外典I アナザーワールド

EPα 反逆ノ灯

2020年代から、世界の二極化は激化した。

そして2030年代に入り、徐々に地球は氷河期へと突入する。氷は両極を中心にゆっくりと広がり、資源と領土を求める高緯度地域の国々は南下政策として、敵対する国々へ侵略を開始した。それと同時期に加速する、異宗教間の対立…。

第三次世界大戦の開戦である。

この大戦の終盤で使用された兵器が通称、ミクロボンバである。この兵器は敵国のコンピュータの破壊を主目的として設計、開発された。

しかし、予想外のことが起きた。このミクロボンバが使用された国で、人間が爆発したのだ。そう、爆発である。自爆テロなどではない。体内から爆発したのだ。

9年間にも及ぶ戦闘と、ミクロボンバの惨劇により、地球の人口は10億人にまで減少してしまった。

生き残った者の大半は、ミクロボンバの情報をいち早く聞きつけ、シェルターに逃げた者達である。

時が流れ、ようやく過去の姿の一部を見せだした地球だが、人の数が減ったことにより、次第に住居の数も減っていき、寒冷化の影響か植物が育ちにくくなり、世界中で荒野が広がっていった。

そんな第三次世界大戦の終戦のきっかけになった、ヘノシディオの戦いで奇跡の逆転勝利をしたのが、我らがジョン・マイケル将軍である。


その後、預言石の到来によって一般市民の避難が始まった。またしても地下に逃げるのである。

しかし以前と違うのは、地下に逃げる者に、高額な金を要求したことである。

一般市民は三つの種類に分かれた。金を払って地下に逃げる者、金が払えず地上に残る者、電磁パルス兵器ミクロボンバの事件より、政府に不信感をいだき、世界の終わりを信じずに地上に残る者だ。

地下に逃げる者は世界中にある10のゲートを通る必要がある。検問所のようなものである。ゲートは東京、ロンドン、モスクワ、ローマ、ニューヨーク、シドニー、カイロ、ニューデリー、ブラジリア、ハワイの10箇所である。そのゲートの通行料がとてつもなく高いのだ。この時代なら家が建つ。

そして人類は、地下逃亡組と地上残留組で、ほぼ人口が半分に別れたのであった。

――――――――――――――――――――

僕と母さんは地下に逃げることになった。父さんは研究がどうとかで残るらしい。相変わらず家族より研究の方が大事な人である。昔からのことなので別に寂しくもない。

「ボディチェックを行うのでお一人様ずつこの中にお入り下さい」

僕は細長い箱に入れられた。赤外線で体の隅々までチェックされているらしい。

「問題ありません、ご協力ありがとうございました。では、あちらにお進み下さい」

母さんも同時に終わり、次は住民コードの提出と、付与される住居の場所確認だ。

「識別コード256040973と256040974確認。住居はエリアTの75番地、25階の5632号室だ。これは識別カードだ。住所も載っている。無くした場合は役所に届け出るように。不所持が見つかれば牢屋行きだからな。では、お気をつけて」

僕と母さんはそれぞれ識別カードを貰った。そして地下に行くためのエレベーターの乗り場へ向かう。

『37番エレベーター到着のお知らせです。フロア内の皆様は早急にご搭乗願います』

フロアに放送が響く。

「母さん、急ごう」

「ええ」

エレベーターの中には一人一人の座席があった。

『エレベーター内の満席を確認。皆様シートベルトをお締め下さい。間もなくドアが閉まります。ご注意下さい』

ドアが閉まり、エレベーターが動き出す。これから暫くは日の光を見ることもないだろう。

『当エレベーターは、安全圏であります地下2kmまでを5分で移動致します。暫くお待ち下さい』

「母さん、なんで政府はこんな地下深くまで逃げさせるのかな?」

「分からないわ。でも、国は非常事態だと言っていた。とにかく危ないのよ」

「あんまり説明になってないような…」

僕は呟いた。母さんは昔、政府機関で働いていた。そこで何があったのか知らないけれど、母さんはちょっと政府を信じすぎだと思う。

『到着です。ご搭乗ありがとうございました』

どうやら着いたらしい。

「とりあえず家に行きましょう。荷物も届いてるはずだわ。エリアTはあっちね」

「うん」

――――――――――――――――――――

「え、3部屋だけ!?」

国から与えられた家は個人の部屋が一つずつと台所・風呂・トイレがある大部屋一つである。それに作物育成用の畑が一つ。地下での生活で与えられるのは、電気と上下水道と種だけ。まあ、与えられると言っても金は払うが。

種とは何の種かと言うと、芋の種である。品種改良され、土に植えとけば勝手に一週間程で育つ芋である。地下での食べものはこの芋だけである。品種改良のおかげで生きていくのに必要な栄養素はすべて補える。肉などは街に出れば買えるがとても高い。だから芋をかじるしかないのだ。

――――――――――――――――――――

記録ではここに来てから1週間が経った。1週間もあれば慣れるものだ。

今日は週に5日ある、母さんの仕事も休みだ。何の仕事なのかは教えてくれないけれど。

「じゃあ行ってくるね、母さん」

「ありがとう、気を付けるのよ」

「うん」

今日、僕は例の芋の種を買いに街に出る。

――――――――――――――――――――

「ボス、ターゲットが動き出しました。ボスの読み通りです」

「わかった。では準備に取り掛かるとするか」

「うす」

――――――――――――――――――――

街というのは第三次世界大戦前の池袋とかいう街を再現した、ニュー東京街というところだ。

ここに行けばなんでもある。種の買える売種所だけじゃなく、罪を犯した者の入る牢獄や、電気や上下水道システムの一括管理システムなどなど、肉とかの高級品もここで買える。

「やっぱすげえなあ」

思わず声が出る。街にはプロジェクションマッピングで映されている空がある。造り物でも確かに真っ青な空だ。

少し地上が懐かしくもなる。なんだか、地下生活はちょっと息が詰まる気がする。

「さてと…」

僕は売種所へと向かう。

「っ、だぁ」

案の定混んでいる。長蛇の列は施設の外まで続いている。僕も一番後ろに並んだ。

――――――――――――――――――――

売種所の建物の上に蠢く影が二つ。

「ボス、ターゲットが来ました」

「ああ、俺も見えた。スタンガンの用意は?」

「いつでもいけます」

「よし、行くぞ」

二つの影が消える。

――――――――――――――――――――

もう何分ここに並んでるだろうか。でも進んでいるからいいか。僕の後ろにも人が並んでいる。

すると、僕は急に襲われた。

「よお、久しぶり〜」

背後から肩を組まれる。

「わっ、えっ、ちょ、あんた、だれっ」

「覚えてないのか〜?冷たい奴だな〜。ちょっとこっち来て話そうぜ〜。あっ後ろの方、詰めちゃって大丈夫ですよ〜」

全く知らない男が笑顔でそんなこと言ってる。

逃げなきゃと思うが、背丈がほとんど変わらないくせに力が強い。

「そこ入れ」

昔の路地を再現した場所に誘導される。

なんでこんなの作ったんだよッ。

「本当に、あんた誰?」

「悪いな」

「は?」


バチッ   


「ボス、眠らせました。すぐそっちに向かいます」

『おう』

――――――――――――――――――――

ペチペチペチ


「おい、起きろ」

うぅ、ほっぺが痛い。僕は目を開ける。

「ここはどこだ?」

真っ暗な部屋だ。

ん?僕は椅子に固定されてるのか?

「お前が256040974だな?」

さっきの男とはまた別の声がする。

「まあ、そうですけど、僕にはジンっていう名前があるんですよ。呼ぶならそっちにして下さい」

「わかった。ジン、力を貸してほしい」

「あなたたちの名前は?」

「ああ、わかった、わかった。俺はボス、ボス・ディアゴ、16歳だ」

「ついでに俺は15歳のクリート・アバランディだ」

僕も歳は15。体格が似てることも納得だ。

「わかりました。で、力を貸すって?」

「お前の母親は政府に内通してるだろ?それに噂によるとトップシークレットも色々知ってる程のかなりの重職とか」

クリートさんが淡々と言う。全くの初耳だ。

「確かに職場は僕にも教えてくれないけれど、まさか政府だってことはないと思いますけどね」

「でも前は働いてたんじゃないか?」

ボスさんが突き詰める。

「まあそうですけど…」

「ジン、お前への要求は一つ。母親からゲート・シリコンバレーのパスワードを聞き出すことだ」

何言ってるんだこの人は?

「なんですかゲート・シリコンバレーって?」

「第11のゲート。一般市民には明かされていない関係者専用のゲートだ。そこには全てのゲートを操れるコントロールルームがあるらしい。そこに侵入したい」

クリートさんが言う。なんでそんなことするのだろう?

「なんでそんなことするんだって思ってるだろ。まあ当然だ。俺たちの目的は、政府からの民衆の解放と、地上残留組の避難。つまり地上も地下も不自由なく行き来できるようにする。それだけだ」

ボスさんが言い切る。

「なんとも壮大な。どうやるんです?」

「おっと、こっからは秘密事項だ。組織の人間以外には話せないぜ」

「組織?」

「ああ、俺たちにはあと8人の仲間がいる。みんな同じ目的のために動くんだ。俺の家は貧しくてな、両親はせめて俺だけでもって言ってここに逃してくれた。二人は今も地上に残っている。俺は二人を助けたいんだ」

ボスさんにそんな過去が…なんだか泣きそうになってくる。

「わかりました。やります」

「本当か!?」

「はい、ただし条件が一つ」

「ちっ面倒くさい奴め」

クリートさんが吐き捨てる。

「なんだ、条件ってのは?」

ボスさんが聞く。僕は一度深呼吸をする。

「僕を…その組織に入れて下さい」

ああ、言ってしまった。

「なっ!?それは無理だ。ですよね、ボス?」

「うむ…他の仲間に相談する。少し待ってろ」

ボスさんが暗闇に消える。

「…お前、どういうつもりだ。なんで組織に入りたいなんて言う?」

クリートさんが低い声でそう言う。

「僕は小さい頃から自分が正しいと思う事をやれと教えられてきました。確かに僕は今の政府が信用できない。それに、助かるべき人を助けるのは当然のことじゃないですか。僕にはこの組織が間違ってるとは思えません」

「本気なんだな?」

「はい」

「俺たちがやってるのは反逆だぞ?捕まれば死ぬかもしれない」

ゴクリ、生唾を飲む。

「覚悟の上です」

「そうか」

ボスさんが帰ってくる。

「仲間たちの許可が下りた。ジン、お前の入会を認める」

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