第一王子は鳥に問う。誰が王様になるべきか?

秋雨千尋

消去法は悪いことじゃ無い

 悩める第一王子は、森の中にやって来た。

 凄腕の占い師に会うためだ。

 左右に分かれた道の真ん中に小屋があり、王子がたっぷりエサを捧げると、中からチョコンと白い鳥が顔を出した。


「ふむ、王様になる自信がないと」


「全てが平凡な自分よりも、ふさわしい人がいる気がします」


「ふむ、具体的には?」


「姉です。優秀で決断力があります」


「ふむ、ならば姉王の治める国がどうなるのか見てくると良い。右に行きなさい」


 王子が言われた通りに歩いていくと、森の中が陰気な街並みへと変わっていった。

 ガリガリに痩せ細り、道でボーッとしている者。

 乱れた服装の女が客を呼び、ガラの悪い輩が暴行を加え、集団で何かを吸っている人達もいた。


「これは一体……」


 王子は暗い目をした物乞いに話しかける。


「女王様が、選ばれし人間しかいらないと。心身に問題がある者、貧乏人、犯罪者は全てこの区画に押し込められました」


「なんて酷い事を……」


「同情するならお金を入れてくだされ」


 王子は泣きながら来た道を戻った。

 元の十字路では白い鳥がのんびりエサを食べている。


「やはり弟にします。剣の天才です」


「ふむ、ならば弟王の治める国がどうなるのか見てくると良い。右に行きなさい」


 森の中は焼け野原へと変わった。

 破壊され尽くした街並み、焼け焦げた死体があちこちに転がり、わずかに息のある者たちのうめき声が聞こえる。

 王子は壊れた戦車の中に隠れていた子供に話しかけた。


「王様が友好関係にあった隣国にいきなり戦を仕掛けて、返り討ちにあって、たくさん、死にました。わあああん!」 


 王子は吐き気を覚えながら来た道を戻った。

 元の十字路では白い鳥が桃色の鳥にエサを分け与えていた。


「妹なら間違いないはず。天使のように可愛くて国のアイドルです」


「ふむ、ならば妹王の治める国がどうなるのか見てくると良い。右に行きなさい」


 森の中はひんやりとした空間に変わった。

 見渡す限りの墓、墓、墓。王子はたくさん探し回り、やがて美男の墓守を見つけた。


「姫王様は、美しい人間しかいらないと大虐殺をなさいました。もう国民は百人もおりません」


 王子は割れそうなほど痛む頭を押さえながら来た道を戻った。

 元の十字路では白い鳥が、桃色の鳥と青い鳥を両側にはべらせて満足そうにしている。


「ふむ、その顔は答えを見つけた様子」


「……はい。ありがとうございました……」


「ふむ、では左に行きなさい」


 森の中は王城の廊下に変わった。病に苦しむ父王の部屋を訪れた王子は、弱ったその手を掴んで告げる。


「父上、この国は自分がしっかり統治します。生まれや容姿に関係なく、誰もが豊かに暮らせる国となるように」


 父王は笑顔を浮かべて安らかに眠りについた。

 そうして平凡な第一王子は、平凡な王様となり、国民は平凡な日々をのんびり過ごすのでした。



 終わり。

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第一王子は鳥に問う。誰が王様になるべきか? 秋雨千尋 @akisamechihiro

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