enemy

 時間というのはあっという間に過ぎるもので、自分が思っている以上に早く、流れを止めることはできない。

それは誰しも同じで、一番、存在が煩わしくていて身近な思考だなと僕はつくづく思う。なぜそう思ったのかというと放課後、普段、生活費を稼ぐ為にバイトに出ているのだけれど、今日に限り授業が終わった後、僕は一人、机に突っ伏した。

特段、体調が悪いわけではなかった。

けれど人間の最大生理的欲求に負けてしまい、気が付けば、外は暗くなり、それに負けないくらい校舎も暗くなりかけていた。

放課後の校舎にいたこともなく、やはり雰囲気が違うのがすぐに分かった。

僕はそのまま教室を出る。

教室を出るとセンサーが反応し、教室内に誰も居ないことを感知し、ドアを完全にロックした。

その証拠に教室の入り口に設置されたセンサーの表示点滅が緑から赤に変わっていた。

僕は教室を後にし廊下を歩き始めた。

目指すべき下駄箱がある出入り口は自分のいた教室とは真反対側に設置されている為、少しの距離を歩かなければならなかった。

くらい雰囲気のなか一人歩き始める。

校舎の外から聞こえるのは吹奏楽部の部員が吹いている楽器の音だけ。

僕にはそれがなんの楽器の音なのか分からないのだが静けさのなかにその楽器の音だけが、鳴っていて不気味さをさらに増長させているように感じた。

別に怖いというわけではないが、不安に駆られそうになる。

僕はその意識したことを頭から遠ざけるように歩く足を早くした。

教室をいくつか通り超し曲がり角にある階段まで早歩きで足を進めた。

曲がり角にある階段を降りて先を進まないと出入り口には辿りつかない。

僕は早くでようと焦る気持ちを押さえながら曲がり角を曲がった。

階段が見え、降りようとした僕の目に飛び込んできたのは衝撃的な光景だった。

非常点滅灯が階段の階数を暗闇のなか示し、その明かりに照らされるように階段の踊り場に人が二人倒れていた。

ただ倒れているならいい。

何かの冗談かその二人は身体をズタズタに引き裂かれ、至る所から出血し、あげくの果てには一人は首を胴体から切り離され、もう一人は右腕が肩のところから切られ左足も変な方向に向いていた。

そして血しぶきの後だろうか、壁には血らしきものが付着しているのが暗がりのなか少ない明かりで分かった。

僕は身体が硬直し、叫びそうになるが口を手でふさいだ。

なんで学校でこんな状況が起きているんだ?

混乱する頭で辺りを見回すが誰もいるはずがない。

だがそこで倒れているのが誰なのか気になってしまった。

馬鹿なことに僕はすくむ足で倒れる死体に近づいていく。

近づいて見ると二人は男女でこの学校の制服を着ていた。

暗がりで顔がよくみえなかったため、僕は近づいて二人の顔をのぞき込んだ。

二人の顔を認識した瞬間、息を止めてしまった。

倒れていて殺されていたのは同級生の笠原カスミと長島タクトだった。

「そ、そんな……、嘘だろ……」

口からはそんな言葉しか出てこなかった。

二人だと認識し、どうしていいのか分からず助けを呼ぼうと思った時だった。

階段の下のほうからカツカツと昇ってくる足音がした。

先生か誰かが来たと思い、振り向きざまに言葉を投げかけた。

「助け……」

最後まで言葉にしようとしたが言葉にならなかった。

階段から上がってきたのはスーツを来た先生や学校関係の職員ではなく、黒いレインコートを着た大きな男だった。

それより何よりも目を引いたのは頭に巨大な蛇の被り物をし右手に鉈のような刃物を持っていた。

わずかな照明に照らされ、鉈に血がついているのがわかった。

僕は開いた口がふさがらずその男性に釘付けになる。

すると男はかぶり物の下から声を発した。

「オマエガヒキフネ ミナトカ?」

機械のような野太い声で僕の名前を呼んだ。

意味が分からず、口をぱくぱくさせている僕に男はもう一度問いかけた。

「モウイチドキク。 オマエガヒキフネミナトカ?」

男は問いかけが終わると共に鉈を持った右手を振り上げた。

まさか……と思い、僕はすぐに後ろに下がった。

そう思った次の瞬間に、自分がいた場所に鉈が振り下ろされていた。

ヤバい、本当にマズい……。

焦った僕は後ずさりをしながら階段を一気に駆け上がった。

何なんだよ。

僕は意味が分からないまま元来た廊下を思いっきり走った。

とにかく逃げ込めるようなところと助けを呼べそうな場所を。

そう焦る頭で考えながら走る。

足を止め、途中の教室の中に逃げ込もうと思い、教室の戸に手をかけるが開かず、ドアが鍵がかかったままになっていた。.付箋文

上をむき点滅灯をみると開いている緑から赤になっていて、先の教室の点滅灯を見てもすべて赤になっていた。

「クソっ……」

僕は悪態をつき、後ろ振り返る。

静けさの中、コツコツと音を立てて、あの蛇男がこちらに向かって歩いてきていた。

とにかくアイツから逃げなければ。

そう思い、自分のいた教室のほうまで走った。しかし、皮肉なことに自分の教室はこの校舎の階の一番、端にあたる。

そしてその先は何もない。

走ってここまできたが、教室全て鍵が閉まっており、どこもはいれない。

残すは廊下の教室とは反対に設置された窓だけが、外に繋がる。

僕は意を決して窓の鍵を開けて外に顔を出した。

しかし、ここは三階。

かなりの高さがあり、しかも辺りは暗く地面が見えない。

このままの高さからジャンプしたら確実に無事では済まない。

そう思った瞬間、身体が恐怖で硬直してしまい、足が動かない。

ためらっていると急に視界が反転し、背中に痛みが走った。

「ぐあっ」

突然の痛みに僕は何が起こったのか理解できなかった。

そして次の時には蛇男に首をつかまれ、地面に倒されていた。

気がつけば首を掴まれ、なおかつ蛇男が馬乗りになっていて身動き一つ取れない状態になっていた。

首を押さえる手の力が強いのか呼吸が苦しい。僕は開いた両手で首絞める蛇男の片腕をつかむ。

いっこうに男は手を離す気配はなく、びくともしない。

もがく僕をよそに蛇男は真っ直ぐに鉈を振り上げた。

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