small dispute
依乃里さんの計らいで自宅まで僕とアヤメは黒百合家の専用車で送って貰うことになった。
その間、アヤメは、彼女は窓の外を見ていた。僕はなにかける言葉が見当たらず、黙っていた。
取り合えず拡張現実を付け、何か記事になってないかとニュースを捜した。
けれど特にこの街で起こっていることに変わりはない気がした。
僕も彼女と同じように窓の外を見る。
夜空の下、オレンジ色の街灯が点々と過ぎていく。
遠くの方を見れば、ビルや家の明かりが煌びやかに輝く。
この街のどこかにそのDr.シロタなんて人物が潜んでいるのだろう?
革命家の父。
その従者、弟子のような存在。
この国のバックに当たる財閥の存在。
そして謎のシロタという人物。
頭が混乱しそうなほど僕の周りでは何かがうごめいている。
とりあえず僕は家に着くまでの間、目を閉じることにした。
車が家に到着したころには深夜に近い時刻を回っていた。
車の運転手に御礼を言い、家の中に入ろうとしたときだった。
玄関先でドアの取っ手をつかんだときだった。「ミナト」
僕はアヤメに呼び止められた。
振り返り彼女を見る。
アヤメは両手の指先を組み、なんだかばつが悪そうに下を向いていた。
「その……」
「……?」
「こんな形で巻きこんでしまって申し訳ない」
アヤメは頭を下げた。
突然の事で僕は驚いてしまい、固まってしまった。
「どうしたんだ、突然?」
「いや、いきなり押しかけてきたような形で、しかもミナトを命の危険に晒してしまった。それと……。幸四郎から”シロタ”のことwを聞かされていたことを黙っていたことも……」アヤメは本気で悩んでいたらしい。
「…………」
「ここにきてまだ少ない日数だがミナトの生活が脅かされないように私がなんとかする」
アヤメは僕の瞳をしっかりと見据える。
この時、僕は思った。
彼女は誠実な人間なだろうなと。
確かに父と一緒に戦地で闘って、命の危険に晒されていたのは確かなんだろう。
だからこそ”ヴァイパー”の時のようにどこか人間離れした動きで相手を圧倒したりしているがきっと中身、性格や人間性なんてものは違うのだろう。
思わず僕は微笑してしまった。
「どうした、私の顔に何か変な物でもついているか?」
「いやいや、ごめん。 まだ出会って数日の女の子に守るよっていわれてなんだか不思議な感じで」
「そ、そうなのか」
「うん。 別に迷惑しているとかそういうことかはないから安心してよ。 というか巻きこんだと言っても元々は父さんが原因だからアヤメ、君が巻きこんだっていうよりはもうすでに巻きこまれてたんだ。だからそこに引け目を感じなくてもいいんじゃないかな? 君は僕が”ヴァイパー”だっけ? 襲われそうになったとき助けてくれたし、今日も烏間からも助けてくれた。それだけの事実で充分だと思う。それに黙っていたことはびっくりしたけど気にすることじゃないしね」
僕がそういうと彼女は下唇をかみ、何かを我慢しているように感じた。
「だから別に負い目なんて感じないでくれ。父さんとどんな約束をしたのかはわからない。けれどそんなに背負おうとはしなくていいんじゃないかな」
僕はただ自分が思った事を口にした。
アヤメはフッと笑い、口を開いた。
「ありがとう。そう言ってもらえると助かる」
「別に御礼なんて。 むしろ礼を言うのは僕の方だ。 ありがとう」
僕は彼女に右手をだした。
「まぁ、こんなことしか今は話せない。 落ち着いたらアヤメの話を聞かせてくれ」
「わかった」
彼女は僕の手を握り返した。
その手は細くあれだけの力を持っている人間とは思えないくらい普通の女の子と同じ手だった。
「ところで、ここに住むって言っていたけど、これからはアヤメはどこで寝るんだ?」
僕はシンプルに一番、気になる質問をした。
「何を言っているんだ。 ミナトを護衛するんだ。 ミナトの部屋、すぐ近くで寝るに決まっている」
「それはダメだ」
僕はそれを聞いた瞬間、反射神経で答えた。「なぜだ? 私は一応、幸四郎からミナトを守るようにと言われたんだ。 隣で寝るのはおかしくないだろう」
「いやいや、待ってくれ。 基準がおかしい。確かに父さんに何か守れとか警護しろとか言われたんだろうけどそれは違うぞ」
僕は思わず否定した。
基準がおかしい。
確かに警護といって側にいるのは分かる。
けれどこちらは現役の男子高校生だ。
さすがに一つ屋根の下、歳が近い女子がいるというのはなにか落ち着かないものでもあるはずなのに、しかも隣で寝るというのはもってのほかだ。
なにか脳がスパークを起こして故障してしまうんじゃないかと思うほどだ。
「どうしてそんなに私を遠ざけたいんだ?」「いや、遠ざけたいとかそういうわけじゃないんだ。 でもここは戦場じゃないし、そこまでして気負う必要がないんだ」
「……? そういうものなのか?」
僕は彼女のなんとも理解できないという顔を一応、無視しながら首を立てに振った。
「ミナトが言うなら仕方がない。 そしたら私は玄関にでも……」
「そうじゃない」
僕は慌てて制止した。
「どういうことだ?」
「だから父さんに住んでいいと言われたんだ
ろ? だから僕の部屋以外で好きに寝てくれればいいから」
「そ、そうか」
アヤメはなんとか納得してくれたが、どこか不服そうに感じた。
とりあえずは父の書斎を片付けてそこで寝て貰うとしよう。
そう僕は内心で決意した。
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