第二二話 古城の食卓にて
そんな
なお、保存が利く
「舌の火傷に注意してくださいね」
「熱いです、とても熱いのです」
恐らくは種族的に猫舌であろうメイド達の老婆心を聞き流していると、軽やかに両手の指を組んだ吸血姫が瞑目する。
「良い食事を……」
行軍中は
「うぅ、それを最初にいきますか」
「…… 熱いのに」
胡乱な表情で呟いた猫人らを見遣り、古城のメイド達は
「ん… やっぱり美味しい、芋を焼いただけの料理なのにね」
「ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ。クラウドも食べてみてくれる?」
「食欲を
手料理を褒められて上機嫌な吸血姫に促され、
素材に蕩けて染み込んだバターが塩分で引き立たされ、噛むたびに濃厚な味わいが感じられた。
「どうかしら?」
「あぁ、普通に旨いな」
「でしょう! 油で揚げても美味しいの、今度作って… あげられないわね」
以前、フライドポテトなる逸品を試みた際、跳ねた油で手を火傷したこともあり、作ろうとすれば
「たかが火傷なら
「その過保護っぷりは爺さんらしいよね~」
「ともあれ、“ジャガイモ” の良さが伝わって嬉しいわ。生産性も高いし、暗がりで土に寝かして保存すると、涼しい時期なら半年は持つの」
さらりと衝撃的な事実が告げられ、意図せずに食事を取る手が止まってしまう。
厨房で調理しつつ聞いた春秋に収穫する二度芋、条件次第で育成可能な三度芋の話を考慮したなら、“ジャガイモ” は一年を通して “いつでも食べられる” 作物となる。
「西方諸国の食料事情を激変させるつもりか、これは麦類のような主食になるぞ」
「えぇ、痩せた土地でも育ちやすく、食用部分が地中にできるから鳥獣被害は少ないし、小麦と比較して倍以上の収穫効率が見込めるわ」
得意げな “吸血姫の学士” エルザの発言により、
幾つかの事柄を想定した後、上品にスープなど嗜む彼女に疑問を向けた。
「確か、“ジャガイモ” の芽には毒があるんだったな? 過度の致死性があったり、極端に栽培が面倒だったりしないのか?」
「ん… グリコアルカロイドの一種、ソラニンが含まれてるから注意は必要ね、実は皮にも同系の毒素はあるのよ」
「待て、切るときに皮付きで構わないと言ってたはずだが……」
「え゛、姫様、もう結構食べちゃってんるですけど!?」
「勿論、それは大丈夫よ。適切に保存していたからね」
“私も普通に食べてるでしょう?” などと
ただし、収穫後に直射日光を浴びさせてしまうと皮の緑化が進み、その含有量は10倍以上に達するため、油断しないようにと釘も刺される。
「身体の小さい子供だと一日当たりの摂取許容量が大人の半分以下だから、基本的に “ジャガイモ” の皮は食べさせない方が良いのよ」
その経緯から、最初に教えられた “悪魔の根っこ” という不名誉を
「事前に聞いておくが、知らずに芽などを食した場合の中毒症状は?」
「下痢・嘔吐・腹痛・頭痛等ね、大量に摂取しない限りは軽微だけど」
列挙された諸症状はあくまで人間を基準にしており、強靭な肉体を持つ亜人なら、深刻化しにくいとする見解に騎士令嬢が胸を撫ぜ下ろした。
その姿に
「…… というわけで、扱いは簡単な部類に入ると思う。連作障害があるから注意も必要だけど、新しい手法を農家の人達と試しているの」
「姫様、実はベルクスとの戦役で
「あうぅ、確かにアリエルの言う通りです。 一度、畑を見に行かないと……」
やや脱力した感じの
ただ、少しの
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