第二十話 古城の菜園とナス科植物
そうして、入城から少し経った頃……
城郭内に張られていた駐留軍の天幕を拝借して、遊撃隊の皆と休んでいた俺は筋骨隆々な老執事に捕まり、抵抗むなしく拉致されてしまう。
有無を言わさず連行された城内の一室では、優艶なドレス姿の吸血姫がソファーに腰かけており、腹心の三騎士が
この場で
「初めまして、私が北西領軍を統括している吸血公エリザ・クライベルよ。虜囚の辱めを受けた
「駐留軍の総指揮を執っていたリヴェル・アルニムだ。御話の通りなら、相応に人道的な処遇を期待しても?」
「そんな訳無いでしょう、亜人を魔族扱いする奴らに配慮を求められてもね」
好機とばかりに尋ねた軍団長に向け、嗜虐的な
それは明確な美徳だが、相手次第では裏目に出て増長させる切っ掛けとなり、
「レイノルド卿、城内に彼らを留めおく場所はあるのか?」
「ふむ、そうだな、取り敢えずは地下牢に
こちらの意図を
「うぅ、冷酷になれない自覚はあるけど、これって言論封殺じゃない?」
「適材適所というやつですよ、姫様」
「あぁ、苦手なことは俺達に任せると良い」
やや
流麗な所作でスカートの裾を両手に持ち、軽く掲げながら屈んで一礼する。
「お疲れ様です、姫様。それにアリエル様と…… 誰ですか?」
「騎士侯に取り立てた元傭兵、クラウドというの」
「そうでしたか、心中お察し致します」
「城のメイドを
「あぁ、こちらこそ宜しく頼む」
「二人とも仲良くね。そう言えば聞き忘れてたけど、手酷いことをされなかった?」
「
言わずもがな、下っ端の兵士達には荒くれ者が多いため、城付きのメイド達は嫌がらせを受けたり、貞操の危機を感じたりする場面もあったらしい。
あからさまな事件が起きてないあたり、最低限の規律は維持されていたと言えるものの、
「私達の不甲斐なさで過分に苦労させたわ、
「いえ、滅相も無いです。普通に気まずいので止めてください」
鹿人のメイドが軽い溜息を吐き、思案するように一瞬だけ視線を泳がせてから、話の矛先を変えるべく言葉を切り出す。
「色々と報告はありますけど… 出陣前、気に掛けていた菜園の “ジャガイモ” は健在です。ご指示通り、駐留軍の方々には新大陸原産の観賞植物だと伝えておきました」
「ふふっ、似て非なる
相好を崩した吸血姫によれば、それは驚異的な生産性を持つナス科の作物らしいが、
こちらの世界と同じく、 “下界の平面構造” を定めた天動説が歴代教皇に支持されていた事もあり、“下界の球体構造” に基づく地動説を裏付けるような新大陸由来の物品に対して、宗教家の批判が集まったのだろう。
「取扱いには注意が必要だな、こっちでも厄介な連中を煽ってしまいそうだ」
「別に良いんじゃない? ポルトスの港町まで種芋を買いに行った時、街の交易商は気に留めてなかったし、聖堂教会に気を
元々、犬猿の仲であるため
ほどなく辿り着いた先には見知らぬ植物が多々植えられており、外縁にはスコップやレーキなど農具の収納場所と思しき東屋も建てられている。
「しかし、菜園の中心に井戸があるとか、贅沢極まりないな」
「一応は領地を治める公爵家の令嬢だから、少し我が儘を言ったの」
在りし日の光景が想起されたのか、数十年前に他界したと聞く母親に続き、戦争で父兄も失った吸血姫は寂しげに微笑んだ。
何やら
少し屈んだエルザに身を寄せて
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