EP5 絶望の果ての覚悟
「クリムダーラ艦長。ステルスモードを解除したようだな。何故だ?」
『申し訳ございません、ルーデル将軍』
「お前は正体を明かさずにただ偵察に行けば良いのだ。実戦の経験も少ない雑魚のくせに私の命令が聞けないのか?」
『も、申し訳ございません。私が、必ずや奴らを殲滅させますのでどうかご容赦を』
「ほう、お前に出来るのか?」
『勿論です。仰る通り実戦の経験は少ないですが、必ず仕留めます』
「分かった。なら好きにしろ。我々はこのまま進む」
『ありがとうございます』
私は少し前の会話を思い出した。
やはりあいつは役立たずの雑魚だった訳だ。たかがドラゴニュートと人間の作った鉄屑如きにやられるとはな。
『ルーデル将軍、目標地点に到達しました』
「わかった。全艦停止、ステルスモード解除、対地砲の用意だ」
『了解。誘導弾発射』
――――――――――――――――――――
終わった。倒せたんだ。世界は救われた。
「帰ろうか」
『ソウダナ』
その時、司令から通信が入った。
『待て、タケル!まだ終わってない。敵がどこかに潜んでいる!』
「えっ」
僕は辺りを見回した。
『タケル、正面ダ!』
「嘘…だろ?」
『どうしたんだ、タケル!』
――――――――――――――――――――
「司令!敵艦出現!複数です!」
「数は!?」
「先程の戦艦と同じものが4隻…それと、先程のものより5倍ほどの大きさの十字形の戦艦が1隻です…」
全員が過去一番絶望しているのは顔を見ればわかる。
「なんてことだ」
「もう、お終いだ…」
私は何も言えなかった。諦めるなと言ったところで諦める他ないだろう。
先の戦いで12機を我々は失った。小型艦4隻倒すだけでも単純計算で数が足りない、ドラゴンのフルバーストはもう使えない…それに主力艦は同じ攻撃が通用しないかもしれない。
『司令、僕は行きます。倒してみせます』
――――――――――――――――――――
また敵が出てきた。あまりの大きさにびっくりしたが、怖がっているようでは倒すことなどできない。フルバーストが使えなくても戦闘機の数が少なくてもきっと出来る。
そう思う他なかった。
「全機進め!フォーメーションβだ!」
「「「了解」」」
僕を中心に逆さV字型に隊列を組む。
――――――――――――――――――――
「ルーデル将軍、ドラゴニュートと戦闘機38機がこちらに向かって来ます」
「そうか。半径7500万kmにジャミングを実行しろ」
「了解。ジャミング、実行」
――――――――――――――――――――
それは突如として起こった。まず、人工衛星からの通信が途絶えた。モニターは真っ黒になった。
「タケル、応答しろ!タケル!」
そしてタケルとも通信が出来なくなった。
「戦闘機とも通信出来ません」
「一体どういうことだ?」
「分かりません。ですが、おそらく妨害電波が流れているのかと」
「くそ、これじゃ向こうの様子が分からないじゃないか」
だが一番の問題は別にあった。
「司令、第三バリアの衛星が制御不能です!落ちて来ます!」
「なんだって!?」
ブラウンの言葉通り、第三バリアを張っていた衛星が第二バリアに衝突した。
「第二バリア機能低下!かなり深刻です!」
「第二と第一の衛星の様子は?」
「衛星はまだ制御できますが、第二バリアの出力が通常時の45%まで落ちています。第一の方はまだフルパワーです」
「そうか…」
そんな第二バリアに先の誘導弾が命中する。
「緊急事態!第二バリアに敵攻撃!一部破損です!」
「わかった。作戦通りECを実行しろ」
「ECですか!?」
「そうだ」
「ですがECを実行したら出力値がまた下がりますよ?ただでさえ45%しかないのに!」
「しかし穴が空いている方が危険だ。いいから、やれ」
マイケル司令の声は、いつになく険しかった。
「…了解。ECを実行」
ECとは衛星の故障などにより、バリアに穴が空いた時の対応策の名称である。故障した衛星を機能停止にさせ、付近の衛星に代わりをさせる。数基なら問題はあまりないと言われているが、一つの衛星が出力するバリアの面積が広がるので出力値は僅かながら下がるのである。
ブラウンはこれを危惧していたのだ。
――――――――――――――――――――
ふと、ボルケーノが止まる。
「全機、停止。どうした?ボルケーノ」
『大変ダ。俺ノアーマーノガ故障シタヨウダ。ジェットパックガ動カナクナッタ。他ノパーツモダ』
「わかった。じゃあ全部取り外そう。役に立たないんじゃ荷物になるだけだ」
『ソウダナ』
僕はボルケーノのアーマーに繋がっていたロープを切る。ボルケーノがアーマーを取り外している間、僕は宙にプカプカ浮いていた。
「ボルケーノ、大変だ…」
『ナンダ?』
その時僕は気づいた。ボルケーノのアーマーがただの故障ではないことに。
「AI達がついて来ていない」
『ナンダッテ!?』
ボルケーノが振り返る。
『本当ダ…』
「とりあえず司令に連絡しよう」
『ウム』
「司令、大変です!…司令?」
何故だか反応がない。
「司令!応答してください!マイケル司令!…ダメだ繋がらない」
「ドウヤラ通信機モ壊レタヨウダナ』
「じゃ、じゃあ、今戦えるのは僕とボルケーノだけで、地球とも連絡が取れないってことか…?」
『ソウイウコトダナ』
「そんな…」
その途端、僕は長く封印していた感情に襲われた。
…怖い。
あの大軍を僕たち二人で?勝てるわけがない。ボルケーノの武器はもう無い。AI達もいない。連絡も取れない。もう、僕たちは死ぬのか?ここで?こんな真っ暗な何もないところで?体中の震えが止まらない。
「ボルケーノ…僕、怖いよ。あんなの勝てるわけがない。ボルケーノもそう思うだろ?僕たちどうすればいいんだ?」
少しの間、沈黙の時が流れる。
――――――――――――――――――――
『タケル、オ前ノ覚悟ハソンナモノカ?前ニ言ッタダロ?俺達デ世界ヲ救ウッテ。アレハ嘘カ?デタラメダッタノカ?』
「そんな訳じゃないけど…」
分カッテルサ、タケル。
『モシ、オ前ガモウ戦エナイノナラ、俺ハ一人デモ戦ウゾ。オ前ヲ置イテナ』
「待ってくれよ、ボルケーノ。僕を一人にしないでくれよ…」
『時間ガナイ。早ク決メロ』
ソウダヨナ、オ前ハマダ10歳ダモンナ。普通ノ10歳ナラ、命ヲカケル決断ナンテ、ソウ簡単ニ出来ナイヨナ。ダガオ前ハ、ドラゴニュートナンダ。普通ノ子ジャナイ。
「わかったよ、ボルケーノ。僕も戦う。戦わずに死ぬより、戦って死んだ方がかっこいいもんな」
『ソウダナ』
済マナイ、タケル。
――――――――――――――――――――
僕はボルケーノの翼の付け根に座り込んだ。
『行クゾ、タケル』
「おう」
ボルケーノが動き出す。敵の艦隊に向かって。
『タケル、アノ量ヲドウ倒ス?』
「うーん」
どうすればいい?もうエンジンを壊して誘爆させることは不可能だ。
いや、ちょっと待てよ。不可能じゃないかもしれない。外側からは無理でも内側からなら…?
「ボルケーノ、いいこと思いついたぞ」
『ナンダ?』
「戦艦に潜入するんだ。そして内側からエンジンをぶっ壊す!そしてすぐさま逃げれば壊せるんじゃないか?」
『ウム、成功スル可能性ハ低ソウダガ、他ニイイ作戦モ無イカ…分カッタ、ヤロウ』
「多分一番大きなやつを叩けば敵は動揺すると思う。だからまずは一番大きい真ん中のやつだ」
『分カッタ』
――――――――――――――――――――
『ルーデル将軍、ドラゴニュートがこちらに向かってきます』
「そんなものほっとけ。いくらドラゴニュートでも老いぼれとレムリアンだ。我々に敵うはずがない。それより対地砲の方はどうだ?」
『はい、只今40%充電完了です』
「そうか、分かった。続けてくれ」
全て順調だ。私がまた新たな勲章を貰う様子が目に見える。人間には感謝しなければな。私の名誉の為に死んでくれるのだから。
――――――――――――――――――――
僕たちは目的の戦艦にかなり近づいている。だが、僕らは不気味な程にバレていない。まあ、こっちとしては好都合だが。
「なるべくエンジンの近くに乗り込んだ方がいいな。どこかいいとこあるかな?」
『アノ隙間ナンテドウダ?』
ボルケーノは艦底にある小さな隙間を見つけた。隙間といっても正方形の綺麗な穴だが。
「ボルケーノは通れるか?」
『大丈夫ソウダ』
「わかった。じゃあ入ろう」
僕たちはゆっくりと戦艦の真下に入り、穴から船内へと侵入した。穴の先は真っ暗な部屋であった。
『暗イナ』
ボルケーノはそう言うと自分の長い爪に火を吹きつけた。すると爪が蝋燭のように、小さな炎を灯した。よく酸素もないのに燃えるもんだ。不思議だ。辺りを見渡しても特に何もなかった。扉も空気すら無い。まだ無重力状態だ。
「あっ」
僕は壁に赤色の押しボタンが付いているのに気づいた。
「押してみるか?」
『任セル』
「わかった」
僕はボタンに指を押し付ける。ボタンは少し反発してから奥に押し込まれた。
すると穴が閉まる。そして密室となった部屋に空気が充満された後、壁の一部が開いた。
『オオ』
「行こう」
僕たちは通路へと出た。長い一本道だ。
「どっちに行く?」
右に行くか、左に行くか、だ。
『穴ニ入ル時、エンジンハ右手側ニアッタカラ、右ダ』
「わかった」
ボルケーノとボルケーノに乗った僕は右に進んだ。
――――――――――――――――――――
『緊急事態、緊急事態。侵入者発見。ダスト室にて侵入者発見』
『ルーデル将軍、いかがいたしましょう?』
「警備隊を向かわせろ。おそらく奴らはエンジンを狙う筈だ。捕まえて私の部屋に連れて来い」
『了解』
エンジンを壊すことしか考え至らない単細胞な奴らか。まあ通信も妨害されてる訳だしな。しかし大胆にも乗り込むとは大したものだ。その愚かさは認めてやる。
――――――――――――――――――――
『サテ、ドコニアルンダ?』
僕たちはずっと真っ直ぐ飛んでいるが、なかなか辿り着かない。
「あの曲がり角の奥じゃない?」
『カモシレナイナ』
するとそこから身長が5mはあるであろう巨人達が現れた。
あれが敵の正体…?でかすぎる。
「貴様ら、止まれ!」
巨人のうちの一人が叫ぶ。
「ボルケーノ、逃げるぞ。来た道を戻ろう」
『オウ』
すると後ろからも巨人が来た。
しまった、挟み討ちだ。
「無駄な抵抗はするな」
敵は銃のようなものを構える。
『捕マッテタマルカ!』
ボルケーノが一瞬で敵に近づき、炎を吐く。
「敵を撃てぇぇ!」
巨人用に造られた為か、幸いにも通路には十分な広さがある。しかし何発かは避けれたが、まず的が大きいボルケーノに命中した。ボルケーノは倒れ込んだ。僕の体はボルケーノの下敷きになってしまった。
「梃子摺らせやがって」
僕も撃たれてしまった。体中が、痺れて、動けない!
「こいつまだ目が開いているぞ」
「やっちまえ」
「わかった」
ゴシャッ
僕は頭に強い衝撃を受けた。
タケルは気を失った。
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