awake

僕は過去にいた。

それは遠い昔に父が話していたことだった。

父はよくわからないことを言っていた。

『人間というのは不思議な物で進化する課程で脳を肥大化させた。 しかし、その脳自体が人間の能力をある程度制限させている。 一説によれば脳全ての領域をフルに使った場合、人間の身体が壊れてしまう。 そうさせないように一種の制限を脳は肉体に課しているそうだ」.付箋文

父はそう言いながら何か手帳のような物を見ていた。

僕はただ父の隣でその話を聴いていた。

わからないこと。

「そして記憶に関してもそうだ。 人間は自分の眼で現実を見ているという。しかし、現実というのはあくまでその人間が見た映像、起こった事象を捉えたことだけ。 記憶は改ざんされ、事実はねじ曲げられる。 正直な話、人間の記憶など不確かでかなり安定しない物はない。 自分は事実を見ることができるといくら言ってもそれは事実ではない可能性が高くなる」

父は何か研究職だったのか、いつもそういう難しい話をしていたから勝手にそう思っていただけかもしれないが。

しっかりと彼の仕事に関して聴いた憶えがない。

だから曖昧なのかもしれないし、あやふやなのだ。

「ミナト、憶えておけ。 お前が見ている事実は真実ではない可能性がある」

父がそう言って僕に笑っていたのだけはしっかりと憶えている。

それにそのときの笑顔は笑っているのに泣いているような表情だった。

印象的だったことは深く憶えていた。


眼を覚ますと見知った天井が目に入った。

瞼が重たく僕はボンヤリとしていてはっきりと意識が戻ってきていないだと感じた。

もう一度、瞼を閉じる。

なんで僕は家にいるのだろう?

たしか校舎で蛇の仮面をつけた男に襲われ、そこを知らない女の子に助けて貰ったんだ。

それから・・・・・・。

その後を思い出そうとしていたが、なかなか思い出せない。

ここまではっきりと思い出せないということはさっきの光景は夢だったのだろか?

あの蛇男は僕の夢の中での妄想で現実にはいなかった。

そしてあの女の子も……。

夢ならば、数時間たてば忘れる。

ただ夢にしてはかなり現実味があって恐い感覚がした。

寒気が走るがとりあえず起きてしまえば問題はないだろう。

そう思い、僕は瞼を開き上半身だけでも起き上がろうとした。

すると足下に日常生活では感じないような重みを感じた。

だってこの家に家には僕一人で、父は未だに仕事から帰ってきていない。

僕は起き上がりつつ、足元で感じている重さの正体を確認するためにそのままゆっくりと起き上がった。

その正体をみた瞬間、僕は息を飲んでしまった。

そこにいたのはあの正体不明の女の子だった

女の子はベットに顔からもたれかかるような感じで僕の足下に腕枕をしながら寝ていた。

なぜそこに彼女がいるのか不思議で、頭が混乱してしまう。

正直、冷静になれないし、どうこの状況を整理したらいいのかも考えが思いつかない。

とりあえずゆっくり観察してみることにした

耳を澄ませてみると小さく寝息を立てていて、何回かにわたって息を吸ったり吐いたりと繰り返している。

さてどうしたものか?

僕は拡張現実がないか目元を探してみたが、すでに拡張現実は外されていた。

どうやら彼女がはずしてくれたのだろうか?

ということはさきほどまで見ていた光景は実際に起こったことだったんだ。

僕は自分の部屋を見回しながらボーッとした感覚でいた。

彼女を起こさなければなぜここにいるのかも聞けないし、理解できていないことなら目の前の女の子は知っているはず。

寝息を立てている彼女を起こすしか他ないと思い、僕はゆっくり彼女の肩にむけてゆっくり手を伸ばそうとした。

「大丈夫。 私は起きているよ」

そう彼女は突然、口を開いて言った。

「うわあっっ!」

僕はびっくりし変な声を出してしまった。

思わず伸ばした手を反射的に引っ込めてしまう。

「そんなに驚かなくても……」

女の子はゆっくりと起き上がるとピンと背を伸ばす。

あくびを一つし、彼女は首を左右に倒しながら準備運動的な事をしていた。

驚き黙っている僕にむけて彼女は見かねたのか、口を開いた。

「身体の調子はどうだ?」

「へ……?」

僕は思わず、聴かれた事がよくわからなかった。

「身体の調子。 昨日、ミナトは夜、”ヴァイパー”の毒にやられて死にかけたんだよ」

女の子はふうと鼻で息をすると僕を真っ直ぐ見る。

「”ヴァイパー”? 死にかけた?」

僕は女の子が言っていることがわからない。

女の子は微笑すると言った。

「それだけの口を聞ける元気があるなら身体の方は大丈夫そうだね」

彼女はすっと手を僕の方に伸ばしてきた。

僕は何をされるのか良くわからず、身構えてしまう。

女の子の手はそのまま僕の右の頬に当てられた。

ひんやりと冷たい感触が肌を伝えわり感じる。「昨日、ここに”ヴァイパー”の毒が塗られた鉈がかすめて死ぬところだったんだ」

そう言って彼女は手を引っ込める。

僕は彼女が触った自分の頬をもう一度、確認するかのように触ってみる。

そこには絆創膏が張られ、確かに傷があることがわかった。

「鉈がかすめて・・・?」

僕は女の子の方に向き直り、問いかけた。

「憶えてない? 私を助けようとしたときに傷を負ったんだよ」

僕は夢なのか現実なのかわからないことを思い出そうとしてみた。

確か蛇男に襲われて、女の子を助けようとしたのは憶えているが、傷をどこで負ったのかまではわからない。

思い出してみれば僕はあの蛇男が女の子の手で外に投げ飛ばされたのをみた後、急に身体に異変に襲われた。

「毒のせいだったんだ」

僕は呆けたように呟いた。

「そう。 あの蛇の仮面を被った奴の名前は”ヴァイパー”。改造人間シリーズの一人。奴は毒の専門家と言ってもいいんじゃないかな。 よかったよ。 私のナノマシンで助かって」

「…………?」

僕は彼女の言っていることがすでに理解の範疇を越えていて追いつかない。

女の子は続けて何かを言おうとしたが、僕は

それを遮った。

「ちょっと待ってくれ! 言っていることが理解できない。 わかりやすく簡潔にそして説明してくれないか? 君が誰なのかもまず名前を聞いてない」

僕は彼女に告げる。

「助けてくれたって……ことは悪い人ではないと思うんだけどまずなんであの男があ出てきたのか、それに僕がなんで狙われなきゃいけないんだ? 状況が状況なだけに説明が欲しい」

そう僕が言い終わると彼女は息を一回だけ吸い、口を開いた。

「わかった」

そう言い彼女は姿勢を正して座ると真っ直ぐに僕を見る。

「私の名前はアヤメ。曳舟幸四郎の使いでここに来た」

「曳舟幸四郎……」

その名前は父の名前だ。

「なんでその名前が出てくるんだ?」

僕は関係性がわからず余計に混乱しそうになる。

「関係性を説明する前にこれを」

そう彼女は言うとポケットから一枚の封筒を取り出し差し出してきた。

「……?」

僕はそれを一瞥する。

すでに日が経っているのか封筒はくしゃくしゃの状態で皺だらけだった。

「これは……?」

「空けてみればわかる」

彼女はそういい、そのままズイッと手紙を僕の目の前に押し出すようにする。

僕は言われるがまま受け取り、封筒の裏面を見てみた。

そこには曳舟幸四郎という名前が書かれていた。

「父さんから?」

アヤメと名乗る彼女は何も言わずにこくりと頷く。

僕は封を空け、中身を取り出す。

中には手紙が入っていた。

広げて何が書かれているかを確認するとこう書かれていた。


”愛する「我が息子」 ミナトへ”


この手紙を見ているということはミナト、お前のところにアヤメが到着したということだろうか?

多分、彼女が現れてお前は混乱しているはずだ。

何も説明も無しにアヤメを向かわせたことを許して欲しい。

私は彼女と一緒に欧州の紛争地域にいた。

そこである問題を解決しなければならなかった。

そのため私は長い間、お前とは連絡することができなかった。

本当であればお前の側にいたかった。 

だがそれも難しいことになりそうだ。こんな不出来で勝手な父親で申し訳ない。

詳しいこと、必要なことはアヤメに全て教え込んだ。

彼女を通して色々と聞いてくれ。

何もしてやれなくて本当に残念に思う。

これからより一層、お前には迷惑をかけると思う。

そのときはアヤメが力になってくれる。 

お前は真実を目の当たりにしてもくじけずにいるな。

愛している。


PS.私の机の左から二番目の引き出しにお前に必要な物が入っている困ったときはそれを使え


父より


手紙の内容はこんな形で書かれていた。

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