start

何も説明になっていないし、それになんだか嫌な予感しかない。

僕は顔をあげてアヤメに問いかけた。

「どういうこと?」

正直、聞きたくはない。

けれど何があったのか聞いておかないと気持ちの整理がつかない。

アヤメは一度、口をきゅっと結ぶと何かためらうような仕草をしたが意を決したように口を

開いた。

「曳舟幸四郎は二週間前に亡くなった」

どこかで勘づいてはいたが、聞きたくはない言葉だった。

何か鈍器で殴られたような衝撃が頭を走る。

「そこに書かれていると思うが私は彼と欧州の紛争地域にいた。そこで彼は亡くなった」

アヤメは目を伏せあるだけの事実を話そうとしていた。

「ちょっと待ってくれ。 僕の父は何者だったんだ? 紛争地域にいたなんて初耳だし、なんで父がそこにいたのかも知りたい」

僕は彼女の話を遮り、言った。

あまりにも情報が多すぎて処理できないし、頭が状況を整理できない。

「順番が悪かった。 ミナト、幸四郎は革命家だった」

「か、革命家……?」

聞き慣れない単語を聞いて更に頭が凍り付きそうになった。

「革命家ってあの歴史に出てくる人物とかの?」

僕がそうアヤメに問いかけると彼女は頷いた

ふざけているのかなと思ったけれど、目の前のアヤメは真剣な表情で僕を見ていた。

その真剣な眼差しがどう見ても嘘をついているように見えなかった。

疑うところが多すぎてそれでも何を聞けば真実を聞きだせるのかわからない。

「信じられないのもわかる。 ただ話をまずは聞いて欲しい」

アヤメは静かに言うと僕の手を取った。

「幸四郎。 貴方のお父様は偉大な方だった。 お父様がいた場所は政府と反政府勢力が長く対立し内戦がおきていたところだった。反政府軍は市民や軍人の一部だった。 しかし、政府勢力の武力が強く、反政府軍は劣勢だった。 けれどお父様が現れてから状況が一変した」

アヤメは目を閉じ嬉しそうな表情をする。

「彼は反政府勢力の味方についてから嘘のように快進撃が起きた。 そして政府の人間、反政府勢力、両陣営の被害を少ない状態で内戦を終わらせることができた」

アヤメは目を空けると憂うような顔をする。

「そしてその国に平和の一歩目が訪れたんだ」

そういって僕の手を握る手に力が入る。

僕は何か大きいドッキリに仕掛けられているんじゃないかとさらに混乱しそうになっていた。。

おもわず彼女から離れよう身体を反射的によじろうとしてしまいそうになる。

「彼の姿を写す証拠がある」

そう言ってアヤメは胸のポケットから一枚の紙をだした。

「これだ」

そう言って渡されたのは一枚の写真だった。

そこにはその国で生きている人たちと隣同士で仲良く笑っている父の姿だった。

三年以上前、行くところがあると言い残して出て行った父の姿。

そしてすぐ側にはアヤメの姿が写されていた。「幸四郎はあの国の人々に優しくしてくれていた。みんな彼のことが好きだった」

なにか昔を懐かしむかのように彼女は遠い目をする。

写真をもう一度、見る。

そこには僕が知っている父の姿だった。

いつものよれた灰色のスーツを着ていてはにかんだような笑みを浮かべる人物。

見間違いがなかった。

なにやってるんだよ、父さん。

自分の息子は置いておいて革命かよ。

僕はそう思った。

はっきりした職業は聞いたことはなかったけれどまさか革命家なんてことをしているなんて夢にも思わなかった。

サラリーマンじゃないのかよ。

なんで黙ってたんだよ……。

心の中で突っ込んだ。

けれど父さんにむけて言いたくても、聞ける相手はいない。

僕は顔をあげてアヤメに向き直った。

「アヤメさん?」

「アヤメでいい」

「アヤメ。 君は父とどんな関係だったんだ? その親しく幸四郎と下の名前で呼んでいるから。 悪いけど……、何か男女の関係があったとか?」

僕は恐る恐る聞いてみた。

「そういうやましい関係はない。 彼は私の父のような存在であり、先生のような色々と物事を教えてくれた。 そんな関係だった。 それに私は彼にとって患者でもあった」

「患者?」

「患者というか被検体と呼んだ方がいいと思う」

「どういうこと?」

「話すよりも見た方が早いだろう」

そう言って彼女はゆっくりと立ち上がると目をつぶりり、掌を見せるような体勢を取る。

すると彼女の身体の輪郭にそって淡い緑色の光が現れ、あの蛇男に襲われた時になっていたように髪の毛がエメラルド色に光る。

「あの時の・・・・・・」

僕は感嘆しながら言った。

「この力はナノマシンによる発光なんだ」

「ナノマシン……」

「幸四郎の研究の一つらしいのだけれど、私は生まれつき身体が弱かった。そこで生き延びる為にナノマシンを使った人体改造研究の被検体になることを選んだ」

僕は開いた口がふさがらなかった。

ますます自分の父への理解がわからなくなった。

人体改造って。

もはや映画の中の世界だと思ってしまった。

「この力のおかげで生き延びることができた。彼には感謝している」

アヤメはエメラルドに光る自身の髪を手にとり、微笑した。

「君もその内戦に参加していたの?」

「そうだ。 私の祖国だから」

そう言って彼女は真っ直ぐに僕を見る。

「内戦が終わって幸四郎はこの国に戻ってくるつもりだった。 だがそれは叶わない」

彼女が口にしたことに真実身があった。 

けれどなんで死んだのか理由を聞いていなかった。

「でもなんで……、父は死んだんだ? 内戦は終わって全て解決したはずじゃ?」

「そのつもりだった」

つもりだった?

「どういうこと? 内戦が終わり彼が身支度をしているときだった。一人の男が現れた」

僕はその言葉を聞いて絶句した。

「その男はこの国から来た男で改造人間だった。 幸四郎はその男の攻撃を受け、深手を負い、その傷が原因で亡くなった。 改造人間だった男は私が始末したけれど幸四郎は助けることができなかった」

アヤメは悔しそうに言う。

「幸四郎が亡くなる前に言っていた。『本当の敵はあの国にいる。 ミナトの命が危ない。頼む、助けてやってくれ』と」

父はそんなことを言っていたのか。

さらにアヤメは言った。

「『あの国にいけ。”シロタ”という人物を捜せ。 それが今回のことに繋がる』と。その言葉を残して幸四郎は亡くなった」

色々と起こりすぎてもう追いついていけない

けれど自身の命にも関わるということはどういうことだろうか?

「”シロタ”という人物は父の知り合いかな? 僕が知っている人物じゃない」

父は自身の交友関係など話さない人間だったし、秘密が多すぎる。

「私も幸四郎からは聞いていない。ただ彼からは手帳を預かった。 その中には昔の研究仲間だとしか書かれていない」

ますます父の詳細が訳わからなくなってきた。「そうすると昨日の襲ってきたあの”ヴァイパー”とか呼ばれる蛇男もそれに関係があると?」

アヤメは頷いた。

「”ヴァイパー”の情報も手帳の中に書かれていた。なぜ幸四郎が知っていたのか私も知りたいくらいだ」

「”ヴァイパー”は死んだの? 君が昨日、かなり攻撃していたけど?」

「奴には逃げられた。 とどめを刺そうと思ったけれどやっぱり死ななかった。 多分また現れるだろうな」

あの変な仮面を被った男に狙われると考えると寒気が走る。

「まぁ、安心してくれ。 私が君を守るよ」

アヤメはジッと見据えて言った。

「ありがたいと思うけど。 アヤメ、君はどこに住むつもりなんだい?」

僕は単なる疑問を投げかけた。

アヤメは首をかしげて言った。

「何を言っているんだい? 私はここに住むつもりだよ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「何をそんなに驚く必要がある? 幸四郎の手紙に書かれてなかったか?」

アヤメは僕の方にズイッと寄ってきた。

いや近いし、離れて。 

そう思いながら、手紙をもう一度読む。

しかし、一緒に住むなどという文言は書かれていなかった。

「父さんは一言もそんなこと書いてないぞ」

「おかしいな……。一応、手紙にも書いたと言っていたんだが……、あっ、書いてある」

アヤメは手紙を手に取り、眺めていると急に弾んだように声が大きくなった。

僕は眉をひそめながら、手紙を受け取り、見てみた。

それは手紙の裏面だった。

そこにはこう書かれていた。

”表面に書くのを忘れていたが、アヤメが来たときは私たちの家族として向かい入れてくれ。 彼女には身よりもいない。 だから彼女は曳舟家の養子として家に住むことになる”

とだけ書かれていた。

勝手にそんなこと書かれていても容認できるワケがない。

自分の家族に黙って養子なんて、ひどいにもほどがある。

どうすれば…………。

返答に困っているとアヤメはジッと僕を見る。「書かれていただろう」

そう言って彼女は僕を見る。

「一緒の家に住めば、君を守ることができる。 いわばボディーガードというやつだ」

アヤメは涼しい顔で言う。

「そういうことで、幸四郎が言っていたな、こういう時は確か……、ふつつかものですがよろしくお願いいたします……? 合っているか?」

使い方が間違えてるし、なんてことを教えたんだ、父さんと心の中で思いながら僕はため息をついた。

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