sleep

その瞬間、彼女の後ろで倒れていたはずの蛇男がいつのまにか起き上がっていた。

まるで獲物を狙っている本物の蛇のように身体を左右にユラユラさせていた。

気が付いた僕は反射的に目の前の女の子の肩をつかんでいた。

そしてそのまま彼女をグイッと引き寄せる。

蛇男は気が付くと手にした鉈をふりおろしていた。

鉈は女の子の髪の毛すれすれを通り、空振りする。

僕はよろけて女の子の肩を抱いたまま、その場に倒れ込んだ。

背中に痛みが走るが、そんなことは気にしていられない。

一緒に体勢を崩した女の子は予想外だったのか驚いたような表情をし、振り返り蛇男を見た

そして次の瞬間、蛇男は二撃目を繰り出し、女の子と僕にめがけて鉈を振り下ろそうと振りかぶる。

僕は咄嗟に彼女をつかんだまま横になりドンと突き放すように押し自分もすぐに床を転がる。

すぐ近くに鉈が振り下ろされ、床に鉈の切っ先が当たりドンという音がする。

僕は上体だけ起こす。

すると目の前に蛇男がすでに立ちふさがっていた。

「ニガサナイ。 ヒキフネノイチゾクコロス」

完全に逃げるには遅く、身体が反応しきれていない。

もう終わりだと思った。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

その瞬間、蛇男が振り上げた鉈を横に振り下ろすのがスローモーションのように見えた。

同時に自分の身体に重たい衝撃と頬を何かがかすめるような感覚が襲った。

そのまま視界が変わり、蛇男から距離が離れていた。

気がつくと横に女の子が僕の肩に手を置き立っていた。

「本当にしつこい奴」

女の子はポツリと言いながら蛇男の方を向く

腰に手をやり、ナイフをもう一度取り出す。

「手加減は無用」

そう一言呟き、彼女はナイフの取っ手を両手で握り直し構える。

するとエメラルド色の髪の発光が強くなり、それと同じくナイフの刀身が強くエメラルド色に発光し始めた。

するとナイフの刀身が急に長くなり、まるで漫画に出てくるような日本刀のような長さになった。

刀身はそのままエメラルドに輝いたまま形を保っている。

ゆっくり彼女は腰を落とし、攻撃の構えに入る。

そしてそのまま一気に駆け出すと蛇男との間合いを詰める。

予想外だったのか蛇男は急に突進してきた女の子を眼にしてすこし怯んだ様子を見せる。

女の子は蛇男に対してナイフが変形した刀のような物をそのまま一気に振り抜いた。

そのまま刀の切っ先は蛇男の鉈を持つ腕へ。

暗闇の中、エメラルド色の軌道が見え、そのまま蛇男の腕は刃先により切断された。

鉈を持つ腕はなくなり、肩から先が見事に切られていた。

肩からは血が勢いよく吹き出し、攻撃の威力が見て取れた。

女の子は手を緩めることなく、追撃を仕掛けようとした。

しかし、蛇男は怯むことなく女の子にむけて蹴りを繰り出す。

彼女は蛇男の蹴りをかわすことなくそのまま蹴りを身体で受けると脇腹めがけて蹴られた足をしっかりと掴む。

蛇男の足をつかんだまま窓の方にむけて砲丸投げの選手のように身体を思いっき横にひねる。女の子に振り回され、蛇男は片足を掴まれた状態のまま、窓の方に向かって吹き飛ばされ、ガシャンという窓が割れる音と共に蛇男は校内から外へと投げ出された。

刹那、空中に浮かんだ蛇男に向かい、女の子はエメラルド色に光る刀を思いっきり投げつけた。

刀はものすごい速さで、飛んでいくと蛇男の腹の部分に刺さった。

そして蛇男は僕の見える視界から消えていき、数秒後にドンという何かが外で落ちるような音が響いた。

シンとその後静まりかえると何もなかったかのように女の子は僕の方を見た。

その瞬間、僕は今までに感じたことないくらい身体全体に震えが走った。

同時に吐き気と全身が燃えるような暑さと痛みに襲われ、呼吸が苦しくなった。

「はっ、はっ、はっつ……」

息が苦しく視界がぶれていく。

なんだこれ?

僕は理解が追いつかない。

目の前に立つ女の子が瞼を見開き、近寄ってくるのがわかる。

「ミナト!」

女の子はなぜか知るはずのない僕の名前を叫んだ。

頭では疑問が浮かんだけど、言葉も出ないし、呼吸が苦しい。

床に横になり、首を僕は抑え空気を吸おうと口を開く。

けれど、身体が全く酸素を吸ってくれない。

誰か助けてくれ。

視界がぼやけていくなか女の子が必死で何かを叫んでいる。

それが何を言っているのかわからない。

拡張現実が命の危険をうるさく伝えていた。

助けてくれ。

そう言いたくて言葉がでない。

目の前の彼女は何か意を決したかのような表情をした。

「ごめん、ミナト」

なぜかその言葉だけがはっきり聞こえた。

次の瞬間、彼女は僕の顔に自身の顔を近づける。

そして顔が覆われると呼吸にあえぐ唇をふさがれた。

拡張現実が緊急事態ですと告げている。

彼女と自分の唇が重なったのだとわかった瞬間、僕の視界はブラックアウトした。

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