銭を投入口にいれ、彼女の指定した飲み物のボタンを押した。
ガコンという音と共に飲み物が落ちる。
アヤメは取り出し口からそれを取り出し手に取る。
「おー。 かなり冷えてるな」
「今は夏に近いから結構、冷たいものが出てきているんだろうね」
「そうなのか」
そう言い、彼女はプルトップを開け飲料を口にした。
「…………!」
口に含んだ瞬間、彼女は目を見開き、驚いた表情をする。
「これは……?」
「美味しい?」
「ああ。こんな物を飲んだのは初めてだ」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
僕は自分の分の飲料を買い、それを口にする。「とりあえず歩こうか」
アヤメは炭酸飲料の味が気に入ったのか一口ずつ飲みながら歩いていた。
飲む度にへーとかほーとかいっていて、本当にこの間の改造人間とかいう関係ない気がして思わず笑ってしまった。
「こんな経験は始めてだ」
「驚いてくれて嬉しいよ」
僕とアヤメは歩きながら飲料を口にする。
「幸四郎と一緒に闘っていた時はこんなことができるなんて思ってもみなかった」
「たしか……、その紛争地域ではかなり戦いの連続だったの?」
僕は遠慮がちに聞いた。
それを察したのか彼女は少しだけ苦笑いを浮かべて言った。
「気を遣わなくてもいいぞ、ミナト。 たしかにあそこでは毎日、戦闘が繰り返されていた。 私が生まれたばかりの時はそこまでではなかったそうだけど」
彼女は歩きながらどこか遠い目をしてここではない遠くを見ているような気がした。
「こんな事を聞くのは悪いけど、その……、アヤメの家族は?」
僕は単純に問いかけた。
気が引けてしまいそうな質問だったが彼女の事を知っておきたいという気持ちから質問した。
「私の家族はいないよ。 私は孤児で施設で育った」
アヤメは淡々と答えた。
「私が生まれた時にはすでにあの国の中で反政府勢力は淘汰されていたらしい。 私の父はその時に反政府勢力と疑われ捕まり、母は私が三歳に満たないときに亡くなった」
彼女から紡がれる過去に僕はなんと答えていいのか口をつぐんでしまう。
「それから施設に入った。 施設内の人間は優しくしてくれたし、精神的には悪い場所ではなかった。身体が弱かったと伝えただろう。元々、あまり身体が強い方ではなくてあの国では医療が不足して私の身体の弱ささえ、補えないほど環境が悪かった。 自分でも死を覚悟したよ。 多分、きっと死ぬんだと。天国に行けば、顔を憶えていない両親に遭えると」
アヤメは飲料を口にし、続ける。
「私の身体の状態が悪化した頃に国では政府に対する反発が強くなり、さらに国の中の状態が悪くなった。 そんな時に幸四郎が現れた。多分、ミナトが幸四郎と別れた頃だと思う」
アヤメは過去を思い出しているの口元が緩み、微笑しながら話していた。
「彼は私にとって救世主と呼べる存在だった
。 彼のおかげで病弱だった身体は強くなり、反政府の一員、幸四郎率いる部隊の一人として戦えるまでになったんだ」
きっとアヤメにとって誇るべきことなのだろう。自身の身体の弱さを乗り越え、自分の救世主と呼べる恩人の力になれたことが。
僕は彼女の話を聞きながらそう思った。
「彼のおかげで色々と知ることができた。まだ知らないことばかりだけれど私は幸四郎のおかげで自分の足で立っている」
彼女は自分の足を見ながらそういった。
「たしかに幸四郎が死んでしまったのは悲しい。 だが彼のおかげで、ミナトに会えた」
彼女はそう言って笑い足を止めると、僕を真っ直ぐに見る。
「…………」
僕はただ彼女を見つめ返し、真っ直ぐに目を見る。
「私は幸四郎からミナトのことを聞かされていた。 自慢の息子だと。 だからこの国に来たときは仲良くして欲しいとも言っていた」
ふと父の顔がちらついた。
父さんはそんな風に思っていたのか。
居なくなる直前、喧嘩してしまった。
それを思うとなんとも言えない感情になる。
多分、僕はそれに対して、後悔していた。
けれど彼はそんなことも一言も言わなかったと思うと不思議な感覚になる。
「だから私は受け入れてくれた人の家族の一員としてミナトを守りたいと思う。 確かにここに来て日が浅い。もしミナトが嫌だと言うならしょうがない。 けれどこの件が終わるまでは側で……」
僕はアヤメの口を片手で抑えた。
彼女が何を言おうとしたのかわかったから。
「アヤメ、今更、そんな悲しいこと口にしないでくれ。 確かに父さんがうちに来いっていたんだろう。 それはそうだけど別に君が嫌いな訳ではない。 むしろ感謝してるくらいだ。だからそんな悲しいことは言わないでくれ。
もう僕と君は家族という形になったんだろう? だから気にしなくていい。 遠慮はしないでくれ」
僕は真っ直ぐにアヤメを見ながら言った。
「ミナト……、ありがとう」
「どういたしまして」
アヤメは笑った。
「とりあえず帰ろう」
「そうだな」
僕と彼女は歩き出した。
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