idle talk_2
「ナノマシン研究は成功してグループでも一、二を争う稼ぎ元になったの。 ただその後、すぐ天来にDr.シロタが引き抜かれ、情報と技術が流失したの」
邦子さんはしょうがないという感じで言う。
「そのおかげで天来は医療用のナノマシン技術を外国に売り、勢力を更に拡大させた。 もちろん、流失させたDr.シロタを許すわけにはいかないからそれなりに対処しようとしたけど失敗に終わったの。結局、天来、大宮でその部分を争うことになった」
邦子さんはお茶を飲み、もう一度、口を開いた。
「だから大宮家の責任でもあるのよね。 Dr.シロタの存在は。 それにミナトンのお父さんが残した遺産には相当な力があるとお父様も言っていた。 それを狙われないように黒百合と大宮は今、必死になっているんだな」
邦子さんは僕の事を見ながら言った。
僕は疑問を投げかけることにした。
「邦子さん、僕は依乃里さんに、黒百合家は僕の事を簡単に殺せると言っていました。 けれどそれをしないのは父が残した情報があるからと言っていました。 大宮家もそういう考えなんですか?」
僕は真っ直ぐに邦子さんに問いかけた。
「うーん。 正直、そこまでする必要があるのかなって私は思うよ。ただ情報がどんなものかも分からないし、もしミナトンがそこまでの危険人物だったら命を狙うかもしれない。けれど大宮家は人の情ってものを大切にする家訓なの。 確かに御三家にとってミナトンのお父さんは邪魔で危険因子かも知れなかったけど、ある意味、バランサーの役割をしていたし、それはある意味、この国とって有益なことだったと思うのよね。 だからその一族に当たるミナトンが大丈夫かどうか、この
目で判断する為にもここに連れてくる必要が
あったんだよね」
邦子さんは金色に輝くブロンドの髪の毛の毛先をくるくると指先で遊びながら言った。
「大宮としては今後に注意みたいな方針かな? ただここに連れてきた理由としては黒百合と同じで協力関係を結ぶためなんだ。 ミナトンの力がDr.シロタを捕まえる為に必要だからさ」
「僕の力ですか?」
「そうそう。 さっきから思ったけどミナトンは自分はただの一介の高校生だから大丈夫と思ってる?」
言われてみるとそう思う。
僕は何も言わずに頷いた。
「そりゃあ、そうだよね。 急に巻きこまれて危険な目に遭わなきゃいけないから関係ないと思うよね。 いつか安全な日常が来ると。でもそれは間違いだよ。 ミナトンよりはお姉さんだから言うけど、ミナトンはもう輪の中に入っているよ。 だから隣の彼女が送られたんじゃない? これからはミナトンはこの輪の中でサバイバルしなくちゃいけないんだから」
邦子さんはそう言って真剣な顔をする。
「ミナトンは自分が思っている以上に力を持っているんだよ。 だから黒百合も大宮もDr.シロタもミナトンを狙うんだよ。 ただの一般ピーポーなら狙う必要が無いし、狙うんだったらナイフ一本で充分だよね。 でも皆、君に注目している。 お父さんから受け継がれた力をどう利用するかを皆見ているんだ」
「そんな物を期待されても、どうしようもできないですよ」
「そうかな?」
邦子さんはいたずらっぽく笑う。
「大宮家はミナトンの命を狙ないし味方だよって言えば納得できるかな?」
「納得しようにも連れてこられた方法が方法ですからね」
僕が苦笑いを浮かべると邦子さんも笑う。
アヤメをみると淡々として邦子さんと僕を見ていた。
「騎士さんは納得してくれたかな?」
「私はミナトが無事であればそれでいい」
「格好いいねー。 私も騎士とかイケメンに守られたいよ。 あいにく強面ばかりだからさー」
あははと邦子さんは笑う。
そして急に立ち上がり、猫のような素早さでアヤメに近づく。アヤメは急なことに驚き珍しく身体を固くした。
邦子さんは急にアヤメに抱きつくとアヤメの髪の毛に自身の鼻を当て、臭いをかぎ出した。「これが改造人間かー。 以外と思っていたほどごつごつしてないし、女の子って感じだ」
邦子さんは臭いを嗅ぎながら両手でアヤメの身体をまさぐる。
「ちょっ……、離れろ……」
アヤメはいやがり、邦子さんから離れようとする。
しかし、邦子さんはアヤメの制止する手を絶妙にかわしながらぺたぺたとアヤメの身体を触る。
「おっ、意外と胸が……」
感心したように邦子さんはさわり続ける。
「いい加減に……。 お願いだから……止めて」
アヤメは狼狽しながら邦子さんをふりほどこうとする。
「いいではないか。いいではないか」
邦子さんはニヤニヤしながらアヤメの服の中に手を入れる。
「私にかかればどんな女子でも、ふっふっふっふっ」
これ以上、続けさせたら大変なことになりそうだと思い、僕は邦子さんの制服の背中を掴み、アヤメから引きはがした。
「なにやってるんですか?」
「なんだい、ミナトンも私とイチャイチャしたいのか?」
「イチャイチャって。 初対面に何してるんですか」
「何ってスキンシップだよ。 仲良くなるには一番大事な行程だよ」
「行程がぶっ飛びすぎです」
なんでこんなにも財閥の令嬢はここまで癖があるんだ?僕は冷静に突っ込むことにした。
「とりあえず戻ってください」
僕がそう言うと邦子さんは何かブツブツ言いながら戻ったが気にしない。
アヤメを見ると理解不能だと言わんばかりの目で邦子さんの方を見ながら服を直していた。きっとここまでグイグイとパーソナルスペースを侵略する人間とは出会ったことがないのだろう。
「大丈夫?」一応、アヤメに声をかける。
アヤメは放心した顔で頷き返す。
「そうだ。邦子さん」
「なんだい、ミナトン?」
「父の事は大宮家の人はどれくらい知っているんですか?」
僕は邦子さんに問いかけた。
「どれ位って?」
「依乃里さんには概要を教えて貰いましたが、父の事を詳しく聞かなかったので。 より詳しく聞いておきたいと思って」
「うーん、そうね。私ももの凄く詳しく知ってるわけじゃないけどただ一つ分かりそうな資料があるかもね」
邦子さんはそう言ってウィンクをした。
そういって彼女は携帯端末を取り出した。
「これはオフレコなんだけど、父が持っていた資料を少しだけコピーさせて貰ったことがあるのよ」
携帯端末を操作し、見つけると携帯端末をこちらへ差し出す。
僕とアヤメはちゃぶ台に置かれたそれをのぞき込む。
「ミナトンのお父さんの経歴とDr.シロタの経歴。 どちらも大宮家では父しか除けない極秘資料になっているから私が持っているのは内緒って事で」
携帯端末の中に書かれていたのは父の経歴、過去の事に関する内容とDr.シロタの出生から就職履歴までの内容だった。
「これを二人にコピーして渡すわね」
邦子さんはそういうと本棚の方からノートパソコンを取り出し、操作する。
「拡張現実端末とスマートフォンじゃ、ネットにつないであって漏れる可能性があるからデバイスで渡すね」
彼女はそう言いながらパソコンを操作し続ける。
「いいんですか? こんなに重要な物を」
僕は邦子さんに問いかけた。
「言ったでしょ。 ミナトンはそれくらいヤバいレベルの範囲にいる人間なんだって。それに敵の事を知らないと何も対策できなんじゃない?」
邦子さんは自身のパソコンにUSBメモリーを差し込む。
「でもバレたらヤバいんじゃ……」
「大丈夫。 私、こう見えて大胆だから」
彼女はそう言ってあはははと笑った。
データのコピーが終わったのか、USBメモリーをパソコンから引き抜くとこちらに差し出す。
「はい、これ」
僕はそれを受けり一瞥し、邦子さんに向き直る。
「いいんですか?」
「いいの、いいの。 気にしないで」
邦子さんはニコリと笑った。
「まぁ、私は今後、歳が近い後輩のようにミナトンをみたいとおもっているからね。 ある意味、今後に期待しているんだよ」
「後輩ですか」
「協力関係でもあり、私は依乃里と違ってフレンドリーになりたいからね。 まぁ、ちゃんと相手を選ぶけど」
口元に手を当てながら笑うようにしながらアヤメの方を見る。アヤメは不快だったのか邦子さんから見えないところで僕の裾をつかんだ。
「まぁ、これからは仲良くやりたいとおもうんだけど、いいかな?」
邦子さんは首をかしげておどけてみせる。
「限度があればです」
僕もおどけるように返答をした。
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