EP4 終わりの始まり
太陽が姿を消した。
地上はパニックに襲われた。地下に逃げることの許されなかった無垢の者達は世界の終焉だと嘆き、次々に集団自決していった。
全てを知る者も預言通りにならず、強い恐怖に囚われた。
――――――――――――――――――――
「タケル、早急に私の部屋まで来い!」
マイケル司令に通信機越しにそう言われたのは、AIとの合同水中訓練の休憩中であった。とても大事な用なんだと、声でわかった。
とにかく急いで身体を乾かし、着替えて三階の渡り廊下を走っていると、なんだか窓の外が暗い気がした。
外を覗くと、驚いた。空が黒いのである。しまった!もう夜になってしまったていたのか。今日は夕方から大事な会議があったのに!そうか、僕はそれで怒られるのか。
まあ考えるのは後だ。とにかく急ごう。
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数分前、太陽消滅直後。
「みんな、落ち着け!サイトウ、太陽探査機からの画像は?」
「問題ありません。太陽はしっかりと映っています」
「となると地球と太陽の間に敵の戦艦があるわけだな。それによって太陽が隠されたと。他の衛星で戦艦の姿をとらえたものはあるか?」
「いえ、ありません」
「そうか。ステルス機能で隠れている可能性が高いか。よし、司令官に報告だ」
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「マイケル司令!どういった用でしょうか!」
ここに来るまでにたくさんの慌てふためく人たちを見た。どうしたのだろう。
「タケル、来る途中に窓から外は見たか?」
きた!怒られるぞ。
「はい、もう夜でした!時間に気づかずに訓練を続けてしまいすいませんでした!」
「何を言っている。今は夜ではない。時計を見ろ、午後2時ちょうどだ」
…本当だ!じゃあまだ訓練時間中じゃないか。
「じゃあなんで空が黒かったのですか!?」
「うむ、緊急事態だ。預言されていた日より、18日も早く敵がやってきたようだ。早速だが、タケルには訓練の成果を見せてもらう」
「ってことはつまり…」
「そう、出撃だ」
ついに始まるのか。敵との戦いが。
身が引き締まる思いだ。
「タケル、通信機は専用のにつけ直しとけ。地球から指示を出す」
「はい」
「それでは、出撃の用意をしろ」
「了解」
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僕は準備に取り掛かった。
まずは服を着替える。戦闘用の服だ。−150〜200℃まで耐え、衝撃吸収、体温調節などもしてくれる防護服だ。とても軽い。僕は宇宙空間でも無防備でなんの問題もなく動けるので、宇宙服は着ない。
そして通訳機と同じようなうどん型の通信機を右耳に装着して準備完了。
僕は自室を後にし、ボルケーノのところへ向かう。
「タケル、待って」
途中でサイトウさんに呼び止められた。少し話した後、すぐに別れた。
――――――――――――――――――――
「ボルケーノ、出撃だ。準備は大丈夫?」
『オウ、イツデモイケル』
「クロウリーさん、AI達はどうですか?」
『準備オーケーだ』
『総員、用意はいいか?』
司令の声が館内放送で響く。そして天井が開き出す。
「はい!」
「ウゴォォォ!」
ボルケーノが吠えた。僕以外の人間にはボルケーノと話すことはできないが、ボルケーノには人間が何を言っているのかわかるらしい。
『よし、地球防衛軍、出撃!』
ボルケーノがジャンプし、飛び立つ。ジェットパックが点火する。
後ろを振り向くと、AI戦闘機がそれに続く。建物がどんどん小さくなっていく。
僕は前を向き直した。もう前しか見ない。
『タケル、そのまま真っ直ぐ飛べ。その先に敵艦があり、その奥に太陽がある』
「了解」
僕たちは宇宙空間へと出た。
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「クリムダーラ艦長!地球からドラゴニュートと思しき連中がこちらに向かってきます!」
「そうか。ならば正々堂々戦ってやるとしよう。ステルスモード解除だ。力の差を見せつけてやる」
――――――――――――――――――――
「敵艦出現!地球最終防衛ラインまで、およそ1億4956万2000kmです!」
どうやら敵が出てきたらしい。
「大きさの測定を急げ」
「了解」
「タケルの現在地は?」
「第一バリア地点突破まで5m…突破しました」
「よし、第一バリア展開!」
地球が赤い膜に覆われた。
「敵艦の観測データ出ました!全長500m、横幅240m、上下幅80m!先端がU字型に開いています。映像出します」
部屋の一番大きなモニターに敵艦の姿が映った。上から見ると横長の長方形の先にクワガタの角がくっついたような形をしていた。そして横長の長方形の中央に大砲らしきものが搭載されていた。
「嘘だろ…」
「デカイな」
「なんてことだ」
管制室内では口々に感想が述べられていた。
「静かに。弱点は見つかりそうか?」
「まだなんとも言えません」
部屋の中が静まり返る。
「装甲は?」
「地球外の物質でできています。なので強度などは不明です」
「そうか。とりあえずタケルたちに攻撃を試してもらうしかないか」
――――――――――――――――――――
僕たちが敵艦に近づくにつれて、どんどん大きくなっていく。まだ攻撃はこない。おそらくは射程外か?まぁこっちもそうだけれど。
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「第二バリア地点突破!バリア展開します!」
地球がもう一枚の赤い膜に覆われる。
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司令から通信が入る。
『タケル、敵艦のことを私たちは何も分からない。だから装甲に向かって水爆を投下させてみるしかない。かなり危険だが大丈夫だな?』
「わかりました。近づいたらやってみます」
僕たちは第三バリア地点を突破した。最終防衛ラインまであと少し。
いよいよ本格的な戦いが始まる。
――――――――――――――――――――
「最終防衛ライン突破!」
「そうか。遂に始まるか。タケルの敵艦までの距離は?」
「およそ12万2500kmです!」
「随分と近くなったな。このままだと数分で射程内に入るか」
――――――――――――――――――――
敵の船がかなりはっきりと見える。あまりの大きさに圧倒されそうだ。
『タケル、間もなく射程内に入る。戦闘隊形だ』
「了解。全機、戦闘隊形!フォーメーションα発動!」
僕を中心に両脇に10機ずつ並び、背後に30機が均等に並ぶ。戦闘機は全部で50機である。見た目は前に僕を追いかけたやつと似ている。
――――――――――――――――――――
「クリムダーラ艦長!ドラゴニュートが射程圏内に入りました」
「分かった。側面の小型レーザーキャノンでまず戦闘機を潰せ」
「了解」
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敵が攻撃を開始した。
「前列の20機は敵の攻撃に注意しながらキャノンを壊せ!後列の30機の内、41〜50号機の10機は散らばって敵艦の上から爆弾を落とすんだ!残りは前列に加勢!」
ボルケーノに装備されているAI制御装置のマイクに叫ぶ。
「「「
――――――――――――――――――――
戦闘が始まった。
敵の黄緑色のレーザーをすり抜け、我々の戦闘機が攻撃していく。私たちはただ見守るだけである。
その時、10機あるうちの一機が最新型の水素爆弾、テュラン・ボンバを命中させた。
「敵艦への被害は!?」
重たい声が返ってきた。
「…確認できません。どうやら装甲があまりにも硬いようです。傷一つありません」
空気が静まり返る。
「じゃあどうすればいいんだ」
誰かが呟いた。私だってそう思う。あの爆弾が一番破壊力のある武器であった。あれが地球に落ちれば、街一つは軽く滅びる。
「エンジンを破壊して誘爆させたりできませんかね?」
サイトウが言い放った。
「ブラウン、どうだ?いけそうか!?」
「誘爆は分かりませんが、動きを止めることは可能だと思います。動きが止まっている間にすべての爆弾を打ち込めばそのまま破壊できるかもしれません!」
「「「おおおおお!!!!!」」」
部屋中が湧いた。
「タケル、聞こえるか?」
『はい』
「今の攻撃を中止させて敵艦のエンジンを狙え」
『了解』
「ブラウン、エンジンの場所は?」
「噴出口の近く、敵艦後方です」
「タケル、敵艦の背後に回るんだ。そこにエンジンがある」
『わかりました』
「司令、戦闘機の攻撃だけでは無理です。ドラゴンについてる大砲を
「分かった」
「タケル、ドラゴンのフルバーストを一点に集中させ、装甲を破壊し、その中に戦闘機を突撃させるんだ」
『わかりました』
破壊された戦闘機はまだ2機。これなら…勝てるかもしれない。
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「全機、敵艦の背後に回れ!一斉にエンジンを攻撃だ!背後に回ったらフォーメーションγ!1号機と2号機は援護してくれ!」
「「「了解」」」
1号機と2号機に挟まれ、僕とボルケーノは敵艦の背後に向かう。
「ボルケーノ、モード・フルバーストの用意だ」
『オウ、任セロ。ブッ壊シテヤル』
ボルケーノはたくさんの大砲で武装している。機械のアーマーに身を包み、左右の翼に五門ずつレーザー砲があり、腹部にはミサイルも搭載されている。
――――――――――――――――――――
「クリムダーラ艦長!敵が我が艦の背後に回りました!」
「方向転換を急げ!引き続きキャノンで攻撃!なぜあんな小物が仕留められない!」
「的が小さい上に高速で移動するため当たりにくいのです。それに比べて我々は先程より減速していますし、何より的が大き過ぎます」
「くっ…このままでは…」
――――――――――――――――――――
「「「隊長、フォーメーションγ展開完了。いつでも撃てます」」」
横一列に僕らは並んだ。敵艦の動きに合わせ僕たちも移動するが、照準は定まっている。
「うっ、凄い熱だ」
3つの巨大な円形の噴出口から、ものすごい熱が吹き付ける。僕の服が溶け始めている。
「ボルケーノ、充填開始!全機、攻撃開始!」
エネルギーの凝縮までの間に試しに一斉にレーザーで攻撃するが、やはり装甲は厚い。
「噴出口の中を狙え!」
『タケル、イイゼ』
「よし、狙いはど真ん中だ」
『マカセロッッ!』
「ポインター、よし!一点集中!いくぞ!!発射ァァァッッ!!!」
僕はフルバーストのボタンを押す。ボルケーノの積んでいる全てのエネルギーを凝縮させた一発が、中央の噴出口目掛け放たれる。その一撃は敵の戦艦に穴を開けた。
「今だ!21~30号機!!あの穴に全速力で突っ込め!!!」
僕の両脇にいた5機ずつが、特攻をしかける。
「21〜30号機の指揮系統を統合。テュランボンバ起爆用意!」
丸形押しボタンが赤く光る。
「起爆ッッ!!」
僕は筒を握りしめ、ボタンを押し込む。
目の前で大爆発が起こる。すぐさま20号機が盾となってくれて、爆風をしのげた。
そして訪れたのは静寂。敵艦は宇宙の彼方へ沈んでいった。
――――――――――――――――――――
「…どうなった?」
私たちはモニター越しに強烈な閃光を見た。
ドラゴンが真ん中の噴出口を破壊し開けた穴に10機の戦闘機が突っ込み、艦内で水爆を爆発させたのだ。
「敵艦…撃沈…やりました!!!破壊成功です!!!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」」」
誰もが叫び、手を取り合い、喜んだ。私もだ。やったのだ!脅威を排除した!人類の勝ちだ!!!
「皆の者聞くがいい!タケルが敵艦を破壊した!人間が宇宙人に勝利したのだ!!!」
私は館内放送で叫んだ。
バァン!!!
するとそこに青ざめた顔をした職員が凄まじい勢いで扉を開け、言い放った。
「太陽が…見えません!!!」
「「「ッッッ!?」」」
皆、黙りこくった。
「そんな馬鹿な!」
私は急いで廊下に出て窓から空を見上げた。そこには、煌めく星々の姿しかなかった。
「今…何時だ」
「3時13分です…」
まだ戦いは、終わっていない。
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