第二七話 河川防御陣と貌の無い敵手
その数日後、小都市レガリアから約4kmの地点まで迎撃に出てきたベルクス王国軍、
彼らは地図上でミルディアと
「…… 河川防御陣か、リアナ」
「はい、
次第に慣れてきた事もあり、俺にも
「ん… 周辺一帯の農耕を支えている川で、街道には
「渡河は普通に可能だな、ガルフを呼んでくれるか?」
「適任だと、思います」
僅かに思案してから深く頷いたもう一人の魔女が傍を離れ、あまり運動神経が良いとは言えないため、多少もたつきながら魔人兵達の合間を縫っていった。
姉と
ただ、ハイ・コボルトである彼は大陸共通語を
(まぁ、双子の魔女がいれば早々に困りはしないが……)
この先も亜人種と歩むなら、共通語を使わない種族との関わりも避けられないため、何処かのタイミングで博識な吸血姫に御教授を願うべきかと少々思案する。
動き易い革鎧と士官用の外套を
「クァウルグ、グルゥオァン?」
『クラウド卿、俺に用事か?』
透かさず通訳してくれるレミリの言葉を聞き取り、静かに頷いてから敵陣の手前を流れるミルディア川に言及して、夜間の偵察を引き受けてくれるように頼んだ。
それに逡巡したガルフは少しだけ顔を
「ガルァクゥオオゥ クゥワ ウォアガォウゥ、ヴォオルァウゥ……」
『体毛が濡れるのはあんまり好きじゃなくても、致し方無しか……』
「すまない、偵察隊に加わる者達の夕食に干し牛肉の塊を提供しよう」
「ワゥ、ガルァウォン、ヴォルオァアゥ?」
『まぁ、有難く頂こう、話はそれだけか?』
「時間を取らせたな、駐屯地の設営に戻ってくれ」
手短に
できれば眼前の敵勢を蹴散らすか、若しくは痛打を与えた上で別行動に移りたかったものの…… 一夜明けて聞かされたコボルト偵察隊の報告により、その方針は転換を余儀なくされてしまう。
「川底に陶器片や岩が散乱していたと?」
「ワフ、ガォルァオウゥ ガウゥ」
『あぁ、人馬での渡河は厳しい』
渋い顔をした相手の口調まで真似して、天幕に居合わせたリアナが取り成してくれた言葉通り、人為的にばら撒いたであろう陶器を踏み抜けば馬でも人でも足が傷付く可能性はある。
それでなくとも見え難い川底の障害に
「街道の橋を封鎖して河川へ誘い込み、
「ベルクス側にも機転の利く将兵がいますね、クラウド様」
思い浮かぶ範囲では多少の面識もある傭兵上がりの連隊長ダレス、戦争狂いの令嬢ゼノヴィアあたりが好みそうな手法だとは思えども確証は持てない。
相応に戦術的な思考ができる者が敵勢の中枢と仮定すれば、
(“利が明確に
幼少期に世話して貰った故郷の酔っ払い、もとい老軍師より受けた
「グルァ グォオウ?」
『
「少し長丁場になるかもな、
可愛らしい少女の外見通りに年若いが、領軍在籍の自種族には優れた魔力と資質を認められているため、自身が不在でも調練の指揮に関する心配は無いだろう。
余計な注文は付けず身支度を整えていると、いつの間にやら毛皮の敷物から腰を上げていた魔女が傍に寄り添い、クライベル家の紋章があしらわれた軍用外套をそっと肩に掛けてくれた。
「いってらっしゃいませ、昼食には顔を出してくださいね」
「ガゥッ、ワォアルァウ! (ははッ、まるで
口端を釣り上げたガルフの発言は意味が分からなくとも、赤面した相手と雰囲気で
途中、都合よく
北西領軍から攻勢に出ることは固辞して、川底の仕掛けを逆手に取り、弓兵隊及び魔人兵隊を前面配置する運びとなった。
ベルクス側の二個連隊も自ら設置した罠へ飛び込み、流水と足場の悪さに苦戦して狙い撃ちされる失態など犯さないだろう。
数日間の
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