第二一話 世界は極小の生物で満ちている
「…… これが “ジャガイモ"」
「えぇ、単位面積あたりの生産性は “小麦の三倍” だと、
“多分、まだ彼の時代は科学が未熟だから、適当に言っただけでしょうけどね” などと
何でも、当初は貴族が
「何処の世界だろうと、貴族連中は
「美味しいなら、問題ないんじゃない? この前、姫様にご褒美で頂いた “じゃがバター” とやら、もう一度食べたいです♪」
どさくさ紛れと言うべきか、肯定的な言葉に
その姿に人狼公ヴォルフラムの座所でアイスクリームを作った時、延々と金属容器を振らされた件など思い出していると、しゃがんで手頃な大きさの物を見繕っていた鹿人のメイドが立ち上がり、そっと藤籠を主に差し出した。
「これくらいで宜しいでしょうか……」
「ん~、ちょっと多いかな、マリィの分も入ってる?」
「初見の料理なので、私が毒見するのは当然です。えぇ、当然ですとも」
堂々と
途中、スープのおたまを掲げ、料理の指揮を執る藤白髪の魔女と視線が絡んだ。
「クラウド様~、ご飯にしましょう!」
片手を振ってきたリアナの傍で魔人達が頷き、“ガゥガゥ” と機嫌よさげに咆えた
結束を深める観点から、“同じ釜の飯を喰らう” のは
「すまない、エルザが先約でな」
「むぅ、そうでしたか、お気になさらずに行って下さい」
やや残念そうな魔女と短い言葉を交わして、僅かに止めていた歩みを進めようとすれば… 何故か、訝しげな吸血姫がジト目を向けていた。
「…… 領軍再編の
「純粋な魔力の過多と素直さだ」
我の強そうな者を抜擢すると、命令無視まではいかずとも新参者の三騎士
独断専行は部隊運用を乱すので性格も重視した結果、偶々目に留まったのがリアナなのだが、にんまりと笑った赤毛の騎士令嬢が
「ふ~ん、従順な娘が好みなんだ、クラウド」
「あうぅ、
「そう言われても他意は無いからな、理知的なのも悪くないと思うぞ」
冷やかな視線を投げてくる鹿人のメイドに無言で
「
「ありがとう、レイノルド。じゃあ、パン焼きは任せるわね」
「運良くイーストが御座いましたので、上手く焼成できる筈です」
言葉と共に向けられた視線を追うと、メイド達が作ったという白い粘土状の塊があり、思わず意識が吸い寄せられてしまう。
「それ、生きているのよ。パンと相性の良い酵母菌だから」
自然な動きで吸血姫がイーストを摘まみ千切り、近くに見せて熱心な説明をしてくれるものの、目視できないほど微細な生物の話など理解の範疇を越えている。
食べて大丈夫なのかと問えば、そもそも世界は微生物に満ちており、体内にも腸内細菌などが存在すると
「あははっ、姫様の言葉を一々気にしてたら切りが無いよ」
「アリエル、その態度は地味に傷付きます」
少し
なお、手間暇掛けたイーストをパン生地に混ぜておくと、ふんわり柔らかな格段に美味しいパンが焼き上がるとのことだ。
「さぁ、お喋りは
一通りの
「そっちに包丁があるから、四等分くらいに切ってね」
「皮は付いたままで良いのか?」
「別に構わないわ、アリエルは火の準備を御願い」
「属性魔法でチャチャッと点けちゃいますね」
「不覚です、声が掛かるのを待っていたら放置された模様。姫様、許すまじ……」
「その、なんだ、私を手伝ってくれんか? 玉葱のスープも用意したいのでな」
頼れる部下の恨み言を拾った老執事の
例によって主の食事中は給仕に徹したいとレイノルドらが主張し、冷めれば “じゃがバター” の美味しさが損なわれると、必死に訴えた吸血姫との攻防もあったが……
厨房の前を通り掛かった猫人族のメイド二人に仲裁され、別室で食べるという妥協案の採用となり、給仕は他の者達が受け持つことになった。
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