EP6 覚醒

僕は目を開ける。

ここはどこだ?…なっ、手足が拘束されている。

手が背中側にあるせいで僕は床を仰け反った状態でじたばたすることしかできない。ボルケーノが近くで倒れこんでいるのは見えた。

「やあやあ、お目覚めかい?」

「お前は誰だ!…がぁぁッ!」

頭がジンジンする。僕は歯を食いしばる。

「私はルーデルだ。よろしく。それと君は頭を麻酔銃で殴られたんだ。あまり大声を出さない方がいいよ?まだ頭は治ってないみたいだからね」

「余計な…お世話だ!」

「まったく口の悪い奴だ、なっ!」

「ぐほっっ」

僕はお腹を蹴られ、吹っ飛んだ。

「せっかく殺さないであげたんだ。少し話をしよう、ドラゴニュート」

「なんの…話だ」

「そうだね、私たちが地球を滅ぼすって知った時、どんなことを思ったか聞かせてくれるかい?」

「そんなの決まっているだろ!お前らをッッがッ、あぁぁッ」

またしても頭が激しく痛む。

「そんなに大声を出さなくたって聞こえているって。うるさいくらいだ」

「お前らを!お前らを全員倒すッ!そう決めたッッ!」

「その結果がこの様か。笑えるな。君がどんなに地球を愛しているか、よく分かったよ」

『対地砲、充電完了』

ルーデルが満面の笑みを浮かべる。

「レノーシャ、私の合図で撃て。時間稼ぎに付き合ってくれてありがとう。さあドラゴニュート、これを見るがいい」

僕は窓の傍まで引きずられた。

「あれは、地…球?」

小さな青い星が見える。

「ああそうだ。お前の大好きな地球がバラバラに砕ける姿をその小さな目に焼き付けるがいい!!対地砲!発ッッ射ァァァァ!!!」

黄色い光線が地球に向かって放たれるのが見える。

「やめろ、やめろッッ!、やめろォォォォォッッッ!!」

「はっはっはっはっは!これですべてが終わるぞ!」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!なんで…なんでこんなことするんだ!」

「貴様らが赤い血を持つ者、抵抗と反乱と革命に燃える、愚かな赤い血族だからだッッ!」

光線が地球に到達する。だが光線は、四方八方へといなされる。

「何故だッ、何故砕けない?」

『おそらく地球にバリアが張られていたのだと思われます』

「忌々しい奴らめ。現在のそのバリアの様子は?」

『先の攻撃で粉砕した模様です』

「そうか。なら再充電を急げ!」

『はい、直ちに』

ルーデルが僕を見る。目が合う。僕は睨み返して言ってやった。

「ざまぁみろ!再充電なんて無駄だ!どうせお前らの攻撃じゃ地球なんか壊せないんだよ!」

「おお、いいことを思いついた」

ルーデルがまたニヤリと笑う。

「おい、誘導弾にドラゴニュート共を括り付けろ」

『りょ、了解。では回収に向かわせます』

「どういうことだ!」

「お前らに大好きな地球で死なせてやろうと思ってな。まあ、運よく生きて辿り着けたらだがな」

ルーデルが僕に麻酔銃の銃口を向ける。

「この銃は数発ならたいして体に影響は無いがな、お前は一発じゃ眠らないようだし、何より私を心底怒らせたからな、弾が尽きるまで撃ち続けてやる。死んでも知らんぞ。さあそれじゃあ一発目だ」


バン


僕の頭に直撃する。頭が…くらくらする。


バン、バン、バン


四発目で、タケルは力尽きた。

「まだまだいくぞッッ!」

――――――――――――――――――――

『誘導弾装填完了』

「発射。果たして生きて故郷に帰れるかな、ドラゴニュート」


タケルとボルケーノを乗せた弾は、地球に小さなクレーターをつくった。

――――――――――――――――――――

「司令、中国付近に、謎の落下物です」

「近くの職員にすぐに偵察に向かわせろ!」

「了解」

――――――――――――――――――――

『対地砲、再充電完了』

ついに来た。この時をどれ程待ったことか。

「よし、対地砲ッッ発射ァァッ!」

再び黄色い光線が、地球に落ちた誘導弾目掛け、一直線に進んでいく。

「さらばだ、ドラゴニュート。そして赤い血の者どもよ。壮大な最期を見せてくれ」

――――――――――――――――――――

「エスペーロ、エスペーロ起きて!大変よ!」

誰かに、呼ばれている。どこかで、聞いたことのある声のような気がする。でも呼んでいるのは、僕の名じゃない。

「ど、どうしたの?お母さん」

僕は目を開ける。

ここは薄暗い、小屋か何かか?その中に上半身を起こした一人の少年と、その傍に立っている女性がいる。どうやらエスペーロという人とその母親らしい。

僕はエスペーロの後頭部を見ている。動けないので顔は見えない。

なんだこれは。何を見せられている?夢か?現実か?それとも天国か地獄か?

「お父さんが…亡くなったわ」

天国ではなさそうなのはわかった。

僕は一度瞬きをした。すると目の前の光景がすべて消えていた。僕の周りに広がるのは、深い闇のみになった。

――――――――――――――――――――

「大変だ!空を見ろ!」

先程とはまた別の職員が、これまたものすごい形相で、扉を押し開け入ってきた。

「どうした?」

「空が、空が大変なんです。地球の終わりです」

私は急いで廊下の窓から空を見上げる。さっきはあんなに黄色くなかったはずだ。私は駆け出す。

「一体どこへ?」

「屋上だ!」

あれがなんなのか確かめなければ。

――――――――――――――――――――

僕はもう一度瞬きをする。すると、また別の光景が目に飛び込んで来る。さっきよりは大きな部屋にいる。

エスペーロと、母親とが、一人の横たわっている人間を挟んで、向かい合っている。今度もまた、エスペーロの後ろ姿を見ている。

焼いた肉のいいにおいがする。僕はびっくりした。いや、びっくりどころではない。

なぜなら横たわる人間をよく見ると、裸で、首から上がなく、肉が焼けている。この人間がいいにおいの正体だ。

「そろそろいいわね」

「お母さん、どうしてお父さんを食べるの?僕は嫌だよ」

「エスペーロ、これは先祖代々からの風習なのよ。死んだ者の肉を食べることによって、その者を自分の中に取り込むの。取り込んだ肉は、いずれ私たちの体をつくるのよ。そうすれば人は死んだ後も誰かの役に立てるのだし、いつまでも一緒にいられるわ。私たちがお父さんを食べることによって、お父さんは私たちの中で生き続けるのよ。それが"命を頂く"ということよ。エスペーロ、この村の住人は私たち二人だけになってしまったわ。ごめんなさい、私たちはあまり子宝に恵まれなかった。そしてもう、産むこともできなくなってしまった。だからあなたが、たくさん子供をつくりなさい。もう少し大きくなったら、村を出るの。それから誰かを心から愛しなさい。そして結婚をして子供をつくるの。この血筋を絶やしてはいけないわ。わかった?」

「うん、わかった。でも僕、お母さんと離れたくないよ」

エスペーロの母親が微笑む。

「その時にはきっと、私もあなたと一緒にいるわ」

「そっか。それならよかった」

エスペーロも嬉しそうに笑う。そして二人は父親に目を落とす。

「さあエスペーロ、いただきましょう」

「うん。お父さん、いただきます」

「いただきます、あなた」

あまりの光景に僕は目を疑った。

人が人を食べている?目を背けたいが首が回らない。目を閉じる。すると何も聞こえなくなった。

目を開けると、またそこにはただ闇があるだけだった。

――――――――――――――――――――

私は屋上で、『地球の終わり』の意味を理解した。地平線の彼方に向かって黄色い光線が落ちていくのが見える。あれはきっと敵の攻撃だ。どうやらタケル達は、止められなかったようだ。それもそうか、途中から諦めていたのだし、今更何かを感じるでもない。

いや、何も感じないわけではない。私にはあの黄色い光が、とても綺麗に見えてしまう。美しいと思えてしまう。暗闇を切り裂く黄色い光が、希望か何かに見えてしまう。

だがあの正体は、絶望なのだ。まもなく、地球は、終わる。

――――――――――――――――――――

俺ハ目ヲ覚マシタ。ココハドコダ?…地球?一体イツ戻ッテ来タンダ。ソウダ、タケルハ?ドコニイル?


ボルケーノが起き上がる。


『タケル!!起キロ!ソノ顔ト体ハ一体ドウシタンダ!?』


タケルの顔は、ルーデルの麻酔銃を喰らい続けたことにより、細胞が死滅し、腐り、顔の右半分が、口の上まで無くなっていた。そして体中の皮膚が、紫色に変色している。


タケルガ起キナイ…ダガ、マダ息ハアル。生キテイル。

俺ハ空ヲ見上ゲタ。黄色イ光ガ、コチラニ向カッテキテイル。敵ノ攻撃ダ。アレデ地球ヲ滅ボスノカ!?ナラ止メナケレバ。ダガ、ドウスル?恐ラク俺ノ炎デ対抗デキル程ヤワナ攻撃ジャアナイダロウ。

俺ハ近クニ金属ノ玉ガ転ガッテイルコトニ気ヅイタ。

モシカシタラアレガ…?シカシ違ッテイタラ?イヤ、ドウセモウ逃ゲラレナイ。ナラ少シデモ可能性ノアルコトヲシヨウ。


ボルケーノが誘導弾を抱えて飛び立つ。


ダメダ…!翼ニ力チカラガ入ラナイ。


ボルケーノがよろけ、落ちる。


フン張レ!マダイケルッ!


体勢を立て直して地面との激突を回避する。

そしてもう一度空に飛び出す。すると地面に触れようとした光線が、ぎりぎりで屈折した。


ヨシ!コノママ宇宙マデ持ッテ行ケバ…ダメダ、間ニ合ワナイ!

『タケル、今マデ、アリガトウナ』


光線がボルケーノに命中し、そのまま空に向かって突き進んで行った。

――――――――――――――――――――

『…トウナ』

ボルケーノの声がする。早く起きなければ。


タケルは目を覚ました。


僕の目の前で、ボルケーノが黄色い閃光に飲み込まれていく姿が、とてもゆっくりと見えた。

「ボルケーノォォォォォォォォ!!!!」


ドサッ


僕の近くに、黒焦げになったボルケーノが落ちた。

「ボルケ…ノ…」

僕は立ち上がろうとしたが、体の左半分が動かなかった。右足だけで立とうとするが、バランスを崩してすぐに倒れる。仕方なく匍匐前進でボルケーノの元を目指す。動くたびに、体が擦れて痛い。血もたくさん出ている。それでも、ボルケーノの元へ急ぐ。

「ボ、ボルケーノ、死ぬ…な…」

さっき叫んだ時に喉がやられた。声がしゃがれるし、大きな声が出せない。

「今、行く…ぞ」

ボルケーノは目の前にいるのに!なんで届かないんだ!もっと早く動けないのか!

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ」

右足に力を入れて思いっきり地面を蹴る。


ボフ


ボルケーノの上に飛び乗る形になった。顔の近くまで這い寄る。

「ボルケーノ…ボルケーノ、大丈夫…か?」

『タケ…ル?』

「そうだ、僕だ、ボルケーノ、大丈夫か?」

『モウ、ダメミタイダ。俺ハ死ヌ』

「そんな、やめて…くれよ」

『タケル、最後ニ…俺ノ願イヲ、聞イテクレルカ?』

「なんだよ願いって…」

『俺ヲ、食エ』

「…え?」

『無理言ッテルノハ分カッテル。ダガ頼ム、オ前ダケハ、死ンデハナラン』

「僕は…死なないさ、だから…そんなこと言うのは、やめてくれ」

『何ヲ言ッテルンダ、オ前ダッテ、重症ダ。俺ノ血肉ハ、傷ヲ治セル、ダカラ、俺ヲ、食ウンダ』

「じゃ、じゃあ…自分で、自分の肉を、食えばいいじゃんか」

『自分ノ肉ヲ、食ッタッテ、何モ起コラン。ダカラ、オ前ニ』

「でも…」

『頼ム』

ボルケーノが、とても悲しそうな目をする。

『人類ノ、世界ノ、為ダ…」

「わか、ったよ。ボルケーノが…望むなら。食えば、いいんだろ」

『アリガトウ。ソロソロ、潮時ミタイダ…』

ボルケーノが目を閉じる。

「待ってくれよ、まだ…」

『タケル…俺ハ、イツデモ、傍ニ、イルカラナ。今マデ、本当ニ、アリガ…トウ……』

そしてボルケーノは何も言わなくなった。

「ボルケーノ?返事してくれよ…なあ、ボルケーノ」

僕はボルケーノに抱き着いた。脈の音が…聞こえない。そして唐突に、エスペーロと母親の会話を思い出す。そうだ。ボルケーノを食べれば、ボルケーノと、ずっと一緒にいられる。

「ボルケーノ…いただき、ます…」

ボルケーノの腹の傍まで這い、腹の肉に噛みついた。

「アアアァァァアアッッッ!!!」


ブチブチブチブチッッ


僕は叫びながら肉を噛み千切った。そして噛み砕き、飲み込んだ。そしてまた噛みつき、噛み千切り、噛み砕き、飲み込む。

僕は一心不乱に続けた。味なんてわからない。

「ボルゲエエノォォォォ、アグッ、アガッ、アアアアアアアアッッッ」

目から水が出てきた。どうして?こんなのサイトウさんに真実の話をされた時以来だ。

「なんでだァァァァァ、なんで死んだァァァァァ、ボルゲェェェノォォォォ」

僕は出撃直前のサイトウさんとの会話を思い出した。僕がボルケーノの元へ急いでいると、サイトウさんに呼ばれたのだ。


「タケル、ちょっといいかしら?」

「はい、なんですか」

「もし敵の宇宙人に遭遇したら、構わず殺しなさい」

「え、殺すのですか?」

「そうよ。奴らは世界を滅そうとしている。絶対に許してはダメよ。死をもって償わせるのよ」

「わ、わかりました」

「ありがとう」

そして僕に抱きついた。

「わっちょっと、サイトウさん!急いでいるんですよ、僕」

「分かってるわよ」

そう言いながらも力を強めるる。こんなこと初めてで僕は困惑した。でも、すごく温かい。何故だか安心する。

「タケル、絶対に生きて帰って来てね」

「わかってますよ。大丈夫です」

サイトウさんが僕から離れる。

「頑張ってね」

「はい!」

僕はその場を走り去った。


「愛しているわ、タケル」

――――――――――――――――――――

『対地砲光線、誘導弾の破壊を確認』

「何故地球は原型を留めている?バリアはもうないのだろう?」

『分かりません、ですが光線は宇宙空間への放出が確認できるので、おそらく地球内で屈折をしたのかと』

「もういい、ルートを地球にセットしろ。直接手を下す」

『了解』

赤い血族めが、私がこの手で皆殺しにしてやる。ここまでムカついたのは久しぶりだ。絶対に許さぬ。

――――――――――――――――――――

僕は思い出した。僕は奴らを殺さなければならない。ルーデル、殺してやる。許さない。すると、ひたすら動かしていた口が、僕の意思に反して止まった。

僕の視界に一本の赤い横線が映る。なんだこれは。そしてその赤線はどんどん数を増し、くっついて、僕の視界を真っ赤に染めた。

目の前が真っ赤だ。何も見えない。頭が痛い。割れそうだ。体中震える。

「ハァ、ハァ、コロス、ハァ、ウゴォッ、ガッッ、コロスッオェァッッ」

感覚的に血を吐いたのがわかった。息が上がる。もう、ダメ…だ…


タケルの動きが止まる。四つん這いの状態で、ピクリともしない。意識はない。だが、急に立ち上がった。

「コロスッ、コロスッ、コロスッ!ウガァァァァッッ!!」

そう叫ぶと背中を丸める。すると、肩甲骨の辺りから、皮膚を突き破り、翼が生える。

「グァァァァッッ!」

尾骨の辺りから、2mほどの尾が伸びる。タケルは両手を広げ、胸を張る。

「ガァァァァァァッッッ!!」

体がどんどん大きくなり、皮膚が赤色になる。服が燃え尽きる。性器がなくなる。顔が元に戻り、後頭部から2本の角が生える。爪と耳は細く、鋭利になる。両目は真っ赤である。

「コロシテヤルッッ!」

地面を強く蹴る。タケルは飛び上がる。一瞬で地球防衛最終ラインを超える。

――――――――――――――――――――

『ルーデル将軍!小型艦4隻が機能停止!応答もありません!』

「何があった!?」

そんな馬鹿な。まだ奴らは強力な武器を隠し持っていたのか!

『何かがこちらに接近!』

「数は!?」

『一機…いや、一体。ドラゴニュートです…!』

「なんだって!?ありえない!!」

『もう、ぶつかります!回避できません!』

「衝突ポイントを予測!警備隊を配置だ!穴を塞ぐのも忘れるな!」

『了解!』


ドコォォォォォォンッッ!!


「コロシテ…ヤル…!」

――――――――――――――――――――

『緊急事態、緊急事態!エリア3にて故障発生!繰り返す!エリア3にて故障発生!』

「見つけたぞ!撃て!」

タケルが左右から撃たれる。実弾だ。距離はおよそ100m。左を向く。

「「「ヒッッ」」」

その形相は警備隊の隊員を凍り付かせる。

「怯むな…!撃てぇぇ!」

タケルが動く。先頭にいた二人の胸を両手が突き破る。抉り取った心臓を握りつぶす。

辺りが青い血で染まる。

二つの肉塊を振り払い、落ちていた銃を拾う。投げつけるとそれは三人の首を貫通した。

左の部隊の背後に回り込む。あまりの速さに真横を飛んでいたことにすら気づかれていない。

「どこに…行った?」

「…ろだ!!」

「え?遠くて聞こえな…」

そこで事切れた。タケルは真っ直ぐ飛びながら爪で傍の敵の首を切り落として進む。

「きっ来たぞ!撃て!」

右の部隊も、あっという間に屍と化した。

――――――――――――――――――――

『ルーデル将軍、警備隊と連絡がつきません!』

「カメラに姿は映ってないのか!?」

『早すぎて見えません!』

「スキャンは!?」

『見つけました。現在、操縦室付き…ブシャッ』

「レノーシャ!?応答しろ!」

まさか…殺られた?

――――――――――――――――――――

ボカァァァン!!


タケルが扉を蹴り破る。

「コロス…コロス…コロシテ…ヤル…」

「この声…本当にお前はドラゴニュートなのか…?」

「コロス、コロスッ、ルーデルッッ!!」

タケルが歩み寄る。ルーデルが後ずさる。

「落ち着けドラゴニュート、わかった、地球は破壊しない!だから…命だけはッ!頼む!殺さないでくれ!!」

「オ前ハ…ボルケーノヲ…コロシタァァァァッッ!!」

「ボルケーノ…?な、なんのことだ。私は知らない!」

ルーデルの背中が壁につく。両手で顔を覆う。

「悪かった!謝る!だから、殺さないでくれ!」

「笑エル、様ダナ」


ボト、ボト


ルーデルの両手が切り落とされる。

「ぎゃああああああああああああああっっっっっっ!!!!!」

「ドウダ、痛イカ?」

「やめろ、やめろっっ!、やめろぉぉぉぉっっっ!!」

「ウルサイ、奴メ」

タケルがルーデルの腹を蹴る。

「ぐほっっ」


ビチャッ!


ルーデルが血を吐く。そしてしゃがみ込む。

「お願い、だ…助けて…くれ。なんでも、するからっ!」

上目遣いでそう言った。

「ナラ、死ネ」

タケルはルーデルの頭を掴み、引き抜いた。


ブチブチッ!ブシャァァッッッ!!


ルーデルの首は捥げた。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッ!!!!!!!!」

青い血で染まった艦内にタケルの咆哮だけが響いていた。

――――――――――――――――――――

「……」

何が起こったのか、私には理解できない。あの絶望という名の光は突如屈折し、空の彼方へと消えていった。

「マイケル、司令?大丈夫ですか?」

「もう3時間近く空を仰いでますが…」


雲が流れる。光が差し込む。


「…見ろォ」

私は光のもとに指をさす。皆の目が吸い寄せられる。

「月だ…光っているぞ…」

「えっ月は太陽の光を反射してるわけだから…」

私は確信した。

「ああ、そうだ。勝ったんだ。人類は」

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