encounter
放課後、僕はアヤメに会う為にまっすぐ家に帰ることに決めた。
もしまた校内にいて”ヴァイパー”が襲ってくるのも嫌だし、二人がなぜ生きているのか自分の頭では整理がつかないところもあった。正直に言うと現実逃避をしたかった。
気分が悪いというか何かよくわからない物に捕らわれているようなそんな感覚で、一刻もこの場所から離れたくなってしまった。
校舎を出て、そのまま家の近くへと向かうバス停へと歩いて行く。
とにかく家に戻ってアヤメに話を聞いてみたい。
そう思いながらあるいているとふと後ろから声をかけられた。
「あー、ちょっと君。 ○○高校の生徒かい?」
僕は思わず名前を呼ばれ、振り向いてしまった。
後ろに立っていたのは見知らぬ七三分けの黒縁眼鏡の黒いスーツを来た男性だった。
僕は思わず自分の眼鏡型の拡張現実をかけた。「えーと、貴方は?」
僕は振り向き、問いかけた。
男に気が付かれないように拡張現実を起動させる。
拡張現実が一瞬で起動し、近づいてくる眼鏡の男性の存在を知らせるアイコンが出る。
「あー、僕? 僕はね烏間勇作という者なんだけど、人を捜していて誰かわかる人がいないか通りがかるまで待ってたんだ」
烏間と名乗る男性はニコニコしながら愛想のいい表情で近づく。
正直、なんだか気持ちが悪いというか何か裏があるように見えてしまう。
「はぁ、そうなんですか」
「そうなんだよ。 よかったよ、君みたいな子が通りかかってくれて。すこし
話いいかな?」
烏間はそう言うと両手を会わせながら僕の方をジっと見る。
その見る目が口元は笑っているものの、目は笑ってはおらずまるで何か狩りでもするかのような肉食獣を浮かべる目つきをしていた。
「急いでいるんで他の人か、校内の外来受付に聞いたらどうですか?」
僕はそう言いながら足の方向を変えた。
「そうなんだけど、今、プライバシーとかウルサイ時代だから。 そのまま学校に聞いたら、警察に通報されちゃうよ」
男はあははと冗談まじりに笑っているけれど、何かいらだっているようにも見えた。
「そうですか。 自分は忙しいので失礼します」
僕は話を中断して踵をかえし走り出した。
完全に怪しい。
このままいたら何か変なことに巻き込まれる
僕はそう思い、逃げようとした。
そのときだった。
「どこへ逃げようってんだ、曳舟ミナトー」
男の口調がいきなりかわり僕の名前を口にした。
まずかったのは僕は雰囲気に飲まれ、名前を呼ばれた際に身体が一瞬、硬直してしまったことだった。
僕はもう一度振り向いた。
「やっぱり、ビンゴ!」
男は髪をなでつけながら、ニヤリと笑うとゆっくりとあるいてくる。
「お前、逃げられると思うなよ。 いいか、大人しくしていればなにもないからさ」
そう言って何もなかったことはあるのだろうかと思った。
僕は走り出そうと足に力をこめようとしたときだった。
まるで離れていた烏間はいきなり瞬間移動のように間合いを詰めてきた。
「おいおい。 何もしないって言ってんだ。 人の話、聞けよぉ」
烏間は細身の身体からは想像もつかないほどの力で僕の腕をつかむ。
ふりほどこうとするがびくともしない。
「ここまで暴れるなら腕の骨一本行っとくか?」
烏間はニヤリと笑うと反対の腕を振り上げた。そのとき、声が振ってきた。
「ミナト、離れろ!」
その瞬間、腕の力が抜け、僕は後ろに倒れる。目の前に現れたのはアヤメだった。
「アヤメ!」
「大丈夫か?」
彼女は振り向かずに言った。
「なんとか大丈夫」
僕は立ち上がり、目の前の二人を見る。
「よかった」
アヤメはそう言うとゆっくりと自分の腰に手を回す。
「なんだ、てめぇは! 邪魔するならぶっ殺すぞ、クソガキぃ」
烏間はつばをとばし、さっきとは打って変わった口調で言う。
「お前こそなんなんだ?」
アヤメは冷静に返答した。
「テメェに答える義務はねぇよ! さっさと後ろにいるヘタレクソガキをよこしな!」
烏間は眉間に皺を寄せ怒鳴る。
「ピーチクパーチクウルサイ奴だ」
そういうとアヤメはナイフを取り出した。
それを見ていた烏間はニヤリと笑うと言った。「おもしれぇやってやるよ!」
そう言うと彼も腰からどこに入っていたんだと言わんばかりの刃渡りのあるナイフを取り出す。
「犯してやろうか、クソガキ」
烏間はナイフを持ち、歯をむき出しにしながら言った。
「後悔するなよ」
アヤメは短く言うとナイフを逆手に持ち替えた。
その瞬間、烏間の後ろに猛スピードで走ってくる車がいた。
車は速度をおとさず、横に車体を変えるとスライディングしながら烏間に激突し見事に横を向きながら僕らの前に停車した。
烏間は吹き飛ばされ、僕らの後ろに勢いよく飛んでいった。
車は幅が車道ギリギリな大きさのリムジンだった。
すると運転席が開き、燕尾服を着て、その上からでもわかるくらいプロレスラーのような筋骨隆々の男が出てきた。
男は僕らに目もくれず、リムジンの後部座席へ近づき、ドアを空けた。
ドアを空け、そこから出てきたのは高そうな女子校の制服を着た女の人だった。
僕とも変わらないくらいだろうかけれど醸し出している雰囲気は大人びていてどこか落ち着いたような感じが見て取れた。
年上だろうかと勝手に思ってしまう。
女の人は後ろ髪を一本で結び、結んだ髪を肩から前にかけている。
リムジンから降りるとこちらをまっすぐにみた。
女の人は優しげな顔をしているものの、目は自分に意見するものに有無を言わせないといったような強い意志がはっきりして取れるような強い眼差しをしていた。
凜とした雰囲気といったほうがいいのだろうか?
女の人は腕を組っみ、口を開いた。
「何をやっているの烏間」
まるで氷をそのまま音にしたように透明でいて冷たさを感じさせる声だった。
僕らは吹き飛ばされた烏間を見た。
烏間は吹き飛ばされ頭から血をながしながらゆっくりと立ち上がった。
「痛ぇじゃねぇか。 お嬢様」
たちあがりこちらを見る。
「あたりまえよ。 お前が数分で済むと言ったのよ。それをどれくらいたったと思っているの?」
女の人は冷静に淡々と烏間に問いかけた。
「それは申し訳ありませんでした…、お嬢様」
ブッと口の中の血だろうか、地面にはき出しながら答えた。
「早く、戻りなさい。 この役立たず」
女の人は表情を変えることなく烏間に言った。烏間はよろよろとしながら、僕らを睨むようにしながら通り過ぎ、リムジンの助手席へと消えた。
「これで邪魔者はいないわね」
そういうと女の人はこちらを見ていった。
さっきとは打って変わって冷たい感じはせずどこか静かな女子生徒という雰囲気になった。すると突然、女の人はゆっくりと頭をさげ言った。
「うちの烏間が大変失礼なことをして申し訳ありません。 お許しください」
頭を上げるとジッと僕らを見据える。
どこか観察されているというような視線を感じるが、気にしないでおこう。
僕は彼女に問いかけた。
「貴方は?」
そう僕が問いかけると彼女は口元だけ微笑を浮かべ言った。
「ここで立ち話でも何だから場所を移動しませんか?」
彼女はそういうと車内に入るように手をそこへむけた。
まるでさっきの佇まいとは打って変わって物腰柔らかな感じで問いかけてきた。
「え……?」
僕は突然のことに混乱し、返答に困ってしまった。
「もちろん貴方一人ではなく隣の彼女もね」
目の前の見知らぬ女子生徒は隣のアヤメの方を見ながらも言った。
返答に困っている僕にアヤメは近づき小声で言った。
「敵かもしれない」
ぼそっと言った。
すると見知らぬ女子生徒はそれを見て言った。「敵ではありませんし、危害を加えるつもりもありません。 ただ貴方に関することをお話しましょう。 曳舟ミナト君」
見知らぬ女子生徒は微笑した。
まるで雪女が笑ったかのように見る者を凍らせるようなゾッとする笑顔。
なんだか背筋が凍ってしまったかのように思えた。
「しょうがない、アヤメ。行こう」
「…………」
アヤメは何か腑に落ちないのか返す言葉はないものの、首を縦に振るだけだった。
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