ゴーレム出現

 保管庫跡から通路に出ると地響きのような足音は遠ざかっていた。

 今まさにルカが追跡しているところなのだろう。


 俺とサムエルは荷物を運べるようにして、いつでも動き出せる状態にある。

 場所が変わるとルカとはぐれてしまうため、移動せずに待機していた。

 謎の存在が現れたことで安全ではないと分かり、こうして待っているだけでも緊張感が伴う。


 張り詰めた緊張感の中、時間がゆっくりと経過するような感覚だった。

 注意を向けたまま待機していると人の気配が近づくのに気づいた。

 動き方とシルエットでルカだと分かった。


「戻りやした」


「無事でよかったです」


「ご心配どうも。岩壁から突き出したルミナイトで姿が見えたんすが、あれの正体はゴーレムっすわ」


 ルカの言葉にしばし考えこむ。

 ゴーレムというのは岩が組み合わさったような外見で、人工的な巨大人型モンスターだっただろうか。


「そんなものがどうしてここに?」


「あっしにはさっぱり。もしかしたら、古代人が見回りを術式か何かで仕組んだってことはあるかもしませんで」


「ここはひとまず戻りますか?」


「いや、あっしとマルクさんでどうにかなりそうっすわ。サムは一足先に戻って、状況を社長に伝えといて」


「了解です。すぐに引き返します」


 ルカの伝令を受けて、サムエルは足早に立ち去った。

 ゴーレムが彼を追わないか注意しつつ、無事に上の階層へ行けたのを見届ける。

 第一階層まで引き返せれば、外に出ることは難しくない。


「ルカさん、過去にゴーレムを見たことあります?」


「いやいや、暇つぶしに読んだ書物で見ただけなもんで。そん時の情報からそう判断したんすわ」


「俺は魔法関係の本でちらっと見たかどうかです。どちらにせよ、なかなかお目にかかれないことは間違いなさそうだ」


 ゴーレムの足音はずいぶんと遠ざかっている。

 リスクを回避して見逃す選択肢もあるのだが、徘徊が続く限り第二階層を通ることが危険になってしまう。  


「二人でどうにかなるというのは勝算でも?」


「マルクさんぐらい魔法が使えれば、足止めは可能でしょうや。その隙にあっしがゴーレムの動力源と呼ばれるコアを破壊しやす」


「なるほど、コアですか。ルカさんの方が危ない役回りですけど、任せちゃって大丈夫です?」


「ふっ、なめてもらっちゃ困りやすぜ。機動力ならあっしが圧倒的っすわ」


「これは失礼しました」


 ルカは不敵に笑って自信をみなぎらせている。

 それにはこちらの魔法への信頼も含まれているのだろう。


「作戦はまとまりましたね。それじゃあ始めましょうか」


「へい、一発かましてやりやしょう」


 ホーリーライトの光量を視界が保てる限界で維持する。

 万が一、ゴーレムが戻ってきたらすぐに気づかれてしまう。

 慎重に歩を進めながら後を追うかたちで接近する。

 今のところ脅威はゴーレム一体のみで他に動く存在は見られない。


 徐々に足音が近づいてきた。

 巨体故に歩く速度はゆっくりなようで距離が縮まっている。

 目立った異変はなく、俺たちには気づいていないようだ。

 

「岩の塊なもんで魔法はそんなに効かないかもしれんすわ。注意を逸らしてもらえたら、あとはあっしがコアを狙いやす」


「分かりました。危ない時は逃げましょう」


 作戦を確認した後、ルカが横から回りこむように動いた。

 ここからはゴーレムに気づかれてもいいので、ホーリーライトの光を強くする。


「……どうだ、気づくか……」


 ゴーレムは明るくなったことに反応して、ゆっくりとこちらに振り返った。

 やはりそれは巨岩をパーツにした人型のモンスターだった。 


「まずはどの属性が効くか確かめよう」


 しびれて動けなくなることを狙いにライトニングボルトを放つ。

 鮮烈な雷光が地下に輝いて、ゴーレムの巨体を捉えた。

 それなりに魔力をこめたはずだが、一時的に止まっただけで限定的な効果だった。


 ゴーレムはこちらを敵と認識したようで、一歩ずつ距離を詰めていた。

 すぐさま後ずさり、今度は氷魔法のアイシクルを放つ。

 凍てつく風がゴーレムを包んでいった。


「よしっ、やったか?」


 魔力量を増やした甲斐があったようで、完全に足元が凍りついている。

 今ならルカが出てきても問題ないはずだ。


「――あとはお任せっすわ」


 ルカが物陰から出てきて飛びついた。

 防御機能が搭載されているのか、ゴーレムは腕を動かして振り払おうとしている。

 しかし、それが彼を捉えることはない。


「ルカさん、気をつけて!」


「この程度問題ないっすわ」


 ルカは軽い調子で言った後、ゴーレムの首元に到達した。

 首にまたがる状態で掴まり、空いた手で剣を鞘から引き抜く。


「よっしゃ、もらった!」


 ルカはコアを見つけたようで、そこに向けて剣を構えた。

 ――とその時だった。

 炎の渦が彼に向けて飛んできた。


「ルカさん!?」


 歴戦の槍使いは紙一重で回避して、地面に着地した。

 判断が追いつかなくなりそうだが、気を静めて炎が飛んできた方向に目を向ける。 

 臨戦態勢でいつでも魔法が放てるように集中力を研ぎ澄ませた。


「誰だ!? 俺たちに敵意はない」


「……お前たちのような侵入者と話すことに意味があるとは思えない」


 冷たく拒絶するような声に思わず身構えた。

 こちらと向こう側のホーリーライトが周囲を照らし出す。

 ルカに攻撃を仕かけたのは見たことのない種族の女だった。

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