EP3 戦闘準備

僕は目を覚ました。どうやら眠っていたようだ。ぼやけた目で辺りを見渡すと、ある異変に気づいた。ここはどこだ?どうやらまた新しい部屋に連れてこられたらしい。

…そんなことより大切なことに気がついた。ボルケーノがいない!

「ボルケーノ!!」

叫んでも返事はない。

「やあ、やあ!目が覚めたかいタケル!!」

ボルケーノではなく、男の声がした。だんだん目が慣れてきた。僕の目と鼻の先に一人の男が立っていた。

「お前は誰だ!ボルケーノをどうした!」

僕は立ち上がって近づこうとしたが何かにぶつかった。

「そこには透明なガラスの壁があるからね、私に近づくことはできないよ?」

透明とかガラスとかはよくわからなかったが近づけないことはわかった。

「お前は誰だ!」

と、もう一度聞いた。

「ああ、そうか。自己紹介がまだだったね。これは失礼。私はクロウリー・オーガストだ。君のことを色々研究させてもらっているよ」

「なんで僕はこんなとこにいるんだ!ボルケーノはどこだ!」

「さっきから言ってるボルケーノとは誰のことだね。まさかドラゴンの名前かい?」

「お前には関係ない!」

「そうかそうか。まあドラゴンは別室にいるから安心したまえ。殺したりしないさ」

その言葉を聞いて、少し安心した。

「クロウリーさん、政府の方が参られました」

どこかで聞いたことのある声がした。

まさか、この声は…

「オーケーオーケー。どうぞ入って下さい」

男のいる部屋の左の方にある赤い扉から、何人かの人が入ってきた。

「……お母さん!?」

なんで…なんでこんな所に?

「どういうことだ!クロウリー!説明しろ!」

口を開いたのはお母さんだった。

「誰に向かって口を利いてると思ってるんだ!この礼儀知らずが!」

「えっ…」

僕は絶句した。あんな怖いお母さんは初めて見た。こんなの、お母さんじゃない。

…ああ、そっか。今言ったのはお母さんじゃないんだ。うん、きっとそうだ。でも、なんで声が似ているんだろう?

「こんな子供が世界を救うのか?」

黒い服を着た男が言った。世界を救う?

「おっしゃる通りです。彼の名はタケル。タケルはドラゴンを操れる。預言石にでてくるドラゴニュートとはタケルのことです!」

クロウリーが高らかに宣言した。

「ほう、ドラゴンを操れるのか」

「そうです。ドラゴンもお見えになられますか?」

「ああ、是非」

「わかりました。サイトウ、少しタケルを見ていてくれ」

「了解です」

さっきの扉からクロウリーと3人の黒服の男が出て行った。そしてガラスを挟んで僕とお母さんの2人きりになった。僕は話しかけた。

「お母さん、さっきの声はお母さんじゃないよね?それにあんなにたくさん呼んだのに、なんで戻ってきてくれなかったの?ここはどこなの?」

「うるさい!」

さっきのと同じ声が響く。そばにいるのはお母さんだけ。そんな…嘘だ…なんで?

「ごめんなさい」

そうつぶやいたお母さんが僕を見た。目が合う。

「ここは内陸の研究所。どうせ地名を言ってもあなたにはわからないわ。今まではあなたがドラゴニュートかどうか確かめる為に観察していたの。そして私はあなたの母親ではない。だから今後はサイトウと呼んでいただきたい」

お母さんがお母さんじゃない?どういうことだ?

「嘘だよね?お母さんはお母さんだよね?」

「…確かに研究の為に私はあなたの母親を演じてはいた。でも本当の母親ではない。あなたは龍牙城遺跡の近くの森で発見された集落の最後の生き残り。龍牙城遺跡を調査に行った時、私は偶然あなたを見つけた。そして保護した。それで私はあなたの母親を演じながらあなたの観察をしていた。そしたら7年後、預言石によって地球滅亡が迫っていること、それを救えるのはドラゴニュートだけだということがわかった。そこであなたに目をつけたのが私とクロウリーさんだった。彼はイギリスの人で龍牙城遺跡を研究していた。だからあなたのことも知っていた。後はあなたを今の研究所に移して真っ暗な部屋に閉じ込めてドラゴニュートの力が覚醒するのを待ったのよ。これも地球を救う為。悪く思わないでね」

サイトウさんが微笑んだ。つまりすべて僕の勘違いだった訳だ。僕がお母さんだと思っていた人はただ役を演じていただけ。急に足に力が入らなくなってその場に崩れ落ちた。

何故だか、目から水が溢れ出てきた。

――――――――――――――――――――

少し経つとクロウリーさんが入ってきた。

「タケル!後数時間したらトレーニングが始まるからしっかり準備するんだぞ!」

「トレーニング?」

「そうだ。地球を救うための訓練をするんだ」

「あの…お腹が…空きました…」

とんでもないこと続きで忘れていたが、急にお腹が空いてきた。

「…ああ!そうだった、そうだった!君は2週間前から何も食べてなかったんだね!よし分かった。すぐ用意しよう」

そう言うとクロウリーさんとサイトウさんは赤い扉から出て行ってしまった。

僕は暇になった。お腹が空いて何かすることもできないし、第一この部屋には何もないし。困ったな。そういえばサイトウさんは僕のことなんて言ってたっけ。ド…ドラ…ドラゴニュート?なんだそれは。僕は人間じゃないのか?でも、僕がいないと地球が滅ぶらしい。それはダメだ。この地球はみんなの世界だ。誰にも滅ぼさせない。黒服の人も言っていた。この世界は僕が守るんだ。

――――――――――――――――――――

「お待たせタケル」

そう言ってサイトウさんが戻ってきた。そして机の上の装置をいじるとガラスの壁が開いた。

「おいで。そしてついてきて」

サイトウさんに続き、赤い扉から部屋の外に出た。

「ここは廊下と言って部屋と部屋を繋ぐ通路のことよ。そして私たちはあなたのご飯が用意されている部屋に向かっているの」

僕がきょろきょろしていると、サイトウさんが教えてくれた。

「ここよ。入って」

言われたとおりに指示された部屋に入った。そこには長いテーブルとその周りにたくさんの椅子が均等に配置されていた。僕は真ん中の椅子に座らさせられた。すると僕の前にたくさんの料理が運ばれてきた。カレーやハンバーグ、鶏肉や魚の唐揚げ、お刺身、他にもたくさん。ご飯やパンやスープももちろんあった。

「これ全部食べていいんですか?」

「ええ、もちろん。心ゆくまで食べて下さい」

「やったー!いただきます!」

クロウリーさんは2週間何も食べてないと言った。もうそんな経っていたのか。まあ、そんなことはどうでもいいや。

僕は一心不乱に食べまくった。

――――――――――――――――――――

「腹は膨れたかい?タケル」

僕がデザートのフルーツパフェを食べている最中に、クロウリーさんが目の前に座ってきた。

「すぐ食べ終わるんでちょっと黙っててください」

「ああ、すまない」

サイトウさんに肘で小突かれたが、無視した。

「ごちそうさまでした!おいしかったです!」

そう言うとパフェのお皿が片付けられてテーブルの上には何もなくなった。

「いやあ、驚いたよ。まさかあの量をこんな短時間で食べ終わるとは。それに箸やスプーンを使うのは初めてだろう?よく上手に使いこなせたね」

「まあ、お母…いや違う。サイトウさんが使っていたのを長いこと見てましたからね」

「なるほどなるほど。となりに座っているサイトウもびっくりだね。さて、今後のことだが、話してもいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「オーケー。まずだな…」

――――――――――――――――――――

僕は今、アメリカというところに来ている。訓練の為だ。ご飯を食べた後は、着替えさせられ、車というものに乗り、空港というところに行って、今度は飛行機というものに乗り、また空港というところに行って、車に乗り、目的地である地球防衛軍の本部に向かっている。

クロウリーさんに教えてもらったのはここまでだ。後は着いてからわかるそうだ。

僕は今に至るまで移動中ほとんど寝ていたので体の調子が最高にいい。

「さあ着いたぞ」

そして僕は大きな男の人の前に連れていかれた。男は椅子に座っている。

どうやら僕らのはないようだ。

「タケル、これを右耳につけてください」

僕はサイトウさんにうどんのようなものを渡された。

「この太麺のうどんの切れ端みたいな物は何ですか?」

サイトウさんとクロウリーさんが同時に笑い出す。

「違うわタケル。これはうどんじゃなくて通訳機っていう物よ。あのマイケル最高司令官が英語を話すから、これを耳につけて会話ができるようにするのです」

よく見ると、前にいるマイケルという人も耳に通訳機をつけていた。僕も急いでつけた。

「準備は整ったかな御三方?」

「はい、大丈夫です。お待たせしてすみません、司令官」

クロウリーさんが言った。

「いいや気にしないでくれ。ではまずでは自己紹介だ。私はジョン・マイケル。国際連合管轄の地球防衛軍の最高司令官だ。よろしく、私たちのヒーロー《ドラゴニュート》」

「タケル、あなたも自己紹介して」

サイトウさんが囁いた。

「えっと、僕は!タケルです!よろしくお願いします!」

さっきサイトウさんに習ったお辞儀というものをした。

「はっはっは!いい挨拶だ。よろしく、タケル」

「はい!」

僕は顔を上げて答える。

「では訓練の前に、まず大まかな作戦の概要を説明するぞ。タケル、君には地球防衛軍の隊長として人工知能を使って完全に武装したドラゴンに乗ってもらい、敵艦の破壊をお願いしたい。君の後に続くのはAI軍団だ。AI達への命令も君の仕事だ。敵はどのように地球を滅ぼすつもりなのか全くわからない。だが考えられるパターンは2つだ。一つは上陸型。これはそのままの通り【創造主】という宇宙人が地球に降り立ち、全生命を直接的に殺戮する方法。もう一つはレーザー型。これはSF映画の様に敵艦から放たれるレーザーによって地殻に穴をあけ、地球の核を破壊し、内側から文字通り地球を破壊する方法。どちらにしても勝利するには敵艦の破壊しかない。我々もできる限りの抵抗はする。今、地球の周回軌道上には、低軌道、中軌道、静止軌道の三つを合わせ、約6万機の人工衛星が均等に周回している。それらの軌道をタケル達が抜け出すたびに人工衛星がレーザーバリアを張っていく。つまりタケル達が低軌道外に出たのを確認したら低軌道上に、中軌道を脱したら中軌道上に、静止軌道から出たら静止軌道上にバリアを張るというわけだ。だからタケル達には地球から38000m以上離れた地球最終防衛ラインより遠いところで戦ってもらう。万が一に備えてほとんどの人間は地下シェルターに避難している。だがあまり効果はない。一般人が少しでもパニックを起こさないための気休めにしかならない。どうやら、既に暴動も起きているらしいがな。まあこんな話はどうでもいい。話しが逸れて済まない。作戦の概要はわかったか?」

「まあ大体は」

「そうか。なら結構。高度などは作戦中にも指示するから安心してくれ」

「わかりました」

マイケルさんが立ち上がった。

「さて、地球に残された時間もあと44日だ。そろそろお待ちかねの訓練に取り掛かろうか」

「はい!」

――――――――――――――――――――

その後僕は訓練着に着替えて訓練を始めた。無重力空間に対応できるように水の中でのミッションや、AIとの合同訓練。久しぶりにボルケーノと再会し空を飛び回ったりもした。そう、青い空だ。車や飛行機からちょっと見えていたけれど、ちゃんと見たのは訓練の初日だ。

僕は感動した。守らねばならぬとも思った。

訓練の後はボルケーノとの約束通り、世界の色々なものを見て回った。

山や谷や砂漠やジャングルや誰もいない街なども。

世界中を飛び回る間に珍しいらしいものもたくさん見た。オーロラや人のいる街、流星群とかいうやつも見た。どれもこれも美しくて価値があった。滅ぼすなんて意味が分からないと思った。

『全テ守ロウ。俺タチデ』

ボルケーノもそう言った。僕は頷いた。

「そんなの当然さ」

――――――――――――――――――――

地球に残された時間が残り18日のその日、事件が起きた。

「そんな、ありえない!計算が間違っていてのか!?そんなまさか!!」

「ならどうして…どうして太陽が欠け始めているのですか…!?」

「……」

世界は闇に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る