hesitation
その日は学校を休み、身体を休ませ情報収集に当てていた。
”ヴァイパー”なる男の存在や、死んでしまった長島タクト、笠原カスミの二人に関する記事がないか捜してみたが一切、その情報はネットやテレビ等では報道されず、そんなことはなかったと世界が言っているかのように情報が一つも引っかからなかった。
正直、一つ屋根の下で見知らぬ女の子と暮らすことになろうとは思ってもみず、家からあまり出ることもなく、ただ部屋で情報収集にあたっていたというのが事実で。
特にアヤメは僕のプライベート空間である部屋には侵入して来ずとりあえず居間ですごしているというスタイルだった。
特別、彼女の部屋を用意してはいないと伝えると居間で過ごせれば大丈夫だと言った。
そしてソファに彼女は横になるとまるで嘘みたいに眠ってしまった。
声をかけ、大声を出してみたが起きる気配は全くなく、死んでいるのではないかと不安になったが寝息はしっかりと聞こえていたから大丈夫だった。
その間にもアヤメが言ったことを紙に書き出したりして内戦が起こっていた地域の記事、”シロタ”と呼ばれる人物の存在など、検索したりなにか手がかりがないか捜してみたもののそれも一切出てこなかった。
父が残した手帳をアヤメから借り、中身に目を通して見たが特に有益な情報は書かれていなかった。
アヤメが嘘を言っているようにも思えなかったし、”ヴァイパー”というあのよくわからない存在からも守ってくれたというのは信頼できることだと僕は思った。
そして夜が空けて居間の方へいくと彼女は消えていて、メモが残されていた。
『調べることがある。 だから出かける』と書かれていた。
それを見た僕は家の鍵を渡してないんだけどなと独りごちた。
とりあえず高校に向かってタクト、カスミのことが何か噂になってないか、確かめに行かなければ。
僕はそう思い、登校することに決めた。
通う高校は家から離れた場所にあり、バスに乗り継ぎ、そこから少し徒歩であるく場所にある。
不便ではあるものの、周りの環境は自然があるから少しはいいと思っていた。
通う高校につきとりあえず授業を受けることに専念し、それから二人のことを調べるのには遅くないと思っていた。
まず登校して驚いたのはあれだけアヤメと”ヴァイパー”が戦いを繰り広げた廊下はすでに元通りになっていたし、何よりカスミとタクトが死んでいた階段の部分はまっさらに綺麗になっていた。
登校してからというもの校内で他の生徒が話すことに耳を傾けていたが二人のことに関しての噂話など一切出てこなかった。二人のことが気になりあまり専念できなかったのが事実だった。
昼休みになり、僕はとりあえず机でいつものようにうなだれようかと思っていたが、二人の事を調べてみようと使命にかられ教室を出ようとしたときだった。
「あっれー、ミナト君、珍しいー」
後ろから声をかけられ、その声に僕は身体が硬直した。
「なんで……?」
僕は思わずそう呟いた。
そのまま後ろを振り向く。
するとそこには死んだはずの長島タクトと笠原カスミが二人して立っていた。
「なんでって言ったー? いつもの通りに遊びに来たんだよー」
普段と変わらない様子でカスミはカラカラと笑った。
「そうだ。 ミナト、昨日は休みだと言っていたからな」
タクトが仏頂面で言った。
なんで二人が生きているんだ?
確かに僕は二人が死んだのを確認した。
まさか見間違いとか……。
けれどあのとき確かにカスミとタクトの顔だった。
身体をバラバラにされて床に無残に転がっている光景を忘れるはずがない。
思い出すだけでも背筋が凍りそうな光景。
口を空けて黙っている僕にカスミは目を見開いて聞いてきた。
「どうしたのー、ミナト君。 まるで幽霊を見たかのように顔が青いよー」
そういって顔を近づけてきた。
僕は驚いて身体をのけぞらせる。
「ば、別に大丈夫。 ただまだ完全に調子が戻ってないだけ」
僕は苦笑いを浮かべた。
本当に幽霊を見たような気持ちになる。
とりあえずここは落ち着かないと。
「そういえばタクトとカスミ。二人は一昨日の夜ってどうしてたの?」
僕は乾いた嘘笑いをしながら二人に問いかけた。
「んーと、一昨日の夜ー? 何してたっけ?」
カスミはタクトに聞いた。
「忘れたのか? 放課後、ポテトが食べたいと言って駅の近くの店に行ったぞ」
タクトは抑揚のない平坦な感じで言う。
「あー、そうだったそうだったー」
カスミは笑いながらバシバシとタクトの腕を叩く。
「ミナト君、いなかったから二人してお店入って馬鹿話してたんだー」
「そっ、そっか……」
僕は一昨日、ここで寝ていたはずだ。
探しに来てたのなら来ているはず。
僕は意を決して質問してみた。
「あ、あのさ…」
「んー何ー?」
「二人とも一昨日の夜って変な人に会わなかった?」
僕は二人を交互に見た。
カスミとタクトは二人して視線を会わせ、僕に向き直る。
「別にあってないー。何かあったの?」
「そうだ、ミナトどうした?」
タクトとカスミは不思議な顔をして僕に問いかけた。
「い、いや、別になんでもないんだ」
僕はそう言って誤魔化したが、カスミとタクトは二人視線を会わせ首をかしげるだけだった。なんとか二人には事情を悟られないようにしながらその場を過ごしたが、放課後までの間、なんだか自分の頭が変になってしまったかのようで授業にも集中できず、ただボンヤリと過ごすだけだった。
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