お宝発見

 チーク材で作られた棚が見つかったことでサムエルは上機嫌だった。

 他にも見逃しているところがあるかもしれないということになり、松明よりも明るいホーリーライトの光で保管庫跡を三人で調べることになった。


「前に来た時は陰に隠れて見えんかったのか。マルクさんのおかげっすわ」


 保管庫跡を周り始めたところで、ルカが感謝を伝えてきた。

 魔法自体は初歩的なものなのだが、こんなことでも役に立てるのならうれしいものだと思う。


「同行させてもらえて光栄だったので、こうして役に立ててよかったです」


「もうちょい出てきそうなんで、がっつり探しやしょう」


 すでに足を運んだことがあるルカが目ぼしいところを探すようだ。

 冒険者でも先遣隊は大まかな調査になることが多い。

 それと松明の限定的な明るさを踏まえたら、全てを網羅するのは現実的ではない。


「ここが一番大きいとこっすわ」


 まず手始めに第二階層の一番大きい保管庫跡へ到着した。

 たしかに他のものよりも一回り大きい。


「燃え移ったりすると危ないので、松明の火を消してもらってもいいですか?」


「へい、仰せの通りに」


「はい、そうしましょう」


 こちらの提案にルカとサムエルは応じてくれた。

 松明が消えた分だけホーリーライトの光量を強める。

 洞窟内で真っ暗なため、少し魔力を上げるだけでも効果的だ。


「おっと、こいつは期待が持てるっすわ」


「自分もルカさんに同行しましたが、こんなにあったとは」


 部屋の片隅に先ほどと同じように棚がある。

 大きさはほぼ同一で、古代の人々が高い技術力を持っていたことが窺える。


「埃まみれですけど、これも保存状態がよさげですね」


 サムエルに質問を投げかけると唸るような返事が返ってくる。


「アンティーク家具として売ってもいいでしょうし、ブラスコ社長が気に入りそうなので、臨時ボーナスに化ける可能性も望めそうです」


「たしかにチーク材なんて聞いたことないから、希少価値は高いんでしょうね」


 先ほどと同じように残留物はないと思うが、念のため何かなにか調べてみる。

 魔法の光を反射するように金属が光るのが目に入った。

 思わず目を見張り、その方向に歩みを寄せる。


「……これはナイフか」


 砂埃が積もっているが、輝きは失われていない。

 長い年月を経ても錆びなかったのだろうか。

 服の袖で口と鼻を覆いながら、柄の部分を掴んでみる。


「マルクさん、何かありましたか?」


「これなんですけど」


「少し貸してください」


 俺の目では価値の鑑定はできない。

 とりあえず、サムエルに手渡した。


「……これはもしや」


 サムエルは角度を変えながら何度も確かめている。

 その真剣さから特別な価値かどうかを見極めているように見えた。


「もしかして、高価なものでした?」


「高価どころかこれはダマスカス鋼です。さっきのチーク材だけでもすごいのに、これはたまげた」


 サムエルが手にした布で刃の部分を拭うと、さらに輝きが増した。

 美しい波紋のような模様に目が奪われる。


「こいつはすげえや。リブラならこのナイフ一本で立派な邸宅が建つっすわ」


「えっ、そんなに高価なんですか?」

 

「マルクさん、材料から製法まで謎に包まれているそうです。ごく一部のドワーフ鍛冶師にしか作れないと言われています」


 俺が興味津々に見ていると、サムエルがこちらに手渡してくれた。

 重さは標準的で柄の部分は握りやすくてしっくりくる。

 何度見ても刃の部分の模様は惹かれるような美しさだ。


 ――とその時だった。

 どこかで重たい何かが地面に落ちるよう衝撃が響いた。


「むっ、落盤でも起きたんか」


「少し離れたところからですね」


 ルカとお互いに顔を見合いながら、保管庫跡から通路に出る。

 再び衝撃が伝わった瞬間、闇の向こうで何かが動いた気配を捉えた。

 咄嗟にホーリーライトを最小出力にして、保管庫跡に引き返す。


「落盤ではなく、モンスターの仕業のようです」


「音が音だけにでかそうっすわ。やたらに顔は出さんように」


 三人で身を潜めていると、ずしりずしりと音が近づいてくる。

 どうやら通路をまっすぐに進んでいるようだ。


「まだ気づかれてませんよね」


「おそらく、今んとこは」


 お宝発見の浮かれ気分が一転して、緊迫するような事態になっている。

 未知の遺構で得体の知れない相手となれば、慎重な出方にならざるを得ない。

 迫りくる存在を見定めたいところだが、明るくすれば気づかれてしまう。


「……だいぶ大きい。一体、なんだってんだ」

 

「どうやら、通過するみたいです」


 重量感のある足音は通路を均等なペースで歩いていった。

 近くで分かったのは地面に岩を打ちつけるような音。

 まさか、石像か何かが動いている可能性があるのか。


「ふう、命拾いしました」


 気配が遠ざかるのを確かめてから、サムエルがホッとしたように言った。

 自分の額には汗が浮かび、緊張感が高まっていたのを実感する。

 

「あんなんがおったら、おちおち探索できないっすわ。ちょっくら偵察してきやす。あっしなら見つからずにできるんでご心配なく」


 このまま撤退すると思いきや、ルカが準備運動するような動きを見せた後、軽やかな動きで通りすぎた存在を追い始めた。


「相手は正体不明ですけど、大丈夫ですかね」


「ルカさんなら大丈夫なはずです。念のため、逃げられるようにしておきましょう」


 サムエルはルカを信じている様子だった。

 とりあえず、彼が言うように逃げる準備はしておこう。

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