第二階層に到達

 階段を慎重に下りてから第二階層の入り口に立っていた。

 上の階層に比べると人工的な気配は薄れており、むき出しの岩壁が続いている。

 古代の人々は上から下へと通過していたようで、足元は歩きやすいように整えられていた形跡が見られた。

 周囲にはモンスターの気配はないものの、空気は進むにつれて冷たさを増している。


「キャラバンの仲間同士で話し合った結果、この辺りは通路や保管庫として使われたという結論になりました」


 サムエルが丁寧に説明してくれた。

 倉庫かどうかは判断できないものの目立つ用途は見受けられない。

 一つ上の階層よりも横幅が狭く奥行きは長い。

 自然とそういった使い道になったのだと想像する。


「ルカさん、せっかくですのでマルクさんを案内してはどうでしょう?」


「サムに賛成。この辺りはモンスターの痕跡はないんで、安心して見れるっすわ」


「ありがとうございます。ぜひお願いします」


 ルカが同意を示して、サムエルは満足そうに頷いた。

 第二階層の入り口から通路のようになっている道を歩く。

 天然の洞窟がこんなふうに整地されるとは考えにくいため、人の手が入ったと考えるのが自然だろう。


「まずあそこが何かを保存していたと思われる場所です」


 進行方向に崩れかかった岩壁があり、かつては何らかの建築物であった名残りが見られた。

 レンガを積んだような外観で通気口としての窓が設けてある。


「中は何かありますか?」


「いえ、年月の経過が風化したようで何もありません。ここに人がいた頃は食料などを保存していたと思われます」


 近くで確かめると内側には何も残されていなかった。

 ホーリーライトで照らすと人工的に作られたことがよく分かる。


「不思議ですね。こんな洞窟の中で生活していた人たちがいたなんて」


「自分を含めたベナード商会の者は歴史や考古学は専門外なものですから、全体像が見えた後はランス王国の専門家に見てもらうのが一番でしょう」


「モンスターの出現も考えられるので、安全が確認できてからの方がいいですよね」


「はい、その通りです」


 ランス王国の学者たちがどのような構成なのかは分からないが、冒険者兼学者ということでもない限りは実戦経験はないだろう。

 そんな人たちをモンスターが出るリスクがあるところに連れていけない。


「マルクさん、このフロアはどこもこんな感じっすわ。見るのに満足したら先へ進みやしょう」


「ああ、もう十分です。移動を再開しましょうか」


 俺は保管庫に使われていたような場所から離れた。

 再び三人で一列になって歩き出す。

 このフロアにモンスターはいないと聞いていても、カバーしきれない物陰があることで緊張が増していた。

 ホーリーライトの出力を上げれば明るい範囲を広げられるものの、魔力の消費を踏まえたらそこまで明るくはできない。


 第二階層から続く一本道に沿うように、ところどころ保管庫のような跡があった。 

 古代の人々の技術が優れていたのを示すように、長い年月が経過しても原形をとどめている部分も見受けられる。

 天井や壁に多少はルミナイトが埋まっているようで、時折淡い光が目に入った。


「……おっ、あれは」


 何もないだろうと思っていたが、崩れかけた建物の中に何かが見えた。

 ルカたちに声をかけて、一緒にそこへと向かう。


「魔法の光で棚みたいなものが見えたんですけど」


「あっしらが見た時は何もなかったんすが、せっかくなので見ておきやしょう」


「ホーリーライトは松明よりも照らせる範囲が広いので、見逃していたところを見つけたかもしれません」


 三人で中に足を運ぶと砂埃にまみれた棚が置いてあった。

 扉などはなく空いた隙間には何も残っていないようだ。


「……マルクさん、これはすごい発見かもしれませんよ」


 サムエルが興奮気味に言葉を発した。

 古ぼけた棚にしか見えないのが、よく考えれば棚の木材が劣化していないことは違和感があることに気づく。


「埃が舞うので、少し離れていてください」


 サムエルはタオルで口を鼻を覆って、棚に近づいて埃を払う。

 彼を手伝うべく、ホーリーライトの光で手元を照らした。 

 

 ひとしきり埃が取れたところで、棚のことがよく見えるようになった。

 アンティークと呼んで差し支えない代物のはずだが、木目の美しさは鮮明だった。

 

「間違いない! これはチーク材で作られています」


「木材に詳しくないですけど、価値が高いんですか?」


「経年劣化しにくい耐久性と美しい見た目が特徴で、リブラでは高値で取引されます。これは保存状態がいいので、解体して再利用も可能でしょう。絶対数が少ないため、ランス王国にもそう多くは生えていないはずです」


 サムエルは棚をポンポンと叩きながら言った。

 お宝を見つけた喜びを表すように満面の笑みを見せている。


「いやー、マルクさんが一緒でよかったっすわ。あっしらだけだったら、きっと気づかなかったでしょうや」


「貢献できたようでよかったです。こんなところまで盗賊は来ないと思うので、人数が揃った時に運び出しましょう」


「三人では厳しいので、それでお願いします。ひひっ、これは社長にいい報告ができるぞ」


 ルミナイトやヒーリンググラスも貴重だったが、意外なところで価値あるものを見つけることができた。

 この調子で色んなものが見つかるといいと思う。

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