第一章 地球防衛篇
EP1 出逢い
7年前、青森の奥地である遺跡が発掘された。その遺跡からはヲシテ文字が刻まれた粘土板や、翼や尻尾のついた土偶が発見された。その土偶が龍に似ていたことから、その遺跡は
考古学者達はヲシテ文字の粘土板に目をつけた。粘土板や土偶から年代を測定すると、なんと30万年前という結果が出た。人類の祖と言われている、アフリカのミトコンドリア・イヴでも20万年前とされている。これは人類史をひっくり返す大発見であった。
そして、現在―――
僕は目を覚ました。最初に見えるのは真っ白の天井。体を起こすと真っ白の壁と真っ白の床が目に入る。
内側からは絶対に開かない扉が開き、お母さんが朝食を持って入ってきた。
「おはよう、タケル。調子はどう?」
いつもと何も変わらない。
「大丈夫だよ」
「そう、よかったわ。朝ごはんにしましょう。椅子に座ってちょうだい」
そう言ってお母さんは僕の白い椅子の前にある白いダイニングテーブルに朝食の乗ったお盆を置いた。そして僕と対面する位置の椅子に座った。僕も急いで椅子に座った。
そして掌をぴたりと合わせて、
「いただきます」
と言った。そしてそのまま口を開く。そこにお母さんがスプーンですくったスープを運ぶ。今日はコーンスープだった。
「どう、美味しい?」
「うん、美味しい」
それからパンや目玉焼きやウィンナーを食べさせられ、今日の朝食は終わった。
食後はすぐに歯を磨かれた。
「また後で来るわね」
そう言い残してお母さんは部屋を後にした。いつもこの後にお母さんと勉強をして、昼食を食べ、また勉強をし、夕食を食べてそして寝るのだ。もう何回も同じことの繰り返しだ。
「お母さん、空ってなあに?」
いつも勉強の時は本を読む。そしてわからない所はお母さんに聞くのだ。
「空…」
お母さんは難しい顔をした。
「えっとね、タケル。空っていうのは…世界の一番上のことをいうのよ」
「世界?世界ってなあに?」
またしてもお母さんは難しい顔をした。
「世界っていうのは…タケルの今いる場所のことよ」
「ふぅん。ここのことを世界っていうんだ。あれ?でもここは家じゃないの?」
今度はとても驚いた顔をしたお母さん。
「あ、あのね、家のことを世界ともいうのよ。わかる?」
「うん、まぁ、なんとなく」
「そう、よかったわ」
「ちょっと待ってよ、お母さん。この本には空は青いって書いてあるのに、この世界は空が白いよ。どういうこと?」
「そ、そうね。人間にはそれぞれ一つの世界があって、きっとこの本を書いた人の世界の空は青かったんでしょうね」
「そっかぁ。お母さんの空は何色?」
「私の空は…白色よ」
「僕と同じだね。青い空か…見てみたいな…」
「…今日はお終いにしましょう。夕食を持ってくるまで待っててね」
そう言ってお母さんは本をもって僕の
「じゃあ、早く寝るのよ。おやすみ」
「うん、おやすみ」
気づいたらもう寝る時間だ。
<一日は一瞬のように過ぎるのに、一生を生きるには無限のような時間を有する>
前に読んだ本に書いてあった。僕はきっと明日も明後日も同じことを繰り返すのだろう。永遠に。なぜなら、この世は不変だからだ。別の本にはこう書いてあった。
〈この世界は、何度も同じ事を繰り返す。生を受け、育ち、死するのだ。この流れから抜け出すことは出来ない。そう、永遠に。物事は全て、この絶対的なサイクルを廻り続けるのだ〉
――――――――――――――――――――
それは突然起こった。
地球に、星が降ったのだ。
場所はアフリカ大陸の南東部。周囲は壊滅的な状況に陥った。
が、それよりも注目されたのはことは星の正体であった。星には文字が刻まれていた。そして星の成分を分析すると月で採掘された石と同じ成分であった。
つまり、月から文字の刻まれた石板が降ってきたのである。そこに刻まれた文字はヲシテ文字に酷似していた。
それは
『地球に危機が迫っている。我らによって太陽が隠される刻、創造主が軍を率いて地球を滅ぼしに来る。救えるのはドラゴニュートのみ。』
ドラゴニュートとはなんなのか。龍牙城遺跡の粘土板に次のような記述があった。
『ドラゴニュート。神から賜りし龍王の血。ドラゴニュート。龍を操り世界を統べる者。ドラゴニュート。その姿は人。ドラゴニュート。絶望の淵に龍が出でる。』
つまりドラゴニュートとは龍、ドラゴンを操る人間のことである。
そしてタイムリミット。それは『我らによって太陽が隠される刻』。推測するに、『我ら』とは星を落とした正体、つまり月に住む何者かである。月によって太陽が隠されるとすると、それは日食である。
次の日食は66日後の東京で観測されるもの。それがこの地球に残された時間。この事実を知った研究者や各国のトップ達はすぐさまドラゴニュートの捜索を始めたのであった。
――――――――――――――――――――
永遠に繰り返されるであろう僕の日々に、変化が訪れた。
ある日、勉強の時間になるとお母さんは本ではなく先端に針がついた手のひらサイズの器具を持ってきたのだ。
「お母さん、これは何?」
「これは注射器と言うのよ。ちょっとちくっとするけど目をつぶって我慢できる?」
「…できる」
「そう、偉いわね。じゃあ目を閉じて」
お母さんに褒められたのが嬉しかった。だから左の二の腕が痛んだけれど頑張って我慢できた。するとだんだん意識がぼんやりとしてきた。
「もう眠ったわ。さぁ、運んで」
――――――――――――――――――――
僕は目を覚ました。最初に見えるのは真っ白の…いや、真っ黒だ。何かがおかしい。
目を触った。まぶたは開いている。目を凝らすと薄っすらだが手も見える。目の異常ではない。周りを見渡した。溢れんばかりの黒、黒、黒。僕は困惑した。急に息が切れ出して胸がドキドキしだした。なんだこれは。
僕の世界ではない、真っ黒な世界。
「お母さん!!」
返事はなかった。僕の声は漆黒の闇に吸い込まれていった。
「お母さん!!お母さん!!お母さん!!」
何度も叫んだ。何度も何度も。
「お母さん!!どこに行っちゃったの!?ここはどこ!?怖いよ!!怖いよ!!助けて、お母さん!!」
叫びすぎて、喉が燃えるように痛んだ。でも、それでも、叫び続けた。
――――――――――――――――――――
「まさか2週間も飲まず食わずでこの調子とは、賞賛に値するね。そうだろ?サイトウ」
「いえ、別に。しかし、こんなにも生命力の強い人間は初めて見ました。ドラゴニュートである可能性も高くなってきています。その点では喜ばしいことですね」
「君、我が子のように育てたタケルにあんなにも呼ばれ続けても何も感じないのかい?」
「感じません。そもそも我が子のように育てた気はないので。私は与えられた役を全うしただけです」
「はっはっはっはっはぁ!実に面白い!タケルが聞いたら絶望するだろうね!」
「いっそのことそうした方が覚醒を加速させるかもしれませんね。やってみますか?」
「いやいや、まだ少し待とう」
「ですが、我々人類にはもう時間が無いのですよ?」
「それは順々承知だが、過度なストレスで死んでもらっても困る」
「…それは、そうですね」
「そうだろう。暫し待つとしよう」
『ヒュー、ヒュー、ゴホ、お母…さん。ヒュー、ヒュー。お…母…さ…ん…』
「…可哀想に。呼吸もままならなくなってきている。このままでは死にはしまいか?」
『ゴホ、ゴホ、ゴッホゴホ、ヒュー、ヒュー、ゴホゴホ、ゴホ、ガハァ!』
ビチャ…
「おう、吐血してしまったか。次の候補を探した方がいいかもね、サイトウ」
「既に何人かの目星はついています」
「そうか。君は仕事のできる女だな」
――――――――――――――――――――
もう、どのくらいの時間が経過したのか分からない。何度叫ぼうとお母さんは僕の前に現れない。始めはうるさいほど鳴っていた心臓の音も全然聞こえない。僕はどうなってしまうのだろうか。
さっき、血を吐いた。まだ口の中に血の味が残っている。頭も前よりズキズキする。このまま死ぬのだろうか、僕は。きっとそうなのだろう。
死。全ての終わり。本で読んだことしかないが、僕はそれだけ知っていれば十分だ。
もう死ぬならせめて見てみたかった。白でも黒でもない、青い空、青い世界を。
『見タイカ?』
…え?今の声は誰のもの?それなりに長くここにいるから誰もいないことは知っている。
『ドウナンダ?見タイノカ?』
もし…もし見れるなら、見たいけれど…僕はもう、死ぬ、から。
「ハァ、ハァ、ああ…見たいよ。ゴッホゴホ、見たくて…たまらない…よ。でも、無理なん…だ…」
『ソウカ。マダ諦メルナ。待ッテイロ』
――――――――――――――――――――
時刻は午前0時過ぎ。龍牙城遺跡が火を噴いた。原因は不明である。突然地面が割れ、そこから火柱が立ち昇った。高さはおよそ30メートル。
火柱は数分の内に収まったが、周囲を覆う森に火が引火した。瞬く間に森を燃やし尽くした炎だったが、不思議なことに民家には行き渡らなかった。そのおかげで負傷者は0。目撃者の証言によると、何かが割れ目から飛び出し、南の空に飛んで行ったという。
――――――――――――――――――――
さっきのは一体なんだったんだ。夢?走馬灯というやつか?
その刹那、物凄い轟音と共に天井が粉々になって落下した。
空が崩れて光が差し込んだ。
『待タセタナ』
本で読んだ。こいつの名前は、ドラゴン。ドラゴンが、僕に新たな世界を見せた。
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